敵部麒麟隊からの撤退、そして態勢の立て直しを目的とした大和作戦が開始されて二時間が経った。

 第一段階となるミナミの戦車隊とカレンの艦隊による陽動は今のところ上手くいっている。外からは撃ち合い、破壊する轟音が聞こえてくる。規模の大きさでは最大といえる戦艦、そして戦車のぶつかり合いだけあって戦闘は実に派手だ。しかし、よく見るとただ派手なだけでこちらの攻撃は相手に致命傷を与えるに至ってはいないことがわかる。冷静になって考えれば何かがおかしいことに気づくだろうが、火薬のにおいでそれをうやむやにするという作戦だった。

 「相手は自分たちの守りと情報網に自信を持っている。そこを突くのが一番だ。」

 作戦開始前日、最終チェックで参謀であるユウジはこう言った。今回、第二師団はその両方をつく。敵艦の攻撃が核心に至らないのは自分たちの守りが優れているから。仲間内での通信コードで回ってきた情報なのだから、まず間違いない。そう彼らに思わせ、油断させるのだ。実際に死線をくぐる軍人であっても気を抜くことはある。学生の軍となればなおさらだ。そうして油断したところで情報網を麻痺させ、一気に戦況を覆す。まぁ、そこまでは至らなくとも相手の士気を下げてこの場を下がらせるというところまでは期待できる。受験戦争においてはとても重要な時期とされる夏。これ以上の無様な姿は許されない。全員が強い気持ちをもって作戦にあたっていた。

 「まだまだ!ありったけの炸裂弾、煙幕弾用意!できるだけ派手に火薬ばら撒くよ!」

 カレンはいつもの艦長室ではなく主砲内部から指示を飛ばしていた。人手が足りないため、自ら重たい弾を装填しながらの指令である。受験戦争においての弾は人を殺すことはないが敵の艦などは破壊できる、という仕様だ。間違って暴発しても死ぬことはないが、主砲がダメになってしまう。そうなると大きな戦力の損害だ。そのため弾の装填はかなり気を遣う作業であり、それと指示を同時にこなすとなるととても常識では考えられないほどの神経の張り詰め様だ。だがカレンは不敵な笑みを崩さないまま、休むことなく作業と指令を続けている。ウツミ衛生兵はそれを手伝いながら、彼女の様子に見える疲労に気を配っていた。

 ウツミは衛生兵である。ふつうの戦場においては負傷した味方を癒す、何よりも大切な兵。だが受験戦争において負傷は多くない。普段の生活に比べればはるかに多いが、それでもウツミとあと一人の衛生兵で十分に回るほどの量だ。そのため、自分が役に立てることは少ないのではないかと不安に思っていた。もとから戦闘も苦手な自分である。非戦闘員とは言えど直接的に役に立つ通信兵のハルヤや参謀、諜報員のユウジと比べて自分が艦長室に集まれるメンバーの一人として数えられることさえおこがましいような気がして仕方がなかった。周りは優しい。どちらかというとマスコット的イジられキャラの扱いではあるが、それでも自分を尊重し、しゃべるのが苦手な自分を受け入れてくれる。しかし、自分は彼らの役に立つことができない。せいぜいできて弾の補給に急いで走るだけ…。自分も何か、もっと自分にしかできないことで助けてあげたい。例えば目の前にいるカレンに休息を促したり…

 けれどカレンの横顔がそれを許さない。第二師団の団長として、この戦いに命を懸けるものとして、こんな作戦の初期段階で倒れるわけにはいかない。まだ自分は、まだ、まだ…。そう全身で主張していた。実際、ウツミ衛生兵の拙い知識で観察しても今すぐに休息が必要と言える様子ではない。しばらくは、いや思っているより長い時間、持ち前のガッツも併せて彼女は戦い続けるだろう。だが…

 「ウツミ、ぼけーっとしてないで、次!」

 ウツミは自分の名前を呼ばれ、慌てて手元の煙幕弾を持ち直した。自分がやるべきことは分かっている。けれど…。

 そろそろ作戦が第二段階に入る。少年はまだ、あと一言の勇気が持てないでいる。

 

