もうよそ様の持ち物になっているのにちょっとだけ立ち寄ってみた。
子供の頃八年間を過ごした古い家だ。
手入れが行き届いて新しい家のようにもあるが、もう一〇〇年以上経っているはずだ。
自分にとっては心のふるさとなのだ。
2023-6-1 短歌 思い出 20首
幼き日過ごした家を目の前に見て戻りたる半世紀の昔
裏山を渡る北風厳しくて母と一緒に震えていた日
裏山で声響かせてイッヒリーベディッヒ声楽を学びし姉もすでに逝きたり
一日に何本しか出ないバスに乗って宮崎の声楽の先生のところにレッスンを受けに行っていた姉。いい声が裏山から坂を下った山坂にこだまして響いていました。
梨や柿ミカンにヤマモモ実りしを当然のこととのみ思えた昔
梯子段のぼって二階の物置の昔のものを見るも楽しき
ガラスに焼き付けられた写真が大量に重ねてあったり、銅鏡が使い古して転がっていたりと昔の生活道具がいろいろと仕舞われていました。
面白かったのは歌舞伎のシーンを表した佐土原人形がたくさんあったことです。表情がとても多彩でした。
九十度腰の曲がった祖母がいて草一本もはやさなかった
奈良瀬坂稲をかたげて上った日みんなで働くことの思い出
裏山の樫の木数本風を受け怪物のような音を出した日
山道を独りで歩く怖さより梟の啼く夜おそろしき
高台の家にイカズチ鳴り渡り落ちて来ぬかと恐怖に震えた
子供時代は限りなく怖いものが多かったなぁ!
すーすすーーばっかし節を作る父そばにを離れずじっと見ていた
薬草を量るチキリの目盛りみて小さい分銅をもてあそんだ日
高床のしたに置かれた御器などをままごと遊びに使った日々よ
踏み臼が隅に置かれて夜な夜なに米を精米するも日課よ
竃(へっつい)に薪をくべつつ芋がらをこそいで汁を作りし日々よ
家猫がおもちゃとなってわがそばに侍らせたくて追いかけた日々
すすが落ちレースの服が台無しと姉が嘆いた土間の天井
小みかんを皮だけ剥いてちぎらずに実だけを食べてふざけ合いし日
本丸の下の道には樹が茂り家までの道が恐ろしかった
整備された今は明るくなっていますが、当時は刀を差した武士が出てきても不思議ではないような鬱蒼とした木が茂った道でした。
盆暮の墓の手入れは入念に腰の曲がった祖母がしていた
何十もの墓石の花筒を替え花を供え線香をあげていました。私も一緒にいました。