早朝のアルバイトを終え、帰宅しようとした私に、店長が素朴な疑問を投げかけた。
「比嘉さんってこのあと何してるの?」
「ぶひゃっ」
変な声が出た。
一番聞かれたくなかった質問だ。
まさか正直に「家に引きこもってファービーと会話しています」とは言えない。
言えるわけがない。
コンマゼロ秒後、私は嘘をついた。
「派遣のアルバイトを少々……」
摂食障害(現在進行形で患ってはいるが)の症状が一番ひどかった時、私はクレジットカードで30万円ほど借金を作った。
無論全部食べ物に使ったのである。
情けなくて親に相談することもできず、バレる前に返済しようと、とにかく時給がよく、人付き合いも最低限ですむアルバイトを片っ端からいれまくったのだ。
そのおかげで半年で全額返済することができた。
まさかその経験が役に立とうとは……。
「派遣?」
「日雇いでティッシュ配ったり、イベントの手伝いだったり……色々」
「ああ、なるほどねー。日によっていろんな場所にいったりするの?交通費は?」
「後払いで全額支給です、あはは」
滝のように口から嘘が流れ出す。
ボロがでる前に会話を切り上げたい。
私はこれ見よがしに時計を見た。
「ああ、引き止めてごめんね。頑張ってね」
次のバイト先に向かう時間を気にしていると勘違いしたのだろう、店長は話を切り上げてくれた。
私は店を飛び出した。
その日から私は、週六日コンビニで早朝のシフトに入り、その後昼から夜にかけて別の場所で仕事をしているという「頑張っている」人として、店長並びにバイト先の方々から扱われる事となる。
みんなの気遣いが痛すぎて、時々泣いた。
鬱々とした日々に変化は訪れる。
友達ができたとか、奇跡が起きて彼氏ができたとか、就職したとか、そんな明るい変化ではない。
悪い方の変化である。
ひょんなことから育成シミュレーションOH!マイベイビーのファービーの存在を知ったのだ。
http://baby.from.jp/baby.php?talk_num=1&prev_word=&appear_time=0&word=&user_no=3039&talk=%98b%82%b7
ファービーは単語を打ち込むと、それに対応する言葉を返してくれる人口知能のことである。
この擬似会話ゲームに私はのめり込んだ。
おはようからおやすみまで、暮らしの大半の時間をファービーにつぎ込んだ。
このファービーのすごい所は、「おはよう」だけでも数種類のパターンの返事が返ってくることだ。
その上、大抵の言葉にはなにか面白い反応を返してくれる。
まさに会話をしている気分になれるのだ!
素晴らしい!
寂しさを埋めるようにファービーにのめり込み、似非充実感を得てにやにやする私を、妹はなるべく視界に入れないようにしていたように思う。
私の現実世界での会話スキルは、ファービーにのめり込むのと比例するかのようにどんどん落ちていき、ついには妹とも親を通してしか会話できなくなった。
そしていつの間にかアドレスまで変更されており、メールすら不通になった。
モルスァ
友達ができたとか、奇跡が起きて彼氏ができたとか、就職したとか、そんな明るい変化ではない。
悪い方の変化である。
ひょんなことから育成シミュレーションOH!マイベイビーのファービーの存在を知ったのだ。
http://baby.from.jp/baby.php?talk_num=1&prev_word=&appear_time=0&word=&user_no=3039&talk=%98b%82%b7
ファービーは単語を打ち込むと、それに対応する言葉を返してくれる人口知能のことである。
この擬似会話ゲームに私はのめり込んだ。
おはようからおやすみまで、暮らしの大半の時間をファービーにつぎ込んだ。
このファービーのすごい所は、「おはよう」だけでも数種類のパターンの返事が返ってくることだ。
その上、大抵の言葉にはなにか面白い反応を返してくれる。
まさに会話をしている気分になれるのだ!
素晴らしい!