 「わーお、派手にやってるねえ。すっかりカレンちゃんとミナミちゃんの華麗な砲撃にくぎ付けだ。うん。陽動大成功、って感じ?」

 「ここまではおおよそ作戦通りだ。第二段階に移ろう。…あんま緊張しないほうがいいよ、大丈夫大丈夫。失敗しても死にやしないから。」

 カレンの艦隊から少し離れた、戦況の外れ。小さめの艦隊の内部で参謀のユウジと通信兵のハルヤが座っていた。古のレコード再生機のようなラッパスピーカーから漏れてくる声はキラスケのものだ。ハルヤの前には複雑な通信機械とこの数日の彼の汗と涙の結晶、通信コードの解析表が広げられている。

 (…何回見てもすげぇな。俺には全然理解できない)

 解析表片手に「ちゃんと繋がれちゃんと繋がれ」「このボロクソ機械働かなかったら今度こそスクラップ」と柄にもない呪詛を吐き散らしながら機械を巧みに操作するハルヤを見て、ユウジは素直に感心した。もともとハルヤは別段通信マニアだというわけではない。それでも訓練所に入り通信兵として任命されたときからスキルを磨き続け、今では自慢の通信兵となっている。もともと受験戦争において頭に詰め込まなくてはならないことは多いのに、それに加えて通信の技術まで学ぶことがどれだけ大変なことかは想像に難くない。それを考え、改めてすごいな、とユウジは同級生の背中を見つめたのだった。

 「よし、もう通信できるところまできた。」

 「了解。ノリミツ、準備できてるか?」

 ハルヤのサムズアップをうけて、ユウジは手元のマイクに声をかけた。今回の作戦では二重に陽動が行われる。一つ目は現在行われているカレンとミナミによるド派手陽動。二つ目は今回の目的であるゲリラ隊を壊滅させるためのノリミツら切り込み隊による陽動だ。カレンらによる陽動の最中、ハルヤとユウジによって敵部のゲリラ隊に「今行われている艦隊の砲撃戦は陽動。現在切り込み隊が後ろから奇襲をかけようとしている。至急ゲリラ隊は集まって切り込み隊を殲滅せよ。」という情報を流す。これが大和作戦の第二段階だ。そのために今、ノリミツには慣れない小型艦で海岸に近い場所を動いてもらっている。ゲリラ隊は主に地上を動いている。海岸近くを航行する小型戦艦を見れば、おそらく戦車なりなんなりを使い、地上からの攻撃を試みるだろう。地上から攻撃したくなるように、あえて一番弱っちそうな試作型を選んだ。一応操舵技術に優れた兵士も数人付けたのでなんとかなっていると思うが…

 「うん、大体、大体大体大丈夫だと思う。」

 …この分だとなかなかてこずっているようである。ユウジは苦笑し、「別に急がなくていいよ。」と声をかけた。

 「いや、なんとかなる。うん、うん…いける。」

 「本当?」「………本当」「沈黙が長いぞ」

 軽口をたたきながらも、ユウジの眉間にはしわが寄っていた。あまり艦隊のほうの砲撃戦を長引かせると流石に陽動であることを看破される。カレンたちはうまくやっているが、敵もなかなかのものなのだ。あと一時間は待てない。

 「悪いが、信じるぞ。総員に通達!大和作戦、これより第二段階に移行する!」

 ユウジは通信のスイッチを切り替え、全員に聞こえるように声を張り上げた。通信だから別に大声でなくとも聞こえる、というのは頭では理解しているのだが、やはり作戦の進行を告げるときは気持ちが高ぶって声が大きくなってしまう。数瞬後にラッパ型スピーカーから「了解」「分かった!」と各部からの返事が返ってきたことを確認し、ユウジはハルヤに合図した。ハルヤが通信のスイッチを切り替え、ユウジにマイクを手渡す。まだマイクはオフだ。ユウジは軽く咳払いし、つぶやいた。

