私が住むマンションはオフィス街のど真ん中に建っている冷蔵庫のような建物で、最上階のオーナーさんの部屋以外は慎ましい広さなので、家族で住んでいる人々もお子さんは皆小さいのです。エレベーターの中ではよく、りんごほっぺの可愛い男の子や、なわとびを練習しにでかける小さな女の子、乳母車から私を珍しそうに見つめる赤ちゃんたちに出くわします。ママやパパよりもまず、赤ちゃんと目があってしまうので「わっ、かわいい!」「すごく大きくなったなぁ~」などと声をかけてしまい、親御さんたちからは「ありがとうございます。」とお礼を言われます。

柄のいい街なので、赤ちゃんたちもどこか上品で、この清らかな存在を育てていく親たちにとっては、何よりの宝物なんだな…と考えてしまいます。そう冷静に考えられるまで、だいぶ時間がかかりました。

 

地の時代から風の時代へ。軽やかになるためにどうしても解決しなければならない問題が私にはあります。それは「赤ちゃん」です。未婚でここまで生きてきて、妊娠の経験に関してはまあ曖昧にしておきますが、わりと真剣に付き合っていた相手から「赤ちゃんが出来た」と告白されたことが、自分の人生にとっては結構な事件でした。妊娠したのは私ではなく、彼の浮気相手だったからです。

 

という話を、このブログでも何度か書いてきましたが(笑)冥王星が水瓶座に入っても、いまだにどう納得したらいいか分からないのです。何度も何度もここに戻ってきてしまう。
繰り返しになりますが…その男性とは4年付き合って、お互いに恥ずかしいものが何もなくなって、家族みたいな関係でした。彼は「俺たちが別れられるはずはない。これからも付き合い続ける」と言います。しかし「子供は産ませるし子供のために向こうと結婚する」と言います。どんな不細工な手足であっても、もがれれば痛いし不便です。彼は私の身体の一部のような存在だったので、そういう形でも付き合い続けられるのではないかと思い、相手の女性の妊娠が知ってからも温泉旅行に行っていました。以前と変わらず、むしろ前より優しくなった彼。しかし、私の両親はそんな交際を認めません。彼は私の家族にとって悪魔のような男になり、私も次第に冷静になってきました。

 

「赤ちゃん…か」彼に「私が先に妊娠してたらどうなってた?」と聴いたら「そりゃ君と結婚してたよ」「子供は生まれてくるものだから」という答え。
でも、そのやり取りも狂っていました。付き合っていたとき、彼は私の前に交際していた女性を例に出し「そのひとは結婚願望の強い女で、俺は自由に生きたいからある日別れてもらったんだ。たくさん泣かれたけど、自立した相手と自由恋愛がいいんだ」

 

何も築きたくない、でも時々女の温もりがほしい。九州男児なので料理が下手だと怒られました。交際自体に我慢が多く、何年経っても何も積みあがっていかない関係。出版社務めだった彼は私のアパートのドアを明け方に「コン、コン」と鳴らして、ドアを開けると私が寝ていた布団に入ってきて、風で冷たくなった身体を押し付けてきます。10歳年上だったけど、三男坊で甘えん坊でした。

 

妊娠7か月になり、相手の女性のお腹がいよいよ大きくなってきたというので、籍を入れて一緒に暮らすと言う連絡がきました。
電話をかけたら、彼の家に荷物を運んできた彼女が「カチャ、カチャ」と食器を片付けている音が聴こえ…なんということはない食器の音なのですが、真っ青になり電話を切りました。ぼんやりしていた私の態度が、酷くなってきたのはここからです。「なぜおろさないの!?」「私との4年間はなんだったの?」どうしたらいいか分からず、視界が点になり、まだ尽くし続けることにしました。彼が国立から鎌倉に引っ越したときは、寒くて眠れないというので電気毛布を買って電車で運んだのですが、北鎌倉を通る電車が森の中の狭い道を通っていて、幻想の世界へ入っていくような感覚がありました。

 

そこからがさらなる煉獄で、自分を生かせてもらう言葉をもらうために、月に10万くらい電話鑑定の占い師に相談しまくりました。言うことは皆バラバラで、すぐに離婚して戻ってくる、子供もそんなに大切にしない、という占い師もいれば、相手の女性はすべて人生を思い通りにする人で、この妊娠も年貢米のようなものだと言う占い師もいました。よく覚えているのは「あなた(青石)は激しい女性だから、本来妊娠した女を線路に突き落としてやりたい、と思うことがあってもおかしくない。月と冥王星と天王星がICでコンジャンクションしていて、それが全部MCの火星とオポジションしているから」と言われたこと。「でも、あなたはやらない。優しい星がありすぎる。火星と天王星の位置が逆で、天王星がMCにあったなら、何かやっていたかも知れないね。天王星は自己表現の星だから」

(ここまで読んでくれて気分がよくない方は、申し訳ないです。)

続き

私は彼の「先に妊娠してたら結婚してた」という言葉を反芻して、生理がくるたびに風呂場で自分のお腹を拳骨で叩いていました。こんな身体、死んでいるのとおんなじだと。この状況において、男性は女性にそういう感情を抱かせることになります。

向こうは籍も入れて、子供も生まれた。裏切られたのは自分なのに、これからは何を言っても私が悪者になる。社会的に、法律的に守られているのは向こうのカップルです。目から血が出るほど毎晩泣きました、声が出ないように枕に顔をうずめるのですが、呼吸困難になって、顔も火のように真っ赤になりました。

その後は赤ん坊を見るだけで苦しくなり、オムツのCMが始まるとTVを消し、保育園児のお散歩の行列が遠くに見えるとダッシュして引き返しました。赤ん坊が可愛いものだ…と思えるまでに、何年も何年もかかりました。

風の時代が来て、自分の人生に起こったこの出来事をどうとらえるのか。当時すでに風の時代だったら、妻子をつくった元カレと付き合い続けられただろうか?
アホ彼は別れてから二年ほどは12月になるとクリスマスプレゼントを持って私の家に現れましたが、滑稽だったのは人の体の三倍くらいの大きな熊のぬいぐるみを自転車で背負ってやってきたことです。
「馬鹿みたい」「そんなもの置く場所なんてないのよ!」「でも置いてほしいんだ」とまた泣く彼。

 

その後、浮気がきっかけで生まれた男の子の下に、女の子も生まれ、二人ともSNSで発信をしています。
元彼は相変わらず自分勝手なライフスタイルで、ワールドミュージックの取材で頻繁に海外に行っているようでした。
2004年、ロンドンのヒースロー空港で偶然再会して、びっくりしました。

 

「俺のこの選択を、俺は死ぬときにどう思うんだろう」と、しみじみした顔で語っていた泉谷しげる似の男。

マチャアキにも似てたので学生時代のニックネームはそれだったそう。

母となった女性は地のグランドトラインに蠍座の月が突端に突き出している人で、巳年生まれでした。
まだすぐには死なないと思うので、結論は先送りだと思うけど、感想を聞いてみたい気もします。

赤ちゃんに罪はなく、とても可愛くて美しいものだけに、赤ちゃん恐怖症だった頃を思い出すと、辛くて辛くて胸が痛くなります。
風の時代の神様が大天使ガブリエルのようなメッセンジャーを送ってきたら、多分おそらく
「それがお前の運命で、運命は祝福だから、死ぬまでに分かるよ」と伝えてくるような気がします。