ファースト・ラブ
ー無償に与えられる愛を君へ・・・ー
(な、何よ!!その自信に満ちた笑みは・・・!!いっとくけど、今回は私が有利なのよ!!お茶のたて方だってあんたよりうまい自信があるんだから!!あんただって聞いたはずよ、先生のベタ褒め!!)
その笑みに瑠璃子はそう考え、
「まったく・・・君の『根性』には脱帽だ。」
蓮が正座しながら、ため息して、目の前で膝と手を床についた状態のキョーコに言う。
「が、しかし、そのポーズで演るとなると確実に勝ちはないな、美しくない・・・。演ればいいってものじゃないぞ。」
「『スタート』したらちゃんと正座します!!」
蓮の言葉にむきになって言い返すキョーコに彼はまた溜め息をした。
「どれ・・・あんまり無理はさせられないが、ああまでいうんだ。どこまでやれるか見せてもらおうか。」
そう言って新開は椅子から立ち上がり、
(そうよ・・・大丈夫・・・なにもできるはずがないわ。実際、今、正座もできないくせに!!あんなのでまともに演技なんかできるわけないじゃない!!)
瑠璃子はキョーコを見ながら腕を組んで、
「この勝負は瑠璃子ちゃんの勝ちかな。」
「あぁ~~もう、あの状態で辛そうだもんな~~。それに瑠璃子ちゃんの茶道、結構様になってたし、『こだわり』の新開監督としては何につけても『役者本人がこなせる』っての、ポイント高いよなぁ。」
(そう・・・だから、今回は私の勝ちーー!!)
スタッフの意見に瑠璃子は自信満々に心の中で言った。
彼女がそうしてる一方、キョーコは目を閉じて足の痛みと闘っていた。
(大丈夫・・・大丈夫・・・。)
『キョーコちゃん』
閉じていた目を開き、キョーコは幼い頃を思い出す。幼いときの自分の目の前には女将さんがいて、
『お客様の前に立つ以上、お客様にはにこにこしてなあかんぇ。』
(お客・・・)
『どんなに体調が悪うても顔に出したらあかん。』
(今、私の目の前にいるのは・・・。)
「スタート!!」
カチン!とカチンコの音を合図に
(お客ーー!!)
スタッフ、新開、瑠璃子、そして、蓮はキョーコに目を奪われた・・・何故なら、正座をしても彼女が微笑んでいたから。
「笑ってる・・・何事もなかったかのように・・・。」
「見かけほどいたくないのかな・・・。」
キョーコが微笑んでるため、スタッフはそう思い、瑠璃子は唖然としていたが、
「痛いにきまってるじゃねーか。」
新開のその言葉に瑠璃子はそっちに振り向く。
「あの子・・・」
(面白い・・・)
「根性は既にプロ級だ・・・。」
キョーコの根性を気に入ったのか、興味を示したように新開は笑い、
(監督・・・!!)
その言葉に瑠璃子は胸騒ぎしたが、新開のように根性を気にいった人物がもう一人いた。
それはキョーコの微笑みの先にいる蓮だ。さっきまで真顔だったが、口元が微かに笑う。
そして、キョーコは素早く茶をたて、振り袖を押さえながら、それを蓮の前にへと出した。
「うまい・・・素人の目からみても・・・。」
「瑠璃子ちゃんは様になったけど、こっちは板についてる・・・。」
「そうか・・・キョーコちゃんが習った習い事って茶道だったんだ。」
キョーコの茶のたて方がどうみてもプロ並みであり、彼女が習ったものの正体に気付く。
一方、瑠璃子は震えながら拳を作って
(なに・・・これ・・・何よ、これ!!ずるい!!あの子・・・!!私より自分のほうが上手いって分かってて手の内を見せないなんて・・・!!)
そう考えたが、あることに気づいてはっ・・・!とし、
(私より、上手い・・・?)
「あ・・・。」
キョーコが茶の間のセットに上がる前に自分に見せた笑みを思い出す。
(あったんだ・・・初めから、私に勝つ自信ーー!!)
そして、彼女が見せた笑みの意味に気付いた・・・。
「今朝・・・鈴鳴岬に行きましたよ。」
そうしているうちに、陶器に入った茶をくるくる回しながら、蓮は台詞を言い、
「本当に風が鈴の音に聞こえるんですね。」
「ええ・・・そうみたいですね・・・。」
彼の台詞に寂しそうにキョーコは答えたが、茶を飲んでいる蓮の動きが止まったため、
(・・・?)
キョーコは不思議に思って彼をみると蓮は刺さるような目で自分を見ていたため、キョーコは目を見開いた。
そんな蓮とキョーコをみた新開は、おっ、と驚いた顔をし、
「これはいい・・・」
はは・・・と笑って、
「・・・行ったこと、ないんですか?」
ふーと息をついて、蓮は指で口元を拭いながら、キョーコに聞くと
「ええ・・・!」
力いっぱいに答えたが、そこで彼女はわれに返り、
(しまった・・・!!ここは確か、寂しそうに微笑みながら静かに言う台詞・・・!!力いっぱいに答えてしまった!!)
「一度も?」
「ええ・・・。」
(よ、よし・・・!今度はOK。)
台本どおりに演技をしたが、
「珍しいですね。この土地に住んでいて・・・何か・・・」
空になった陶器を畳に置いてキョーコに差出し、
「理由でも・・・・?」
先ほどの刺さるような目と一緒に上目で問いてきた、それにキョーコは軽く驚いた表情をし、
「蓮の奴・・・本気であの子の相手をしている。」
蓮とキョーコを見て、新開は嬉しそうな顔をして言い、瑠璃子はショックを受けた。
(お芝居の事はよくわからない・・・でも・・・私の時とは違っていることくらい分かる・・・。)
瑠璃子は自分の演技テストを思い出していた。明らかに自分とは違う『あれ』
(敦賀さんを取り巻く空気・・・迫力が全然、違う・・・。)
それは空気と迫力で、それがなかった分、瑠璃子は彼に見とれて台詞を忘れた。
「あ・・・」
分かった途端、瑠璃子は血の気が引き、
(それって・・・もしかして、敦賀さん、あの子を選んだのーー!?)
そう言う考えが浮かんだーー。