 「ああ…俺も頑張らないとな」

 マイクのスイッチを入れ、「こちらイオリ」と話しかける。「繰り返す、こちらイオリ。敵軍の通信を盗聴したところ、現在行われている砲撃戦は陽動であることが判明した。現在主艦隊八時の方向より、海岸沿いに小型艦隊が接近中。ゲリラ隊応戦願う。」そう話すユウジの声は、先ほどまでとは全く違う声だった。

 ユウジの諜報員としての特殊スキル。それは声帯模写だ。老若男女あらゆる人間の声を真似、再現することができる。精度は大変高いとは言えないものの、警戒していない人間なら簡単に騙せるほどのレベルだった。元から物真似が得意…と言われると妙にイメージと違うような気もするのだが、本来ユウジはわりとお調子者でお茶目な人物である…な彼は声だけでなく話し方まで上手く似せる。普段は宴会芸、一発芸大会でしか使いどころのないこの特技が役に立つ日が来るとはな、とユウジは不思議な巡り合わせに驚いていた。

 背景の音から偽の通信だとバレてはいけない。息を詰めるような時間が過ぎ、ユウジは震える手でマイクのスイッチを切った。思わずふう、とため息をつき、あー何度もやりたくないな、と首を振った。まだ仕事は山ほど残っている。今度はノリミツに指示を出さねばいけない。

 「ほんとうに上手くやるよな…話し方とかもちゃんと真似てるの?」

 「ああ、あいつ学校じゃクラスメイトだ。ふざけ散らしたへらへら声だから、再現しやすい。」

 「クラスメイトに対して辛辣だな…。」

 ハルヤが苦笑いしながら突っ込みを入れた。その最中も敵の通信で異状はないか、予定通り進んでいるか盗聴する手を止めない。今ユウジが扮したイオリという男は敵麒麟隊で異端ながら優秀な兵士として知られている。単独行動を好み、上に従うことを嫌う。しかし彼の行動がもたらす情報は結果として麒麟隊の守りの硬さに一役買っているため、自由な行動には目をつぶられているという人物だった。一人が多く、その上わりと癖のある人物。扮するのは簡単だが、うまく働くかは読めないという諸刃の剣だった。偽情報だとバレれば一瞬ですべてがパーである。通信の言葉だけでなく、声色や背景の音にも十分気を配る必要がある。

 作戦はまだ佳境にも差し掛かっていない。小型艦隊の内部は静かに、しかし確かに緊張している。

 

 一方そのころ。砲撃戦が行われ、そして今ノリミツたちの艦隊が航行している場所と反対方向の海岸。その軽く洞窟のようになったところで、キラスケはぽつんと一人遠くの戦場を眺めていた。サボっているわけではない。彼には彼なりの考え方があってここに留まっているのだ。もともと陽動には向かず、ばかすか水柱が立つ現在の戦場に飛び込んでいけばいくら潜水艦だとして万が一はあり得る。そして潜水中に被弾すれば、本来命を落とすことなどない受験戦争でマジお陀仏になってしまう。ならないよう細心の注意を払った設備、そして何より彼の操縦技術があるのだが。それでも今回の作戦にキラスケ率いる潜水艦隊…たった一隻、そしてキラスケ一人しか所属していないが…は必要なかった。そのため今はハッチから顔を出してぼんやりと戦況を眺め、時折通信を飛ばす仕事(?)に専念しているのであった。

 「ひまだなー、なんか起きないかなー。」

 彼が出動するようななんか、となると不測の事態(それも悪いほう)だが、それを望んでしまうほどに今の彼は退屈していた。ほんとうに、ひま。退屈しのぎにけして書き物に向いているとは言えない潜水艦の上でキラスケはノートを開いた。

 

 

