コーヒーショップの2階から、通りを歩く人たちを眺める。
僕は、そういうとき、どうしも考えてしまう。
どうして生きてるんだろう。
どうして生きてるんだろう。
どうして。。。
そして、目の前の友達とも、恋人ともいえない
赤いコートの女性を見て涙した。
突然僕が泣くもんだから、
「どうしたの?」
そういわれても、僕自身がどうしたのかも訳が分からず、
涙も止まらない。
それに、
通りを歩く人たちを見たら悲しくなった
だなんて言えない。
そんなこと言えば嫌われるかもしれない。
あなたはなんて人の生き方をバカにするようなことを。
それとも同情してるの?あなたごときの人間が・・・。
そんなこと彼女が言うはずはないのだけれど、
僕の中のもう一人の僕が、あっという間にそんなシナリオを作り上げて、
ただ僕は黙って泣いているしかできなかった。
「私はね」
彼女が窓の外を見ながらぽつりと話し始めた。
「え?」
「私はつらいとき、よくここに来るの」
彼女はコーヒーを一口啜って、
タバコに火をつけ、また話し始めた。
「ここのコーヒーショップのこの席、ここからね、
下の通りを歩く人たちを眺めるの。ただぼーっと。何時間も」
ぼんやりと遠くを見るような目で窓に向かってゆっくり煙を吐いた。
「時々、何もかも嫌になるのよ」
と彼女は言った。
「だから、あなたが突然泣くのもわかる気がする」
と。
僕自身が分からないことを、彼女が分かる。
そんなことがあるのだ。
じゃあ、彼女自身が分からなくて、
僕が彼女について知っていることが何かあるのだろうか。
それは、たぶん何もない…。
僕にはそんなことしかわからない。
「僕は強くないんだ。心も何もかも弱いんだ。
だからさ、よくこうやって泣いてしまうんだと思う。
驚かせちゃったね。ごめん」
僕はすぐに謝る。これは癖なんだろう。
気持ちはもうどこにもない。
乗り遅れて、言葉だけが先に走っていく。
気持ちは僕の中に残されて、また心を蝕む。
「心が強い人間なんて、きっといないんだと思う。
泣くのは何も悪いことじゃない。だから泣きたい時に泣けばいいのよ」
彼女は灰皿でタバコをもみ消し、もう一本を箱から出してまた火をつけた。
「そこを歩いている人たちも、心が強い人なんていない。
みんなびくびくしながら生きてるのよ。」
「おびえてるの?」
「そう」
すーっと煙をゆっくり吐いて、目を細めた。
「でも、何に怯えているのかわからないのよ。
だから余計に怖いの。
あの人も、あそこで笑っているカップルも、そこで座り込んでるおじさんも。
みんな生きるのが怖いのよ。でも生きてる。
だから、楽しいふりを精一杯するの。余計なことを考えなくていいように。」
彼女の指先からタバコを取って、
僕はゆっくりそれを吸った。
そして、窓の下を歩く人たちに向かって、ゆっくりと煙を吐いた。
余計なことを考えなくてもいいように。

