2022.12.30ふらんす堂刊行
加藤喜代子句集『暦日』


 今年ももうすぐ終わりですね。12月30日は田中裕明さんの命日だと、意識しなくても思い出すようになりました。お目にかかった事はないけど、俳句があり全句集がある、それがすごくありがたい。

 今日は出たばかりの句集、加藤喜代子さんの『暦日』を読んでいきます。「青」と「ゆう」の終刊を見届けた俳人です。

加藤喜代子句集『暦日』

枯るるなか風をとらへて補聴器は 

「とらへて」が巧い。どんな風に聴こえたのでしょうか。

水音をしるべのごとく枯るる道 

静かで清らかな道へ。

ひと偲ぶ旅に冬田やうち晴れて 

「裕明全然一周忌」と前書き。裕明さんには俳句から秋のイメージがありますが、冬晴れも似合いそうです。

巻貝のなかくれなゐに実朝忌 

実朝には海のイメージが合う。

風の出て田螺の水をかがやかす 

風吹いて、でなく「風の出て」が良い。水面の小さな揺れまで見えるようです。

ご飯粒もらふ雀を見てぬくし 

心が「ぬくし」。ご飯粒という言い方もあたたかい。

ゆび老いぬはなびらひとつ拾ふとき 

全ての美しい一瞬も、すぐに過去へ。

初夏や森は高きに花かかげ 

木の華やぐ夏へ。

梅落とす棒のうれしき男の子 

子どもは棒が大好き。「持ち」が書かれていないところが良い。

天上もけふ晴れをらむ子規忌かな 

秋空のさらに上。

鶏の駆けだす秋のはじめかな 

秋だ秋だと。

秋草に立ちて治水の昔あり 

秋草のさりげなさが良い。治水とは句で見ると良い言葉。

露けしやその名にふかく頷きて 

「夕衣博士論文出版」と前書き。加藤喜代子さんは藤本夕衣さんの祖母。この句集は夕衣さんの美しいお仕事でもあります。

ひとり眠りひとり出てゆく秋の昼 

猫のような自由さが良い。

馬追の死にたる眼とは思はれず 

その魂がまだ離れてないかのような。

つぶやいて長生きせよとかまきりに 

優しい上五。かまきりにつぶやけるような人でありたい。

澄んだ、良い句集です。