宇宙が衛星で覆われる日 | ヤサグレもんの戯言

宇宙が衛星で覆われる日

⬛️宇宙が衛星で覆われ、夜が無くなる日

   衛星が大量に打ち上げられる事により、ネットインフラが大幅改善される時代が来ようとしている。

   それは、インターネット産業がビッグビジネスだからである。

   同時に、衛星の反射により完全な暗闇が無くなる可能性がある。

   現時点で地球周辺の人工衛星の数は5千基程度と言われているが、近い将来、その数が数倍に増えると推測されている。

人工衛星は永久ではない

   人工衛星は、耐用年数があり、それを過ぎればゴミとなる。

   浮遊し続けるゴミと化した人工衛星。

   大気圏突入で、燃え尽きる人工衛星。

   先に暗闇が無くなる可能性があると書いたが、ゴミにより闇ができる場所が生まれる可能性もゼロではないのだ。

   「宇宙は誰のものでもない」と言い切るのではなく「宇宙はに対するルール」が、必要な時代が近づいているのかも知れない。
   
⬛️アマゾン、数千基の人工衛星打ち上げ衛星インターネットを世界中に提供、宇宙ゴミ問題も

 1万基を超える膨大な数の小型人工衛星を地球を取り巻くように打ち上げて、高速インターネット回線を海の上から山の中まで世界中に提供する、人工衛星ビジネス戦争が勃発した。


 現在、先頭を走るのは、既に第1弾の衛星群の打ち上げに成功した米国の宇宙開発企業スペースX社だが、米国アマゾン・ドット・コムも数千基の人工衛星打ち上げを計画しているし、米国やカナダなどの多数の企業が衛星インターネットサービス参入に名乗りを上げている。


 世界中にブロードバンドネットワークを築くという構想は、これまで多くの企業によって提案され、時には多くの飛行船や気球を成層圏に浮かばせる、等の奇想天外なアイデアも登場した。しかし、近年の急速な人工衛星の小型化技術の進展と、スペースX社のファルコン9ロケットの様な大型で打ち上げコストの低い再使用型ロケットの実現によって、インターネット人工衛星が最も現実的な答えであると結論付いた感がある。


スペースXの「スターリンク」計画とは


 その先陣を切ったスペースX社のプロジェクトが「スターリンク」計画。スターリンクは12千基の人工衛星で構築される計画で、最初の60基が日本時間の2019524日に打ち上げられた。最低でも800基から1千基の衛星を打ち上げた時点で、世界の多くの地域をインターネットで結ぶ事が可能になると思われる。


スターリンク衛星(提供=Space X


 搭載された衛星は蛇腹状に折り畳まれ、フックで連結された状態で宇宙空間に放出され、自律的に地球周回軌道に入る。大量の衛星で地球を取り囲んだ上で衛星同士が通信を行う事により、地球上のどこにいても衛星を通してインターネット接続が可能となり、同時に多数の衛星によるシステムの冗長性も実現される為、これまでにない広範かつ強靭なブロードバンドネットワークができ上がる。


 日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)も08年から192月まで超高速インターネット衛星「きずな」を運用し、11年の東日本大震災時には、地上通信設備が壊滅的打撃を受けた被災地にインターネット回線を提供する活躍を見せた。


超高速インターネット衛星「きずな」(提供=JAXA


 しかし、きずなは重さが3トン近い巨大衛星で、衛星開発だけでも数百億円が必要と推定。きずなの後継機を打ち上げて商用サービスを実施する計画がNEC等の出資により動き出したが、結局実現しなかった。これは、衛星インターネットサービスにおける巨艦主義ともいえる大型衛星時代が終焉を迎えた。


インターネット衛星を光害源にしないために


 さて、大型の衛星1基で通信を行う時代から大量の小型衛星で通信を行う時代になり、それらの衛星が打ち上げられると、人工衛星が光害になるという問題が早くも発生しました。


 何しろ、現時点で地球周辺の人工衛星の数は5千基程度。そこに、参入各社合計で数万基の人工衛星を打ち上げる為、いきなり数倍に増える事になる。また、地球周辺には大きさ10cm以上の宇宙ゴミ(スペースデブリ)が2万個程度漂っている事が確認されているが、増加する衛星の数はスペースデブリの数に匹敵。いずれも、天文学者にとっては大変な問題。


 当初、これらの人工衛星群は観測不可能であろうとされていたが、実際に打ち上げられると世界各地の天文学者から観測の報告が出され、スターリンクの衛星群が地上からの天体観測に影響を及ぼす可能性が露呈した。スターリンク衛星の明るさは5等級の星に匹敵。肉眼では空が十分に暗くなければ見えないが、宇宙の彼方の微かな星の光を観測しようとする高感度の天体望遠鏡にとっては大敵。


 ブロードバンドを世界規模で提供するサービスは私たちの日常の利便性を高め、世界中のあらゆる場所に通信回線を提供する事によって、インターネット後進地域の解消や大規模災害支援、海洋・山岳遭難時の緊急対応等、多くのメリットがある。一方で、美しい夜空を守る責任も私たちには課せられている。衛星は太陽熱から機器を守る為に反射材で覆われ、太陽光電池パネルも太陽光を反射する為、夜空を明るくしてしまう可能性がある。


 光を反射しない断熱材や限りなく黒い材料による衛星の製造、逆に反射材を省略し高温になっても安定作動する半導体の開発等、日本の素材技術を生かす事が求められている。今まさに発生しつつある光害問題に対処できる力が、日本の素材産業にはあると考えられる。

(文=中西貴之/宇部興産株式会社 品質統括部)

【参考資料】

「スターリンク」(スペースX

「全ての光を吸収する究極の暗黒シート」(産業技術総合研究所)