12月13日、90歳になり、今日、ちょっと遅ればせながら孫たちがお誕生日パーティーをひらいてくれた。

 

 アンの住む家はアンの祖父の代からある古い2階建ての木の家で、この田舎町の中でも相当古い建物である。アンの祖父がお金をかけてこだわって建てたらしく、築100年を超えているはずなのにちっとも古いと感じさせない。いわゆるログハウスなのに、お城のような雰囲気もある。家の柱や壁の木は年季で艶をまとった濃い色になっている。30年前に孫に言われて屋根と床だけやり替えてもらったが、新しくなったばかりと思っていた床もそろそろいい色がついて落ち着きを放っている。

 

孫達が独立してそれぞれで生活しているので今はアンと長男夫婦と3人暮らしになっている。長男夫婦は仕事が忙しいので随分前から日中はアンが一人で留守番を任されている。

 

 高齢だから心配だと言われようが足腰も頑丈だし頭もしっかりしている自信がある。毎日家事が大体片付いたら庭の手入れをぼちぼちして植物の綺麗な色にうっとりするのもいいし、玄関扉の上にあるステンドグラスに日がさしてくると床にステンドグラスの色がうつされる時間も楽しい。夕方になると近所に住むひ孫が孫に連れられて幼稚園や学校帰りに寄ってくれることもある。そんな日はちょっと予感がして、玄関向こうからひ孫達のかわいい声が近づいてくると

 「やっぱり!」と、アンは大喜びで玄関を開ける。

 

 

 アンの家の玄関はこの家の中で一番広い。アンは大抵ここでのんびり過ごしている。お客さんが沢山来てもここで応対できるようにと祖父が考えたそうだった。祖父はおとなしい性格だったと聞いているがアンはあまり覚えていない。でも祖父に会いに毎日人が訪れていたような記憶はあった。玄関は沢山のかわいい手作り椅子やソファーが置いてあり、それぞれ形が違う。3つか4つくらいの小さいころはその中でもロッキングチェアに座ることが大好きで揺らしすぎてひっくり返ったことがある。あちこち打って痛いのに母に叱られて泣いていたら祖父が抱っこしてくれた。祖父のカサカサの大きくて温かい手が大好きだった。

 

 大きな両開きの玄関扉を入るとすぐ2階まで吹き抜けになっていて、正面奥に二階へ上がる螺旋階段があり、アン自身も子ども達も孫たちもひ孫たちも螺旋階段の手すりを滑って遊ぶのがそれぞれの子ども時代の一時期のお楽しみだったりする。

ひ孫のジョンが今まさにその時期で、何度も階段を昇って滑ってを繰り返し冬なのに汗だくになっている。玄関から見て右側にリビングへ入る扉があり、リビング奥は台所になっている。玄関から見て左側には大きな振り子時計が置いてあり、毎日アンがネジを巻いている。

 

 

 今アンはリビングでのお誕生日会を抜け出して、玄関ホールにあるアンの父が作った大きな丸い背もたれと肘置きのある木の椅子に温かいダージリンを運んできて小花柄の生地を集めて自分で作ったパッチワークのカバーをつけたクッションを腰に当て、赤に白のドット柄の毛布を膝にかけて、螺旋階段の横にある暖炉の前で螺旋階段で遊ぶジョンをみながらダージリンに口をつけている。

 

「ジョン、汗を拭いておいで。」

アンはジョンの汗だくが気になるというよりは、ジョンが落っこちないか心配で気が気じゃないのである。

 

 アンのお誕生日会の今日は、長男夫婦はもちろん、長女夫婦、次女夫婦にそれぞれの孫が6人に、孫の伴侶と、ひ孫が12人集まっている。一番大きいひ孫は14歳、一番小さいのは半年前に生まれたばかり。

 

 アンの長男の子のダンはわりと早くに結婚したが、結婚してすぐに夫婦ふたりの趣味の時間を充実させたいから子どもはいらないと言っていた。 ダンが結婚してからもう10年になる。

 

 「おばあちゃん、報告があるんだけど。」

 暖炉の火を見ながらでもダンの声はすぐにわかる。ダンの声は嬉しそうで、優しい雰囲気だった。

 

「どうしたの?」

 アンが振り返りながら言った。

 

 「あのね、赤ちゃんができたんだよ。」

 ダンは言いながら涙ぐんでいる。

 

 「もうできないかも知れないと思ってたんだ。」

 ダンは子どものころみたいにニカっと笑った。

 

 「あら?子どもはいらないって言ってたんじゃないの?」

 アンはわざと聞いてみる。

 

 「僕が、『子どもはいらない』って言っておいたら、誰も奥さんに文句が言えないでしょ?子どもはまだかとか、なんで出来ない んだとか。」

 ダンがまたニカっと笑った。サプライズが大成功した顔だった。

 

「母さんや父さんにはまだ言ってないからね、内緒だよ。」

 ダンがリビングのほうへ入っていった。

 

 アンはダンのことが誇らしくて嬉しくて涙が出た。

 

 タオルで汗を拭きながらジョンがリビングからアンのそばに戻って来て、アンの膝によじ登って習ったばかりの歌を歌ってくれた。

 「大きな木の下に一匹の猫、ニャーオニャーオ。そこへもう一匹ニャーオニャーオ。」

 ジョンの小さい手が歌にあわせて可愛く動く。

 

 ジョンの頭の匂いを嗅いでみる。焦げたパンのような子ども汗の匂いがした。

 

 

 

 

 

 

 こんにちは、この物語の作者のさわこです。夏に冬の話をしてすみません。

 

読んでいただきありがとうございます。20代のころから温めていた物語をここで投稿していこうと思っています。もしよろしければ、また見に来てください。つたない文章力ですがよろしくお願いします。