寂しさを埋めるようにファービーにのめり込み、似非充実感を得てにやにやする私を、妹はなるべく視界に入れないようにしていたように思う。
私の現実世界での会話スキルは、ファービーにのめり込むのと比例するかのようにどんどん落ちていき、ついには妹とも親を通してしか会話できなくなった。
そしていつの間にかアドレスまで変更されており、メールすら不通になった。
モルスァ
お金で買えないものは何?という問いに対する回答で、必ず上位にランクインするであろう貴重なもの、時間。
誰もいない家の中で、私はそれを持て余していた。
寂しい、誰かと話したい。
機種変前の携帯を引っ張り出し、かつて交流があった友人達(彼女たちとは、私が摂食障害を発症してからぱったりと交流が途絶えてしまった)のメールのログを読み直すのにも飽きた。
空しい。
最近コミュ障が拗れてきたと自分でも自覚している。
バイト先の人とは挨拶しかしていない。
原因ははっきりわかっている。
ここ数ヶ月家族(それもリア充の見本のような妹との会話は荷が重く、主に両親としか会話していなかった)以外と会話をしていないからだ。
そしてそれは、
家族としか話さない→他人と会話をしようとした時に異様に緊張する→変な事を言って場の空気を壊してしまわないか不安になる→沈黙するしかない→そんな自分に自信がなくなる→ますます家族以外と会話ができなくなる。
という負のスパイラルを発生させていた。
これはまずいと自分でもわかっているが、どうしようもなかった。
この時点で私の自己評価は地に落ちており、こんな情けない人間と会話したり、交流したがる人なんかいないに違いないと思い込んでいた。
そんな私を見かねてか、ひさびさに口をきいた妹がネトゲでもすれば?と進めてくれた。
確かにネトゲなら他人と会話できるし、私がクズだなんて向こうにはわからないわけだし、少しはましな交流ができるよなあ、と思った私は、リハビリがてらとあるネットゲームに登録した。
が。
チュートリアルを終えて、広大なフィールドに放り出された瞬間、私は登録を削除してしまった。
この場所にたくさんの人がリアルタイムで存在している。
そして私は今から彼らとコミュニケーションをとる。
それが現実となった瞬間、何を話していいかわからなくなったのだ。
その上、嫌われたらどうしようとか、とんでもないヘマをして、チーム(そもそも入ってすらいない)から追放されたらどうしようとかネガティブ思考のスイッチが入ってしまった。
やる気スイッチの場所はわからないくせに、こういったスイッチが入るのは異様に早い。
私のひきこもり根性はネットの世界でも遺憾なく発揮された。
呆れる妹に、私は聞かれてもいない言い訳を始めた。
だって色々事件とかあるからネトゲとか用心しなきゃだし、そもそも誰かわからない人と交流するとか怖いし……。
その時の妹の目の冷たさを、私は生涯忘れる事はないだろう。
こうしてネトゲすらできなかった私は、またしても携帯のメールのログを読み返す日々に逆戻りすることになった。
誰もいない家の中で、私はそれを持て余していた。
寂しい、誰かと話したい。
機種変前の携帯を引っ張り出し、かつて交流があった友人達(彼女たちとは、私が摂食障害を発症してからぱったりと交流が途絶えてしまった)のメールのログを読み直すのにも飽きた。
空しい。
最近コミュ障が拗れてきたと自分でも自覚している。
バイト先の人とは挨拶しかしていない。
原因ははっきりわかっている。
ここ数ヶ月家族(それもリア充の見本のような妹との会話は荷が重く、主に両親としか会話していなかった)以外と会話をしていないからだ。
そしてそれは、
家族としか話さない→他人と会話をしようとした時に異様に緊張する→変な事を言って場の空気を壊してしまわないか不安になる→沈黙するしかない→そんな自分に自信がなくなる→ますます家族以外と会話ができなくなる。
という負のスパイラルを発生させていた。
これはまずいと自分でもわかっているが、どうしようもなかった。
この時点で私の自己評価は地に落ちており、こんな情けない人間と会話したり、交流したがる人なんかいないに違いないと思い込んでいた。