2020/08/01
8月だってさーーーーーーーーーー!!!やばない?普段なら遊び呆ける夏休みだよ?やばー(笑)
マジ高校デビューしたるからな ワシも陽キャの仲間入りじゃ
放課後にカラオケ行ったりとかめちゃくちゃ楽しみなんだけど笑 花の高校生だよ?やばー
まだ半年以上あるけどね☆
ヒルメッシは鮭おにぎり。ダイエットを試みたけど普通に腹が減る。だがわたしは負けない 痩せるんだい
昨日マジで寝れなくって死んだ 目が痛い、、、
あっ!!!!!見て見て髪切った(見せられない)
美容室かつてない好プレー。気に入った。
バンメッシはチャーシューおにぎりとタコブロッコリーバジルサラダとからあげ棒。飯はほんとにちゃんと食べた方がいい(戒め)
後ろに書くアドバイス、みんな勉強のことを書いてるから生活面とかのこと書こうと思ったけどおかんみたいなことしか書けない エミヤか?
エミヤママーーーーーーーっ!

2020/08/02
塾さみぃな
今日は最高に天気が良くってよ もうそれは日本晴れという言葉がぴったりでしてよ
こんな日に家族で遊びに行けたら最高でしょうね 自転車乗って海に行って
レストランでお昼を食べて デザートもジュースもつけて
あと友達とディズニー行く日にしても最高 あーディズニー行きたい
だんだん受験モード飽きてきてるんよな まぁこれはこれで楽しいよ まぁね
そういや昨日の新シン(非公式)ピックアップは投影魔術が2枚も来て終わった ちね
新シン欲しい、、、、、、、、、
ヒルメッシはこしあんぱん うめぇ
健康を意識して最近は茶と水を選択してる
あーあちょっともう食べられねぇってくらいまで美味しいものが食べたいな レストラン行きたい
あとひと月くらいしたら多分1回くらいは行けるようになるからそしたら行こうな な
健康とダイエットと心が争うバンメッシ時
今日願望ばっか言ってんな?願望があるってのはいい事だよな(適当)
、、、第二師団と行く人理修復、、、!?(何かに気づいてしまった顔)
バンメッシは梅おにぎりとポテサラとからあげ棒だった。うめぇ。
でもちょっと腹がいっぱい。
第二師団人理修復妄想楽しいな〜〜〜〜〜〜〜

2020/08/03
今日は暑かった
報道委員があったんよー
少年OHがなんか「塾あるから帰ろっかな〜〜」とか言ってたと思ったらマジで帰りやがったあいつ許さねぇ 先生は10分キレ倒すし
まぁどうでもいいけどなーーーーーー
ねむぅぃ

2020/08/05
ねむい!あつい!かえりたい!さいあく!修学旅行なくなった!ちね!おわり!

2020/08/06
8月6日だってさ。ねむいね。
今日もど腐れ暑かった。おやつに駄菓子を食べた。今日私立の見学予約あったらしいけど暑かったのでやめた。
明日は卒部式らしいよ。後輩の名前覚えられないまま卒部か。何の思い出もねぇな。楽しかった。たぶん。私には分からない。
今日の晩飯は春巻き。やーっ↑たぜ。
星野源の声に何らかの入眠効果ない?聞いてるとめっさ眠くなってくるんだけど
漢字が思い出せなくてひらがなで書き直した瞬間に思い出しました。こんばんは。
つか今日授業ないんよね。めづらし。
明後日は古文単語テストだ!殺す気で頑張る!

2020/08/08
うぇーい。夏休みですうぇーい。
昨日は卒部会だったよー楽しかった
ビンゴやったけど結局部長が最後まで残ってしまうというエンターテインメント
色紙とか貰っちゃってもー感激 泣くわ 泣かないけど
メモリアルクエストクリアしまくって回すも星三礼装祭り。カムラン2枚は草
英霊紀行はベディです。あったりめえだろ!
なんか疲れてきたーーーーオロナミンCぶち込んで頑張るぞい☆は?
キャスニキとかアーラシュとか特異点Fの考察面白すぎてもう、、、
伊吹上官なんかキレてる。ウケる。ウケないけど。全く笑えないけど。
ヒルメッシはいつものように紅鮭おにぎり。かつおめしが気になったが冒険できなかった。
はーいいいよいいようるせ〜〜〜!しらね〜〜〜!かえらずのじ〜〜〜〜〜ん!!
なんかメモ戻ってくると勝手に上の方に行っとらん?毎回下に戻すのだるいんだけど
数学の課題終わらない!!!(クソデカボイス)マジでやばい
小テスト終わらないと他のに行けないんだけど ねぇ!つらみ!
竹箒日記の過去ログってどこにあんねやろ
バンメッシはカレーパンとマカロニたまごサラダ。サラダとか言っておきながら野菜/zeroだった。

