ファースト・ラブ

ー無性に与えられる愛を君へ・・・ー



(な・・・何・・・!?)

何故なら、キョーコが邪悪なオーラを出しているから。

「こ・・・これはすごい殺気だ!!」

俳優部門の主任もそのオーラに気付く。

「やり直す・・・?」

ふふ・・・と静かに笑うキョーコ・・・だが、我に返ったように

(はっ・・・!?ちょっとまって!このままじゃだめよ!今、一瞬「『ごめん』で済んだら、この世に地獄は

いらないのよーー!!」って叫んで携帯打ち付けたくなったけど、このままじゃ絶対に落ちるわ!!)

考え直したと思うと静かに目を閉じて、一秒経ったと思うとキョーコはゆっくり目を開けた・・・。

「・・・やっと私をみてくれた。」

そう言うキョーコは笑っているが儚く、瞳に光がない。そんな演技にローリィは目を奪われ、

「子供のときから、私はずっとみてほしかったのに・・・今頃、なんでそんなことを言うの・・・?」

その光のない瞳でキョーコは泣き出す。

「もういい・・・!もう、あなたに振り回されるのはもうたくさん!!」

そして、泣きながらに叫んで

「さようなら・・・。」

キョーコは耳から携帯を離し、持っている右手を下ろした。

「おお・・・!!」

本当は和解をしなければならないのだが、そんなことをすら忘れてキョーコの演技に主任たちは関心し

奏江はその演技に目を見開いて彼女を見ていたが、ローリィは何かを考えるようにキョーコを見つめていた・・・。


キョーコの演技に彼女が一次審査を突破するものと誰もが思っていたが、

「いや・・・彼女は駄目だ。」

ローリィがそれを認めなかった。

それをキョーコも一次審査通過者発表をみて知る事になる。

(どうして・・・?そりゃあ、あそこはモー子さんみたいに和解しなきゃいけないんだと思うんだけど、うれしいって言って、泣いて微笑むだけじゃ、あの人以上に目立てるわけがないし。それに・・・あれが私とっての最高の演技だった。だって、あれを久遠に見立てることなんてできないから。実際、ジュリエットを演じていた時はロミオを久遠に見立ててやってて、久遠が死んだって思うと悲しくって仕方なくて、後は台本どおりにやるだけだし・・・。)

頭の中でぐるぐる落とされたわけを考えるキョーコ。

(何故・・・)

結果を見てる奏江もキョーコが一次審査を突破するんじゃないかと思っていた。

なのにこの結果。奏江も納得できなかったが、

(って・・・なんで私がこんなこと気にしてるのよ!!あの子が落ちるのは分かってたことじゃない!!)

首を振って、考えを吹き飛ばして、キョーコのほうにへといく。

「・・・やっぱり、落ちたわね。」

「!!」

びっくりしたキョーコは振り返ると奏江がいる。

「だから、私が予告してあげたじゃない?何を落ち込むことがあって?」

腕組んでくすくすと笑う、奏江にキョーコは

「あ、あなたと比べられて落とされたんじゃありません!!」

反論するが、

「じゃあ、どうして落とされたのかしら?」

「そ、それは・・・その・・・。」

彼女のほうが上手で

<一次通過者の方はこちらへ・・・>

「あ、大変行かなくちゃ。」

「ちょ・・・っ」

会話をきられ、奏江は通過者たちが入っていく部屋へと歩いていたが突然止まって

「・・・あ。そうそう、もう会うこともないでしょうね。ごきげんよう。」

にっこりと笑顔を見せてから、スキップして部屋へと言った。

「~~~~~~っつ。」

もちろんそんな笑顔を見せられたキョーコはむかつく。

(・・・納得できない。私が落ちた理由ってなに!?)

キョーコはまた必死に落とされた理由を考えていると

「最上君。」

誰かに後ろから話しかけられたため、彼女は振り返る。

「あ、椹さん・・・。」

後ろにいたのは椹で

「ちょっといいかね?」

「あ、はい。」

キョーコは彼に連れられるまま、移動した。



椹に連れられたのはLME社内お休み処で、キョーコは椹の向いの席に座る。

「・・・オーディションの結果、残念だったね。」

「・・・はい。」

椹に言われて、ようやく落ち込み始めるキョーコ。

「で、本題に入るんだが、社長が言っていたんだ、君は『芸能人』にとして、欠けている感情があると。」

「え・・・。」

椹の言葉にキョーコは意味が分からない。

「・・・君は『愛』と聞いて最初に何を連想するかね。」

「無駄な努力です!!」

訊かれたキョーコは即答。それを訊いた椹は深いため息。

(え・・・?!)

けれども、キョーコは椹がなぜ、ため息するのかわからない。

「いいかい?芸能人っていうのは観衆に望まれてこそ生きていける。愛されてこそ成長し続けていける。観衆だけじゃない、

スタッフに嫌われて潰れる芸能人も少なくないからね。つまりは、社長曰く、プロとして業界で大成したいなら、常に観衆を愛する心、観衆に愛されたいと思う心を忘れるべからず。ってなわけで・・・」

軽いため息をもう一回つき、ローリィの心構えを言う。それを訊いたキョーコは

(愛する心と愛されたいと思う心・・・それ・・・昔、ショータローの旅館でよく聞かされた・・・。)

過去に言われた女将さんの言葉を思い出す。

『・・・キョーコちゃん、お客さんの前に立つ以上、お客さんにはいつもニコニコしてなきゃあかんえ。どんなに体調が悪うても、

顔に出したらあかん。ウチらの商売はお客様に「きて良かった。」「また来たい」思てもろてやっとなりたつ商売やさかい、

お客様にウチの旅館を愛してもらいたい言う気持ちを大事に、同時にお客様に愛してもらおう思うたら、ウチらがお客様を

愛する気持ちを忘れたらあかん・・・。』

(『客商売』・・・それは芸能界も同じ・・・。)

「ってなわけで、社長はそこを重視しているんだが、俺と松島君としては・・・」

(駄目だ・・・私には・・・)

「椹さん・・・」

名前を呼ばれた椹はキョーコをみたが、彼女の表情が曇っていることに気付いた。