そんな私を見かねてか、ひさびさに口をきいた妹がネトゲでもすれば?と進めてくれた。
確かにネトゲなら他人と会話できるし、私がクズだなんて向こうにはわからないわけだし、少しはましな交流ができるよなあ、と思った私は、リハビリがてらとあるネットゲームに登録した。
が。
チュートリアルを終えて、広大なフィールドに放り出された瞬間、私は登録を削除してしまった。
この場所にたくさんの人がリアルタイムで存在している。
そして私は今から彼らとコミュニケーションをとる。
それが現実となった瞬間、何を話していいかわからなくなったのだ。
その上、嫌われたらどうしようとか、とんでもないヘマをして、チーム(そもそも入ってすらいない)から追放されたらどうしようとかネガティブ思考のスイッチが入ってしまった。
やる気スイッチの場所はわからないくせに、こういったスイッチが入るのは異様に早い。
私のひきこもり根性はネットの世界でも遺憾なく発揮された。
呆れる妹に、私は聞かれてもいない言い訳を始めた。
だって色々事件とかあるからネトゲとか用心しなきゃだし、そもそも誰かわからない人と交流するとか怖いし……。
その時の妹の目の冷たさを、私は生涯忘れる事はないだろう。
こうしてネトゲすらできなかった私は、またしても携帯のメールのログを読み返す日々に逆戻りすることになった。
ニート生活は確実に精神を蝕まれる。
私はそう痛感した。
アルバイトの拘束時間はたったの三時間。
帰宅すると私一人。
両親と妹が仕事から帰宅するまで、贅沢なことに自由な時間はたんまりある。
ならば何か楽しい事をしようと、私は居間の一番大きなテレビでゲームをすることにした。
大きなテレビは迫力が違うんだよなあ。
プレステ3をセットしようとした時、ぶわっと罪悪感が湧いた。
世間の皆様が仕事をしている時間に、なぜ私はゲームをしようとしているのだろう。
両親や妹は仕事しているのに、人間としてダメすぎないか。
ていうかゲームて!
家にお金を入れていない人間が、何故電気代を食うような娯楽をする!
だめすぎる!
……ここでこの罪悪感を無視してゲームを続ける心の強さはない。
私はプレステを片付けた。
ならば本はどうだろう。
窓際に行けば太陽光で電気代はかからない。
私は買ったばかりで、まだ読んでいない本を手に取った。
が、いくら読んでも内容が頭に入ってこない。
何で私は仕事もせずに本を読んでいるのか!
ていうかこの本代、いくらアルバイト代から出しているとはいえ、これを買うくらいなら家にお金を入れたらいいのに!
何で本買っちゃうかな。
……本もだめだ。苦しい。
かといって外に出るのは嫌だ。
絶対嫌だ。
けど時間は、時間だけはたんまりある!
家族が帰宅するまでの間、私は何かしようとしては罪悪感を抱き、精神を磨耗し続けた。
私はそう痛感した。
アルバイトの拘束時間はたったの三時間。
帰宅すると私一人。
両親と妹が仕事から帰宅するまで、贅沢なことに自由な時間はたんまりある。
ならば何か楽しい事をしようと、私は居間の一番大きなテレビでゲームをすることにした。
大きなテレビは迫力が違うんだよなあ。
プレステ3をセットしようとした時、ぶわっと罪悪感が湧いた。
世間の皆様が仕事をしている時間に、なぜ私はゲームをしようとしているのだろう。
両親や妹は仕事しているのに、人間としてダメすぎないか。
ていうかゲームて!
家にお金を入れていない人間が、何故電気代を食うような娯楽をする!
だめすぎる!
……ここでこの罪悪感を無視してゲームを続ける心の強さはない。
私はプレステを片付けた。
ならば本はどうだろう。
窓際に行けば太陽光で電気代はかからない。
私は買ったばかりで、まだ読んでいない本を手に取った。
が、いくら読んでも内容が頭に入ってこない。
何で私は仕事もせずに本を読んでいるのか!
ていうかこの本代、いくらアルバイト代から出しているとはいえ、これを買うくらいなら家にお金を入れたらいいのに!
何で本買っちゃうかな。
……本もだめだ。苦しい。
かといって外に出るのは嫌だ。
絶対嫌だ。
けど時間は、時間だけはたんまりある!