2020/08/09
健康を意識して食べる量を控えめにしたり足マッサージやったりした次の日にもう飽きることに定評のあるわたくしです。おはようございます。
なんか朝起きてから塾に行くまでに勉強してる超徳の高い人類がいるんだって?はーーーーーーすごいねぇ ちょっとわたしには真似出来ないねぇ
この2時間くらい遊んでも良くね、、、?良くね、、、?良くね、、、?(セルフエコー)
歯が痛いんだけど多分虫歯だわ あーやだ
首かゆすぎてバーサーカーになる
Urrrrrrrrrrrrrrrrrerere
適当に打ってたら途中からレレレのおじさんになってしまった。
ヒルメッシはかつおめし は???かつおめし美味!?!?!?!?めっちゃうま、、、うま、、、🐎🐎🐎
カレンちゃんがオムライス食べてる〜いーなー私も朝食べたけど
兄貴の強化来ました!兄貴の強化来ました!兄貴の強化来ました!兄貴の強化来ました!兄貴の強化来ました!(素振り)
戦闘続行が四枝の浅瀬になると踏んでる。あれ?アトゴウラってこの当て字で合ってたっけ?まぁいいや
アルジュナの強化来ました!(マジ)
セルフアヴァロンがマジモンの局地的アヴァロンになった
てかいまセルフアヴァロンと局地的アヴァロンって打ったら両方に「の騎士」って付いてきたんだけどなに?既にある言葉なの?帰ったらググるわ
ママの強化来ました!ママの強化来ました!(素振り)
こっちは宝具の強化か?わからん。
今日は12時間自習だぜ!ふぅーーーっ!俺のボカロ12時間プレイリストが火を吹くぜ!
バンメッシは焼きおにぎりとバジルサラダと揚げ鶏。揚げ鶏うめぇ。次からこれにする。
腹痛てぇ



 そして、キラスケの願いを聞き届けたのか何なのか、「なんか」は起こってしまった。

 「こちらユウジ、全員に緊急通達!ノリミツの艦隊が壊滅!繰り返す、緊急通達!…」

 キラスケははっとしてノートを閉じ、通信機のもとへ走った。ユウジの声は明らかに焦っていた。ノリミツの艦隊が壊滅したとなると、敵は陽動を行っているカレンの方にここぞとばかりに戦力を集中させて完膚なきまでに叩きのめそうとするだろう。砲撃戦は敵に陽動である、という情報が流れたために現在は多少落ち着いているが、壊滅の情報が届けばすぐに徹甲弾などを用いて本格的に攻め始めるに違いない。そして最悪なことに、敵のゲリラ隊はまだ一か所に集まるに至っておらず、航空隊による攻撃もできない。

 「やっぱ慣れない艦隊任せるんじゃなかったね、自滅でしょ!?」

 「ああ、当然だよ!」

 キラスケはユウジとの直通ラインを開き、呼びかけた。やけくそ気味のユウジの声に、いやなんかこれ新鮮だな面白いなと思いながらキラスケは言葉を続ける。

 「おっけー。じゃあアレ、使っちゃうね?使っちゃうよね?」

 「うん。ただいまより潜水艦隊と遊撃隊によるプランBを遂行する。キラスケ艦長、頼んだぞ。」

 「あい、参謀!」

 キラスケはユウジの指示を聞き終わるや否や飛び出してハッチを閉じた。そのまま疾風のごとき勢いで操縦席に座り、各機材のスイッチを入れていく。メーターの指差し確認を終えると、キラスケは満面の笑みでペダルを踏みこんだ。

