2020.3.20短歌研究社刊行
石川美南歌集『体内飛行』

毎日毎日、辛いニュースばかりです。コロナも嫌だけど、精神もかなり疲れてきています。外に出るなと言われながら、毎日ぎゅうぎゅうの通勤電車に乗って、あぁ、何してるんだろと…。

そんな中、石川美南さんの歌集『体内飛行』を読みました。楽しいものだけを読んで、心に栄養を与えないと。とても嬉しいタイミングでの歌集です。

石川美南歌集『体内飛行』

金屛風の前に居並ぶ人たちへカメラを向けてゐる楽な役 


はい、こちら向いてくだされ、と。

カウンター席に陣取り好きなだけ唇(くち)を動かしながら読書を


これ好きな歌。僕は最近電車の中でぶつぶつ唇動かしてます、マスクだからわからないはず、多分。

眼圧の検査機の奥スライドの気球が浮かぶ 話がしたい 

その奥のあなたへ。今回の歌集で一番好きな歌。確か雑誌を立ち読み(すみません)した時から気になっていた歌。

弟はにやにやと出す 手相観てもらつて買はされた紅い石 


ありがたい、ありがい、なんか紅い石。

漠然と生きて我らは鮟鱇の不漁を梅が咲いてから知る 

へー、鮟鱇が。へー、という感じ。鮟鱇も梅も絶妙。

絵巻物の紫式部小さくて霞は横へ横へ伸びたり 


昔は何もかも淡く夢のよう。

ウエストを締め上げらるる嬉しさに口から螢何匹も吐く 

キュッキュッとウエディングドレスは。

南にはネパール料理店がありあなたと掬ふ温かい豆 

なんだか心穏やかな気分。温かい豆が魅力的。

近況を語ればぱつと手を取つて「大丈夫、良い手相ですよ」と 

おっけー、大丈夫大丈夫。だいたい大丈夫。

目を細め生まれておいで こちら側は汚くて眩しい世界だよ 


良いところもある世界へようこそ。

ミルハウザー、カズオ・イシグロ、オンダーチェ 虹を端から飲むやうに読む 

「1980-2019」の連作がすごく面白いけど、歌集で続けて読んでもらう方が面白いと思うので、たくさん好きな歌があるけど一首だけ引きました。新しい世界は虹のようなご馳走。永田耕衣に虹を吐くって句があったと思うけど、美南さんは虹を飲む人。

素敵な歌集でした。

じゃ

また