2020.7.26 ふらんす堂刊行
大石悦子句集『百囀』より。

 こちらが勝手に大好きな作家が何人かいて(つまりファン)、大石悦子さんもその一人。古本屋を巡って句集を集めたり、雑誌の掲載句を楽しみにし、好きな句を紙に書き抜いたりしては喜ぶ。葉書をいただいたりしたらそれはもう飛び上がって喜ぶ。実際にお目にかかったのは芝不器男俳句新人賞の公開選考会の一度だけで、ご挨拶とちょこっとお話しただけ。もしかしたら憧れてる人とはちょっと距離が遠い方が良いのかもしれません。またいつの日かお目にかかりたいな、とわくわく妄想するのもファンの楽しみです。そんな大石悦子さんの最新句集『百囀』です、いやー、もうほんとに素晴らしいです。50句ぐらい書き抜きましたが、新刊なので少しだけ紹介します。特に追悼句は全て良い作品で、ブログでは紹介しきれないので、是非句集で読んでみて下さい。

大石悦子句集『百囀』

雪の降る眺めに膝を立てにけり 

あぁ、雪。美しい場面。

京焼の袖ぽつてりと陶の雛 

品と豊かな詩情が大石さんの世界。ぽつてりがまた良い。

太郎来と菖蒲一束湯に放つ 

「放つ」が美しい。多分曙ではないと思う。

正月や酒の呉春をはべらせて 

呉春は西で飲むと美味い。酒はその地元で飲むのが一番美味しい気がする。料理の味付けと合うからかな。

納骨や花びら触るる音して落つ 

前書きに「八田木枯さん納骨式 山科一燈園」とあります。上五にびっくり。美しく、哀しい落花の句。

たましひを啄む秋のかもめかな 

また来て、また来る。

みよし野の花に声して迦陵頻 

みよし野には迦陵頻がいる。

ポイントを貯めて初夢買ふといふ 

富士も付けちゃおうかな。

美濃は野のうつくしき国初蛙 

草の色の濃い、青々とした美濃。

終活は鈴虫の甕捨ててから 

中七が美しい、終活句としては最高の句。

死にいたる病に春の風が吹き 

その時に見え、聞こえる世界。妹さんの病でしょうか。

曼珠沙華曼珠沙華妹葬りきし 

忘れられないその赤。

ファクスくる初雁とのみありにけり 

お知らせはファクスで。

邯鄲や俳人の家らしくなり 

俳人大喜びの。

秋の日や金魚の金太郎も死に 

僕は子どもの頃、金魚に「金ちゃん」と名付けていました。金太郎はシンプルだけど立派な名。

椿挿す海揚(うみあがり)なる常滑に 

旧白洲邸武相荘の句。海揚の言葉のよろしさ。ちなみに僕は鶴川(武相荘がある)に五年ほど住んでいました、良い町です。

春の夜の闇を遊のはじめとす 

明るい朧夜の中を。

間違いなく今年最高の句集の一冊だと思います。

まだまだ大変な日々が続きますが、元気でいましょう。