ファースト・ラブ

ー無償に与えられる愛を君へ・・・ー


あれからキョーコは久遠に連れられ東京にきて、

「お邪魔します・・・。」

靴の脱ぎながら、久遠のマンションへと脚を踏み入れるキョーコ。

「うわー広い~無駄に。」

中を見渡して、キョーコは遠慮ない感想を述べ、

「あはは、確かに一人で使うには広すぎる気がするけどね。」

彼女の荷物を持っていた久遠はそれをソファーの上に置き、苦笑いして同感する。

「コーヒーでも飲む?」

「あ、うん。」

久遠の心使いにキョーコは素直に頷く。

それから、久遠はキッチンに入り、インスタントのコーヒーをティーカップにへと淹れていき、

「はい、どうぞ。」

「ありがとう、久遠。」

出来立てをソファーに座っていたキョーコに渡してから彼女の隣に座った。

「美味しい。」

砂糖とミルクを入れて、キョーコはコーヒーを飲んで感想を言う。

そんな彼女を久遠は優しく見つめてたが、キョーコが何かを考え始めたので

「どうした、キョーコ?」

聞いていてみるとキョーコは久遠のほうをみて

「あのね、久遠・・・話しがあるの。」

そう言った。

「何?」

「私、芸能界に入るっていったよね?」

「うん、言った。」

「それでね、考えたんだけど・・・私達、芸能界では『他人』になる必要があると思う。」

「・・・そうだね・・・俺もそうは思ってたよ。」

「私達の関係は、マスコミにとって餌にしかならないもの。それに私は誰かのお陰で仕事を取るようなことはしたくない。」

「まあ、それは同感だ。」

かつて、久遠はクーの息子だから、とか、ジュリエナの息子だから、とかの理由で仕事をもらっていた身で、

それがどれだけ屈辱だったか、久遠が身にもって知っている。だから、キョーコに同じことを味あわせるなんてしたくなかった。

「自分の実力で上に行きたい。それに久遠の足手まといにはなりたくないもの。」

そう言って最後に微笑む、キョーコ。

その言葉に久遠は嬉しくなった。自分を思って、考えていてくれたことに。

「キョーコ・・・。」

「あーしばらくお金貯めないとな~。」

だが、嬉しくって微笑んでくれたところで、キョーコはムードをぶち壊すことをいった。

「え・・・。」

思わず、拍子が抜ける久遠。

「だって、いつまでもここにいるわけにはいかないもの。部屋を借りるのも、家具を買うにも、お金貯めなきゃいけないでしょ?それに買いたいものが結構あって・・・アルバイト探さないとな~って・・・。」

そう言って、指を使って計算し、

「ねえ、いつまでここにいてもいいのかな?」

久遠にそうきくと

「・・・キョーコが芸能界に飛び込むキッカケ・・・再来年のLME新人オーディションまで、かな。」

彼はそう答える。

キョーコは元々、東京にきて、環境になれてから久遠が所属しているLMEのオーディションを受けるつもりだった。

「・・・そうだよね・・・それが限界だよね・・・。」

飛び込んで、もしこんなところを見られたら、すぐにキョーコは潰されるに決まっている。

「でも、それまではいいよね?」

キョーコはそう言って久遠に寄り添った。

「そうだな・・・。」

久遠もそう小さく呟いて、キョーコの肩に腕を回した・・・。

そして、場所は京都へと戻り、そこにはイライラした様子のショータローが。

「くっそ・・・!」

その場にしゃがみこんで、自分の頭を思い切りに掻き回す。

ショータローが今いる場所はキョーコの実家。

「どこに行ったんだ・・・!あいつ・・・!!」

自分の家にもう帰ってこないことを母親から聞いたのか、ここにいると思って来たらしく、

来てみたが、家は無人だった。

「まさか・・・あの外人と・・・?」

よぎるのは、彼女と一緒にいたアメリカ人。

「いや・・・そんなわけない・・・。」

キョーコの性格をよく知っているショータローは首を振って思ったことを振り払った。

「じゃ・・・一体、どこにいっちまったんだ・・・?」

そう呟いても、誰も答えてはくれなかったのだった。

それから、二ヵ月後・・・東京はクリスマスモードへとなり、

キョーコはあるものを編んでいた。

編んでいるのは、セーター。

中学を卒業するであろう時期がくるまでアルバイトもできないので、

キョーコは何かすることはないかと考えたときに数ヶ月に経てば、クリスマスがあることに気づいて、

今からでもセーターを編める事に気付き、編み出した。

編んでる時間は久遠が仕事に行っている間。

その間に、独学で中学勉強と家事もやっていた。

久遠は家事はする必要がないといっていたが、それだと気がすまないため、キョーコは勝手にやっている。

そして、一緒に過ごしていく時間がキョーコにとってとても幸せだった。今までで一番・・・。

「え・・・ホテルで食事?」

夕飯を久遠と一緒にとっていた、キョーコはきょとんとする。

「うん、もう予約はとってある。」

そんなこともお構いなしに久遠は笑って言い、

「え、でも、高いんじゃ・・・。」

キョーコはお金のことを気になりだしたが、

「お金のことはいいよ、俺がキョーコと過ごしたいだけだから。それにキョーコの誕生日だし。」

微笑んで言う彼にキョーコは何も言えなくなって、頬を赤くし頷いた。

(可愛いな・・・。)

頬を染めて黙々と夕飯を再開したキョーコの姿に久遠は破顔する。

久遠にとってキョーコは可愛くって可愛くってしょうがなかったが、キス以上のことは踏みとどまっていた。

彼女がまだ中学生であることなどを踏まえて。

それらを心に留めているため、自分の腕の中でぐっすりキョーコが寝ていていても、何とか耐えているので、

最近ちょっと寝不足ぎみ。けれど、やはり、これほどまでに四歳差を憎んだことはなかったと言う・・・。