「みなれぬる 中の衣と たのみしを

        かばかりにてや かけ離れなむ」

 

と中の君が泣きながら詠むと、匂宮はえも言われず

いとおしくなってそっとやさしく中の君をお抱きしめ

になるのでした。

 

天空の源氏がつぶやきました。

「あほや、こいつも」

 

それからほどなく。中の君は薫の君に話します。

 

「このたび、わたくしには実は異母妹がいてこちらを

頼ろうとして見せに来ました。ちらと見に似ています」

「だれに?」

「大君に」

「えっ?」

 

薫の君の顔色はいつもの賢人ぶった貴公子から

総崩れにおなりでした。それほどまでに、と

中の君はお思いになり。

 

「わかりました。こちらに引き取るようにいたしますので、

そのうちにお目にかかることになるでしょう」

 

薫の君はもう上の空です。それからは宇治のお堂の建築に精を出され、

女二宮のお輿入れも適当になされ、やっと生まれたばかりの匂宮の

若君もそれなりに大切にお見舞いなさいます。

 

そしてついに春の盛りを過ぎたころ。

宇治に御堂の様子を見に行かれたその帰り山荘で女車に出くわします。

 

「あれは?」

「前の常陸宮様の姫君で初瀬の御帰りです。行きにもここへお泊りに

なりました」

 

「ほう。早く中にお入れなさい。こちらは奥に隠して」

薫の君は影からこっそりと姫をご覧になります。

じっと見とれて涙をおこぼしになりました。

 

「よくぞ生きていらっしゃった。ほんとによくぞ・・・。

浅からぬ前世からの約束と伝えてほしいのだが?」

 

「まあ、いつの間にそんなお約束が?ではそうお伝え

いたしましょう」

尼君は笑いながら奥へと入っていかれました。