暗闇から声が聞こえてきます。

 

「おーい。源氏?源氏はいないか?おーい」

「どなたかな?源氏はここです」

「おお、源氏か。わしじゃ。朱雀じゃ」

「兄上。なぜまた冥府へ?」

 

「なかなか成仏でけんのじゃ。娘のことが気になってのう」

「やはりそうですか」

「やはりとは?不幸なのか二人とも?」

「ええ、あまりお幸せではありませぬ」

 

「ああ嘆かわしい。そちに後見を兼ねて正室として嫁がせたのに」

「それが不幸の始まりでした」

「なんと?」

「まさにこの縁談がすべての不幸の始まりだったのです」

「何ということを言うのだ、内親王だぞ」

「それも障りになりました」

 

「幼いころからすべてに秀でたおぬしを差し置いて力もないのにわしは

その身分だけで帝を継いだ。須磨に追いやった後にわしは眼病に悩まされ

飢饉、疫病世は乱れ。夢枕に父君が現れてこっぴどく怒られた」

「そうでしたか」

「わしは生まれて初めて母君の意見に逆らっておぬしを京へ戻した」

 

「誠にありがたき幸せ」

「そのあとは存じよう。すべて順風満帆。一日も早く位を譲って

出家したかった。政治にはわしはむいとらん。おなごも嫌いじゃ。

ただ娘のことだけが気がかりじゃったのよ。ううううう」

 

「柏木が早死にしたのです」

「おお婿殿二の姫の?」

「そうです、一度の契りもなく」

「それはあまりにかわいそうじゃ。何ゆえ?」

 

「その原因が三の姫君」

「何と、おぬしの正室にやったのに」

「柏木に寝取られました」

「なんとおろかな」

「しかもすぐに身ごもってしまったのです」

「ああ、なんたることじゃ」

 

「三の姫君は私があまりに冷淡にするからと兄上に泣いてすがって

尼になられました」

「そうじゃ。あまりに急じゃった。そういうことがあったのか。

わしは何も知らなんだ」