二月の末に匂宮は大勢のお供を引き連れて初瀬の観音参りをされました。

その帰りに宇治の夕霧大臣の別荘にお泊りになります。

そこに薫の君がお迎えに上がりました。川向うが八宮のお屋敷です。

 

天空の源氏が言います。

「ふたりの下心見え見えじゃ」

 

夕暮れになって管弦のお遊びが始まりました。

八宮邸からお手紙が来ます。宮自ら返事を書かれます。

それを薫の君が取り次ぎます。

 

あまりに人が多すぎてなかなか姫たちまで行きません。

とうとう何事もなく宮たちは京へ引き上げられました。

 

天空で源氏と柏木が話しています。

 

「もっとうまくやれんものかのう」

「いやいや、深入りは禁物」

「匂宮と遊びのつもりじゃ。まだ子供じゃ二人とも」

「薫は私に似て慎重なのでございます」

「嘘をつけ、何が慎重じゃ。うぶな女三宮姫をかすみ取ったくせに」

 

「それはあんまりな。打ち捨てられていた姫の心を満たして差し上げたのですよ」

「ふん、ならば出家などするものか」

「そもそもあなたとの縁談が無理だったのです」

「そうかもしれんな。あの二人もそうならねばいいがな」

 

天空の声が地上に聞こえそうです。

その夏、八宮様は「これが最後の山籠もりになりそうです」と言われ、

「くれぐれも二人の姫のことはよろしくお願いします」と言い残されて

山にこもられました。そして間もなく亡くなられました。

 

残された姫のもとへ薫の君も匂宮も弔いのお手紙を差し上げられます。

薫の君は阿闍梨や宮の者たちへあれこれと御配慮をなさいます。

それはそれは八宮の御遺言をはるかに上回る御気遣いでございました。

 

その姿を見るにつけ老婆はひとり、

「柏木の衛門の督さま。ああ、薫様はお父上にそっくり似でございます」

と、ため息ばかりついて見守っておられます。