 「大和作戦プランB開始!小型潜水艦ビクター号潜航!キラスケ、いっきまーす!」

 小型潜水艦…いわゆる「ポケット潜水艦」であるこの船にはキラスケ一人しか乗っていない。だから好きなだけ叫んでいいし歌いながら操縦していいし戦闘中に大爆笑しても良いのだ。まあ、仮に上官が三人後ろに立っていたところで彼は同じことをするだろうが。だが…

 「おーおー、いってらっしゃい。」

 「歌うときは通信切って、気が散るから」

 船内スピーカーからユウジとハルヤの声が聞こえた。「嘘やん!」と叫んで近くの通信機を確かめると、スイッチが入りっぱなしになっている。

 「……恥。」

 キラスケは静かに通信を切り、しばし悶えていた。

 

 大和作戦プランB。それは作戦前日の最終確認で急遽作られた二つ目の大和作戦である。もちろん戦場にはありとあらゆる不測、想定外が満ち溢れている。そのためメインとなる大和作戦…プランAとも呼ばれる…にも様々な緊急対応は示されていた。しかしプランBはそれを上回る想定外が発生したときのためのもの。具体的には、前日にノリミツの艦操作スキルが壊滅的だったことを受けて「あれ?実はこれマズイのでは?」となった作戦担当たちによる急造作戦だ。右に曲がろうとして左に向かい、弾を暴発させ、挙句の果てには目の前に見えている岩にぶつかって座礁しかけるなどトンデモ操舵を見せたノリミツは作戦担当が話し合っている間ずっと九十度のお辞儀をしていた。

 ノリミツの艦隊が何らかの理由…作戦書内では「自滅」と明記されていたが…で作戦の遂行が不可能になった場合、やることは二つ。一つ目はカレンたちの艦隊と戦車隊も同時に壊滅することを防ぐこと。こちらは現在キラスケが潜水艦で行っている。そして二つ目は、当初の予定通りゲリラ隊を麻痺させることだ。

 リョータはゲリラ隊が集まりかけていた海岸近くの木の枝に座って、ユウジからの通信を聞いていた。崖のようになっている海岸の上は木が生い茂り視界が悪いが、よく目を凝らせば同様にして木の枝の上で息をひそめている兵士が数名いることが見て取れる。迷彩の服を着た彼らはみなリョータ率いる遊撃隊のメンバーだ。プランBではゲリラ隊に偽の情報を流しつつ集めるという点では変わらないが、ゲリラ隊によって強硬的に追い詰めていくという手段も投入される。ほぼ人対人の戦闘となる上、包囲網に穴があれば終わる。一応上空には偵察機が一機、そして戦車も数台用意してもらっているもののなかなか厳しい作戦だった。遊撃隊は文字通り戦場を一時も休まらずに駆け抜け、奇襲で敵を混乱させることに特化している。同様の戦い方をするゲリラ隊との対峙は未知であり、うまくいくかどうかは全く分からなかった。

 それでも、とリョータはこぶしを握り締める。音量を絞った通信機からかすかに聞こえるのは出撃を待つツバサの声だ。

 「頑張れ、負けない。」

 以前、ツバサの部屋の前で好きなゲームについて言葉を交わした時から、ツバサとリョータの話す機会は増えていた。一番の仲良し、とまではいかないが友人の一人に数えるくらいまでは信頼している。エースパイロットである彼に友人として恥じないように。たとえ底知れない戦いであったとしても、勝つ。

 リョータは覚悟を決め、木の枝から地面へと飛び降りた。

 

 カレン操る弩級戦艦の内部。ノリミツの艦隊が壊滅した、という情報を受けてから船内は一層過酷な状況へと陥っていた。一時は落ち着いていた敵艦隊の攻撃が一気に苛烈になったのだ。今までは様子見のように炸裂弾を撃ち合っていたが、現在は本気で沈める気なのか徹甲弾をばかすか撃ってくる。幸いカレンのいる主戦艦は被弾を免れているが、いくつか戦闘不能になった艦も現れ始めていた。

