ファースト・ラブ

ー無償に与えられる愛を君へ・・・ー


「君がこれから入るセレクションは恐らく肉体的にも精神的にも決して楽ではないだろう。」

そう言うのはローリィで、キョーコは社長室に招かれていたが、

「しかし、他人を敬い他人を思える心をはぐくまなければウチでの君のデビューはありえない。君には他人に愛される仕事をする自信があるかね?」

「いえ・・・全然。ありません。」

ローリィの問いに正直に答えるキョーコ。

(馬鹿ものぉ!!こういうときは嘘でも「はい」って言っとくんだよーーー!!)

そんなキョーコに椹は顔を青くさせたが、

「でも・・・以前はそういう人間でした・・・人に愛されたくて人に喜んでもらえるようにやる・・・あの頃の私、健気すぎてあきれる

くらい、この世で一番、馬鹿な子供でした。」

キョーコは子供のころのことを思い出しながら話し、

「今は誰かのためにそんなこと・・・そんな風にしか思えなくなってます・・・。」

そこで言葉を切ると

「・・・でも、一度できたことはリハビリすれば治ると思うんです!!」

キョーコはまるで怪我や病気のことのように言う。

((・・・そんな病気か怪我の様に・・・。))

ローリィと椹も思わず心の中でつっこむ。

「お願いします!人間として欠けたものを取り戻すチャンスを私にください!!」

キョーコがそう言うとローリィは微笑んで

「・・・もちろん。」

「!!」

「君の返事がどうであれ、最低一年は様子をみるつもりでいた。」

彼女の前に小さな箱を置く。

「活動するときはこれを携帯しなさい。うちの事務所でも何人かに持たせてはいるが、もっていないほうが多い。」

「・・・あ、スタンプ。」

箱をあけ、中をみるとスタンプが何種類か入っていて、それをキョーコは手に取る。

「そう、そしてそのスタンプは、これに・・・」

ローリィはそう言うとキョーコにハート型のメモ帳のようなものを渡す。

渡されたキョーコの顔はすぐに青くなった。なぜなら、ラブミー部のデザインが施されているから。

「押してもらうようにね。始めのうちは裏での仕事が多いかもしれないが、なにそのうち、テレビにも映れる仕事が入ってくるぞ。」

「ほ、本当ですか!?」

「もちろんだとも。しっかり頑張りたまえ。」

「はい!!私、頑張ります!!」

顔を青くしていたキョーコだったが、ローリィの言葉に元気を取り戻し、晴れた顔でそう言った。

「・・・ふふ、人間として欠けたものを取り戻すチャンスか・・・」

(あの子はやはり・・・何か意表をつくことをいうよなぁ・・・。)

キョーコと椹がいなくなった後、ローリィは一人そう思う。

(ただ・・・何故あの子がその人間としての感情が欠けたのか気になるところではあるが・・・。)

そして、何故キョーコが人間としての感情が欠けたのかを気になった。

「よーし、頑張るぞ~~~!!」

その頃、キョーコは真新しいラブミー部の部室にいた。

「このセクション、思いのほかおいしいセクションみたいなんだもの!」

(私はただLMEに入れるキッカケを掴めればいいと思ってたのに・・・)

「いきなりテレビに映れる仕事ももらえるセクションよ!!これは、もしかしらスピードデビューも夢じゃないわ!!このセクションの名前だって『ラブミー部』で~すって名乗らなければ恥ずかしくないし。今のところ恥ずかしいのはあのスタンプ帳くらいだけだしね~~。」

鼻歌を歌いだし、指定された『服装』と着替え始めたが・・・

「・・・椹さん・・・」

胸を隠すように椹の前に立つキョーコ。その顔はすごく青い。

「ん?なにかな・・・?」

本人は明らかにわかっているんだが、はぐらかすように聞き、

「あの・・・私・・・これ・・・」

震えているキョーコ。その後ろにいる人たちはくすくすと彼女をみて笑っている。

「どうしても着なきゃいけませんか~~~!?」

それもそうだろう。キョーコが今着ているのは、目に痛いドピンクつなぎだから。

「まーまーそう言わず、よく見ると・・・左胸はおしゃれに、背中はゴージャスに、LOVE・MEプリントが施された可愛いユニヒォームじゃないか・・・。」

心にも思ってなさそうにそう言う椹、それを見た彼女は

「・・・その顔、本気で可愛いなんて思ってない・・・。」

ぐすっと泣く。

「まあまあ、そう言わず、社長が用意してくれたんだから。」

(は、恥ずかしい~~~!!!)

椹はそうなだめるが、キョーコは恥ずかしくって沸騰したように顔が赤い。

「どうして、こんなにラブミー部に力が入ってるの~~~社長さん~~~!!」

「あの人・・・面白いと思うことは徹底するから・・・。」

(そんな・・・人を娯楽みたいに・・・。)

椹の言葉に最早悲しくなってくるキョーコ。

「あ、おーい、椹くん。ちょっとちょっと」

そこに椹を呼ぶ人物。それに気付いた二人は人物をみると

「あ、中澤くんだ。」

オーディションの時にいた、歌手部門の主任の中澤。

「いや~実は一昨日ど~しても生演きいてほしいって連中が来てさ。ルックスもいいし興味湧いたから聞いてみたんだけど、生演の間もずーっとウ゛ォーカルの奴はガム噛んでるし、曲も歌も使えねーしで駄目出しして帰したんだよ。するとだ・・・」

話しを聞きながら、椹とキョーコは中澤についていくと廊下の床にこびついて変色したガムが三箇所。

「あ~~ああ~~。」

それみて、悲惨だなと思う椹と

「・・・。」

ただ、黙っているキョーコと

「腹いせにめい一杯に踏んで擦ってすりついていきやがったみたいでさ。」

説明を続ける中澤。

「ガムがまた床と保護色で今日まで気付かなくて、結構頑固にごびりついてんだよねぇ~~で、ラブミー部が活動しはじめたって聞いたから。ちょうどいいかな~~って思って。」

「なるほど~それはおあつらえみきだ。」

あははと笑う、主任たち。

(・・・何がよ・・・。)

それを聞いたキョーコは正直、頭にきた。だが、断る権利もなく・・・そんな訳で、ラブミー部でのキョーコの初仕事は、

頑固なガムのはぎとり掃除。

(そりゃあ、こんだけこびりついてりゃあ、たとえ気付いてたって誰も好んでこんなガムに挑まないでしょうよ!!まさか、ラブミー部が活動始めるまで待ってたとか・・・!?)

ガムに挑みながら、そう思うキョーコ。やっぱりその後ろでは笑う人々がいて

(何にしても・・・!!こんな最低マナー犯していった馬鹿男が憎い・・・!!馬鹿男がこんなことしなきゃ、私はこんな

見せ物にならなかったし、こんな仕事もしなかったのに~~!!)

「くう・・・・馬鹿男・・・っっ。ショータローの次にあんたが憎い~~~!!!」

めくるめく妄想の中、キョーコは見知らぬ男をけりまくる。