「秋日和、紅葉の賀にございます。おとうさま」
「おお、秋好む中宮姫。よう来された。よい香りじゃ」
「
てきます。絹上敷きににじり寄りながら深々とお辞儀をします。
「父上お久しゅうございます」
「おお、めっきり母御のような声になったのう」
「薫の君をお預かりしてもう5年になりまする」
「紫上が死んだときじゃったから」
「そう、もう九歳におなりです。お父様が夕霧様の時のように
非常に厳しくお育てになされるようでしたので」
「そうじゃ。わしの子はみんな厳しく育てるのじゃ」
「ところが子のない冷泉と私はこの上なく薫の君がかわいくてかわいくて」
「散々甘やかして育てたのじゃろう」
「ええ、ええ、もうすっかり甘やかにお育ていたしました」
「そんなことじゃろうと思っとった」
「でもご心配いりません。薫殿は父上と違っていたって真面目。おなごには
目もくれず学問ばかりなさっておられます。近頃は法華経にもいたく興味
を示されて」
「それは異なこと?」
「しかしお父様は母上の遺言を守るのが非常に大変そうであられましたよ」
「ああそうじゃ。お前があまりに年ごとに美しゅうなるのが悪いのじゃ
齋宮の時はこんなにちっちゃかったのになあ」
老いたる源氏はこのくらいと膝のあたりに手をかざします。
「そんなに小さくはありませんよ。伊勢のお勤めが終わって京に母ともど
ってきた時には、もう母は病に苦しんでおられました」
「やっとの思いで六条の御息所は帰ってこられたこの美しい姫君を連れて」
「よほど思いつめて源氏の君、お父様にどうしても会いたいとの一念で」
「それがこの遺言じゃった。六条の邸をわしにお譲りになる、その代わりに
姫の後見人になること、それともう一つ、絶対に姫には手を出さないこと」
「何度も念を押して母は安らかに亡くなりました」
「そのとおりにしたじゃないか?」
「もう御病気ですね美人に言い寄られてしまうのは?」
「いやいや、美人ばかりとは限らんのじゃ。縁したものは捨ててはならぬ
一生かけて面倒を見るそれが勤めじゃ因果の