 「マズイね。これは…。こちらも徹甲弾用意!」

 カレンが指示を飛ばし、それに合わせて兵士たちが動く。まだ被弾していないという安心感からその体系は崩れていないものの、疲労や不安から兵士たちの士気は明らかに下がっていた。カレン本人もそろそろ休息をとらないと今後大事な場面でうまく動けなくなる可能性がある。しかし、その鬼気迫る様子に誰も休息を勧められないでいた。

 ウツミ衛生兵はずっと悩んでいた。人間は何時間も連続で集中し続けることはできない。それは訓練された兵士でさえ同じことだ。今も仲間は休める時間を欲している。仲間の健康を守り、それによって勝利を守るのが自分の役目。だが…あと一つ、あと一言だけの勇気が出ない。たった五分で良いから安心できる時間があれば、それなら自分も迷いなく役目を果たせるはずなのに。

 ウツミがこの数時間何度も悩み続けた問いにまた「保留」の結論を出しかけた、その時だった。

 「…!敵艦二隻、傾いています!あっ!続いてもう一隻、様子がおかしい!これは…」

 双眼鏡で外の様子を眺めていた兵士が驚きの声を上げた。カレンとウツミが慌てて窓の近くに寄ると、確かに厳重に守られていた敵の主力艦が二隻傾いている。自分たちが撃った徹甲弾の仕業、というわけでもなさそうだ。となれば、あとは…

 「あーあーあー、こちらキラスケ。みんな見えた―?とりあえず主力っぽい艦二つは魚雷ぼこぼこにぶち当てといたから!こっちは僕にいったん任せて、立て直し頑張ってね!じゃ!…うわぁあっぶね!」

 通信機から突然、戦闘中とは思えないほどに明るい声が響き、ウツミは思わず肩を震わせる。潜水艦によってこちらの援護に回ったキラスケが無防備になっていた下から敵艦隊を攻撃したのだ。それを証明するようにくぐもった爆発音が次々と聞こえ、艦の傾きが激しくなっていく。見えない敵にパニックになった敵艦隊が攻撃の手を一時休めた。今しかない、とウツミは口を開いた。

 「みんな聞いてください!あの、一時交代としませんか!たぶんずっと働いてて疲れてると思うので、今キラスケさんが戦ってくれてるので、あの今しか休む時間はありません!」

 しどろもどろだった。上手くしゃべれなかった。声も思っていたより出なかった。周りの人間のぽかんとした表情を見て、ウツミはやっぱりでしゃばるんじゃなかった、と激しく後悔し急いで発言を取り消そうとした。しかし。

 「それもそうだね。現在弾の装填作業に当たっている人員に告ぐ!別隊と交代し、休息に当たるように。ウツミの言う通り、今が休息する最後のチャンスだ。しっかり休息すること!ミユキ、交代する人員は十分だよね?」

 「はい艦長!」

 カレンがずいっと前に進み出て、声を張り上げた。ウツミとは比べ物にならないほどにはっきりと、堂々とした発言。なんというカリスマだろう、とウツミはその背中を見てただただ圧倒される思いだった。兵士たちがそれに合わせててきぱきと動き、次々と交代していく。カレンはそれを見ると後ろを振り向き、ウツミのほうを見た。

 「ありがとウツミ、よく気が付くね。」

 そういうと穏やかににっこりとほほ笑んだ。ウツミは「いやいや、全然、別に、仕事だし、」と小声で謙遜しながら顔を背けた。

 「それじゃ、また徹甲弾を装填して!今のうちに沈められる船は沈めよう!」

 全員が交代したのを確認すると、カレンはまた当たり前のように弾を持ち上げた。それを見たウツミが、今度こそちゃんと声を張り上げる。

 「いや、君も休むんだからね!」