「まあこれはいったいどうしたこと!けしからぬではありませんか!」

 

「名を聞かぬうちは離さないよ」

そう言って匂宮は姫に寄り添いながら横になられました。

 

「なれなれしい。この方があの匂宮様だ」

と姫はお気づきになられました。

 

乳母は言いようもなく呆れ果てて、すぐそばに座り宮を

ものすごい形相で睨みつけておいでです。

 

宮は足の先で乳母をつついたり膝をつねったりしますが

乳母は梃子てこでも動きません。

 

そのうち女房達の声が聞こえます。

「中の君様がお帰りでーす」

 

女房の右近がこちらに近づいてきました。

乳母が突然大きな声で叫びます。

 

「ちょっとすみません!こちらで大変なことが起きていまーす!

私は見張り続けて困り果て身動きもできませーん!」

 

右近はそれを見て、

「まあなんてみだらなことを。中の君様に言いつけてまいります!」

 

そこへ宮中から急使が参りました。

「中宮様の胸の発作が起きました匂宮様、至急お帰りを」

と間近まで来て申します。

 

さすがの宮も姫を屏風の影に突き放し

しぶしぶお戻りになりました。

 

薫の君はあの姫君が匂宮邸にいることを知りましたが、

どうも母君がほかの隠れ家をお探しのようだと聞きます。

 

そしてとうとう薫の君はかなり強引にあの姫君を宇治の

新しい建物にお移しなさいました。