天空で老いたる源氏と柏木が話しています。

 

「この後、薫はすごすごと引き返す。ほかに男が

おるんじゃないか?と思ったりする。もう俗聖

どころか俗物丸出しじゃ」

 

「匂宮、だったらどうでしょうね?」

「そりゃあ、真夜中に忍び込んでかっさらって行くかもな」

「やりかねませんね」

 

「それに引き換え浮舟のなんと崇高なことよ」

「どこか紫式部の達観が感じられますね」

「男のあほさ加減もな」

 

「出家したからといってすぐに悟りの境地にとは思われま

せんが?」

 

「そりゃそうじゃ。尼寺の老尼の姿は実に見苦しく紫式部は書

いている。浮舟は身を投げて供養したようなもんじゃからかな」

 

「このままこの物語は終わってしまうんでしょうか?」

「さあまだ生きてる生身の人間じゃから煩悩即菩提とはいくまいよ」

「煩悩即煩悩?」

「それが現実よ。だから楽しいのじゃ。衆生所遊楽というではないか」

 

「ということはこれからが面白くなると?」

「まさにその通り。伝教大師も末法はなはだ近きにありと憧れて

おられた。その末法ももうすぐじゃ。ははははははは」

 

老いたる源氏の笑い声が天空に遠く響き渡りました。

 

                           ーーー完ーーー