『待っているもの』
竹次郎は心のどこかであの女を待っていた。
独りで静かに暮らすことに慣れむしろそのほうがいいと思っていた。
だが竹次郎は夜になり家の近くの森で鳴く梟(ふくろう)の声を聞くとむしょうにあの女が恋しくなった。
打ち消そうとしても頭から離れないあの声を聞いたのはつい昨日のことのように思えたが暦をめくってみるともう一年近くも経っている。
今日もまた葉子が母からのだと渡してくれた封書を読み返した。
竹次郎の本心は手紙を寄こした葉子の母親にひと目なりと会いたかったが、それが叶わなくても葉子が来てくれてその面影を感じるだけでよかった。