10年以上前になりますが、環線道路沿いのマンションに住んでいたとき、深夜の車の騒音振動がひどいので、安眠のために都内のホテルに避難していたことがありました。今思えば大変な無駄遣いですが、途中から開き直りでホテル・ジャーナリストになった気分で、「素敵だ」と思った宿には何度も宿泊したりしていました。円安の今では不可能なことです。
書籍などでも「リッツカールトンの接客の極意」みたいなタイトルを見るとつい買ってしまい、人が人に行う「もてなし」には大いに興味があります。都ホテル(現在のシェラトン都ホテル)と、六本木のグランドハイアットがお気に入りで、目白の椿山荘も親切でエスプリが効いているので好きでした。ラグジュアリー系ではないけれど、原稿を書きたいときに神楽坂のアグネスホテルも便利に使わせていただいていました。今はなきホテル西洋銀座と、格式があると思っていた恵比寿のウェスティンには二度と行かないと思います。
それから二度引っ越しをして、安眠のためのホテル宿泊はしなくなりましたが、根っからホテル好きなのか現在の住まいはシティホテルに囲まれた界隈にあります。ここに引っ越してきた当時は、2週間に一回くらいはホテルに朝食に出かけていました。朝食の値段がどんどん上がり、初めて行った時の二倍近くになっているので、今はそう頻繁にも行けません。
それでも、もう6,7回は出向いているのが、自宅から徒歩数分くらいの立地にあるザ・プリンスギャラリー東京で、比較的新しいホテルであるこちらの37階にあるレストランの朝食は最高です。そんなにたくさん食べられないし、お料理の種類でいったらもっとバラエティ豊富なホテルはあると思います。ここは、空気感がいいのです。スタッフの連携プレイが絶妙だし、働いている姿が優雅で、テーブルに案内してくれた男性も、椅子にほこりがないか、手で払う仕草をしてくれます。ほこりなんか落ちてるわけがないのに、まあ一種の執事プレイみたいな感じです。いろいろ面白い。ハワイアンフェアとのことで、いつもはない卵料理のメニューもあり、エッグベネディクトをオーダーしました。
お客さんも和やかで、私のように気合を入れにきた(笑)一人客の若い男性もいて、目玉焼きを頼んでいました。要は、空間とサービスから栄養をもらっているので、料理の種類の多さはそれほど重要ではありません。ここから一日が始まっていくことが素晴らしく感じられる…フロア全体に料理の邪魔にならない程度のアロマの香りも漂っていて、嗅覚が敏感な水瓶座としても萌えポイントが多いです。くどくない、面白い、どこかミステリアス…そういう場所には、何度でも行きたくなります。
同じ週に、朝食バイキングで有名な帝国ホテルの17階のレストランに行きました。朝ごはんを食べるためにわざわざタクシーに乗るなんて、どこのセレブ気取りだとも思いますが、9時までに入場しないとバイキングに参加できないので車で向かいました。レストランの入り口で、アジア系の二人組のお客さんが割り込んできて、仕方なく譲ったら「私もいいでしょ」と言った感じでもうひとりのアジア系の女性が割り込んできました。宿泊のお客様なのでしょう。私は朝ごはんだけの客なので、譲ることにしました。
お料理の種類は多いのですが、何か居心地が悪い…プリンスギャラリーではポットのコーヒーと泡立ったホットミルクでしたが、こちらは煮詰まったオフィスコーヒーが一杯だけ注がれて、生クリームを入れても色が変わりません。オムレツの実演も、それほどワクワクしません。フルーツジュースは美味しく、特にキンキンに冷えたピーチジュースがフレッシュ。でも、居心地がよくないのです。ミッキーの耳の形の風船を頭につけた女の子が、パパとママに甘やかされて立ったままジュースを飲んでいます。
空いたお皿を下げに来たベテラン風の女性スタッフに「コーヒーがとても苦いので紅茶に変えられますか?」と相談すると「もちろんです。すみません」とプロの笑顔。「コーヒー系のほうがよろしかったら、カプチーノもございます」とのことで、カプチーノにすると、少し時間がかかりましたがネッスル風味のカプチーノを持ってきてくれました。
「楽しくない…お腹はいっぱいになったけど。何かが自分に合っていない」
神経質な自分は、会計のときにロボットのように無表情な眼鏡をかけたスタッフが、ずっと咳をしていて、機械的にカード決済の作業をしているのにもがっかりしました。でも、彼の風貌は、なんというか、とても「帝国ホテル風」なのです。由緒あるホテルであり、躾も受けている。誇りもあり、マニュアルもあり、軍隊のようです。
6100円のバイキング朝食のあと、「スターバックスに行けばよかったな」と日比谷の街を歩きながら後悔しました。自発的・主体的なサービスと、軍隊的・伝統的なそれとはまったく違います。「軽やかさ」の問題です。
マドモアゼル愛先生が動画で「冥王星山羊座と冥王星水瓶座の違い」について語っていたので、なるほどそれか! と納得しました。
使役のためのサービスは、もう古い。「もてなしている私たちも楽しんでいますよ」というスタッフのいる空間は、軽やかです。
まだ形にならず、目に見えないものは、これからどんどんマネタイズされていくと思う。
天下の帝国ホテルに「まっ、我慢すんなよ。楽しんでやれよ」と言ってもスルーされそうですが、同業他社の新しいホテルにスパイに行くくらいの気概はあってもいいよなぁ。
たくさんお金を使ったので、しばらくはお茶漬け朝食で倹約しようと思います。
37階の朝食はテンション上がります…❤
