そこにたいそうな老婆が現れてきました。

結局、薫は部屋に入り4人で話し始めました。

恥ずかしがり屋の姫たちを手慣れた老婆が応じています。

 

「こちらの宮のような俗聖ぞくひじりを私も目指しておりますので、

色事には全く関係ありません。また寄せていただきます」

 

薫がそう言うと老婆は急に泣き始めます。故衛門のかみの乳母は

自分の母で大切なものを預かっていると言います。

 

天空の暗闇で柏木が叫びます。

「故衛門の督とは私のことだが?」

源氏もいぶかしげに二人は顔を見合わせ天空から覗きます。

 

「もし後をお聞きになりたいとお思いならぜひ次の機会に私を呼びください」

「わかりました。宮の山籠もりが明けましたらまた参りますのでその時に詳しく」

 

天空の二人は意味ありげにうなづいています。

 

    x   x   x

 

翌日薫の君は山籠もりの宮と僧のために絹、綿、袈裟、衣を山へ。

八の宮邸の者のために料理の重箱をお届けになります。

 

天空で源氏が呟きます。

「まめじゃなあ薫は。姫が目当てになったんじゃ」

「そんなことはありませんよ。俗聖の師八の宮のために」

「ふん、将を射んとすれば馬を射よと言うではないか」

二人は天空の暗闇で言い合っています。

 

宮中に帰ってきますと。

薫中将が匂宮兵部卿に楽しげに語りかけています。

「人里離れた奥深い所に」

「ほう、そんなところに、みめ麗しき姫がいたら楽しいだろうね」

「ひょっとしたら」

「あるかもしれない」

「ふふふふふ」

二人は意味ありげに笑っています。

仲の良い貴公子二人でした。

 

     x   x   x

 

それから数日後。薫の君は再び八の宮邸を訪れました。

八宮は大いに喜ばれ、出家のほだしとなっている

この二人の姫を薫の君に託します。

 

八宮が勤行をなさっている間にくだんの老婆から話を聞き

衛門の督の遺品を預かります。それはまがいもなく

かつての柏木から女三宮への手紙の束でした。

 

天空から柏木が落ちかかります。

「おおそれは。恐ろしや恐ろしや」

慌てて柏木は顔を両手で多い暗闇に隠れます。

「薫は驚愕でふるえているではないか。ああ、真剣なまなざしで、

女三尼宮のところへ行く気だな」

 

読経をしている尼宮の後ろに手紙を握りしめて薫の君様はたたずんで

おられます。尼宮は気配を感じ恥ずかしげに経本を閉じられ乙女の

ように微笑まれます。もちろん白檀扇でお顔は見えません。

 

薫の君は何も言わずにそのまま引き下がられました。

胸の内にすべてを秘めておこうと決意されたご様子でした。