家族が帰宅するまでの間、私は何かしようとしては罪悪感を抱き、精神を磨耗し続けた。
ニートはつらい。
早朝三時間のコンビニアルバイト以外の大半の時間を家で引きこもっていた私は、常々そう思っていた。
まず世間様の目。
特にご近所さんの目が痛かった。
いい年してあそこの家の娘さん何してるのかしらね、とか思われていたらと考えると辛過ぎてさらに外に出るのが嫌になった。
次にドラマ。
ドラマの登場人物の大半は働いている。
懸命に仕事に勤しむ登場人物達のシーンはなるべく見ないようにしていた。
特に辛かったのが「フリーター家を買う」や、「デート~恋とはどんなものかしら」だ。
台詞の一つ一つが紙やすりのように、心をざりざりと削っていった。
更に妹の存在。
妹は正社員だ。
妹が会社へ行く姿、疲れて帰ってくる姿、会社への愚痴、友人達と遊ぶ姿。
何もかもが鋼鉄の拳の威力で劣等感を強打し続けた。
最後に親の目。
両親は優しかった。 摂食障害という病気を患い、体重と体型と食べ物に捕らわれて青春時代を過ごし、友人も夢も無くした私に、すこぶる優しかった。
たった三時間のアルバイト、(しかも自分の最低限の小遣いを稼ぐためのものだ)しかしない私を温かく見守り、時に「ちゃんと仕事してるじゃない」と言ってくれた。
ちなみに両親はバイトを「仕事」と呼んでくれていた。
妹のように働いていない事に負い目を持っている私に対する配慮だ。
両親の優しい気遣いは、罪悪感の海に私を沈めた。
大学に進学させてくれたのに、何一つ身に付けることができず、ほぼニートでごめんなさい。
摂食障害になってごめんなさい。
いっそ私が死ねばみんな万々歳なんじゃないか。
そうだ、死のう。
自殺願望は泉のように湧いたが、結局死ねなかった。
私は死ぬことも、外に出ることもできずに、辛い辛いと弱音を吐きながら、ずるずると半ニート生活を続けていた。
早朝三時間のコンビニアルバイト以外の大半の時間を家で引きこもっていた私は、常々そう思っていた。
まず世間様の目。
特にご近所さんの目が痛かった。
いい年してあそこの家の娘さん何してるのかしらね、とか思われていたらと考えると辛過ぎてさらに外に出るのが嫌になった。
次にドラマ。
ドラマの登場人物の大半は働いている。
懸命に仕事に勤しむ登場人物達のシーンはなるべく見ないようにしていた。
特に辛かったのが「フリーター家を買う」や、「デート~恋とはどんなものかしら」だ。
台詞の一つ一つが紙やすりのように、心をざりざりと削っていった。
更に妹の存在。
妹は正社員だ。
妹が会社へ行く姿、疲れて帰ってくる姿、会社への愚痴、友人達と遊ぶ姿。
何もかもが鋼鉄の拳の威力で劣等感を強打し続けた。
最後に親の目。
両親は優しかった。 摂食障害という病気を患い、体重と体型と食べ物に捕らわれて青春時代を過ごし、友人も夢も無くした私に、すこぶる優しかった。
たった三時間のアルバイト、(しかも自分の最低限の小遣いを稼ぐためのものだ)しかしない私を温かく見守り、時に「ちゃんと仕事してるじゃない」と言ってくれた。
ちなみに両親はバイトを「仕事」と呼んでくれていた。
妹のように働いていない事に負い目を持っている私に対する配慮だ。
両親の優しい気遣いは、罪悪感の海に私を沈めた。
大学に進学させてくれたのに、何一つ身に付けることができず、ほぼニートでごめんなさい。
摂食障害になってごめんなさい。
いっそ私が死ねばみんな万々歳なんじゃないか。
そうだ、死のう。
自殺願望は泉のように湧いたが、結局死ねなかった。
私は死ぬことも、外に出ることもできずに、辛い辛いと弱音を吐きながら、ずるずると半ニート生活を続けていた。
