これまで読んだことのあった『代償』や『痣』、『本性』と比較すると、タイトルに柔らかい印象を受けた作品でした。読み始めはなかなかページが進みませんでしたが、読み進めていくうちにハマりこんでいきました。


作品の根底にあるのは「赦し」ということだと思いました。杉原美緒の生育環境は決して良いものではないです。過去もそうですが、アルコール依存症の母親、発達に遅れのある弟。思春期のうまくいかないもどかしさや無力感が淡々と描写されていて、自分の過去を思い出して共感できるものがあると思いました。

また、妊娠中に読んでいたこともあり、美緒の母親の気持ちや瑠璃の母親の気持ちを想像しながら読みすすめました。途中、丈太郎が「どうすればきみのように強い子が育つのか、興味はある」というセリフがあります。でも決して美緒は強いわけではなかったのではないかと思います。誰かを頼りにしたいけど、頼りにできない。ちゃんとして見えるけど、甘えたい。甘え方のわからない、プライド高めの女の子の葛藤とミステリーが描かれていたと思います。


 読んだ後に、すっきりする面と後味の悪い面のある作品です。また、二度目以降に面白さがじんわりと理解できるような印象を受けました。だんだんと謎が解けていき、少しずつ真実が紐解かれていく感覚が好きな人におすすめです。