恋愛セオリーなんて誰が決めた 20 | KIRAKIRA☆

KIRAKIRA☆

こちらはスキップビートの二次小説ブログです。CPは主に蓮×キョ-コです。完全な個人の妄想の産物ですので、原作・出版者等は全く関係ありません。また、文章の無断転載は固くお断り致します。


女性の悲鳴が響く


『いやーッ!!人殺し・・・ッ!人殺し!!!』


その女性の足元に広がるのは真っ赤な血の海


叫んだ先にいるのは黒い




死神






「・・・・・・・カットッ!」


かかった声にその場の一気に皆が詰めていた空気がくずれ、皆息を吐きだした。

あまりのリアルな雰囲気にこれが演技だとわかっていても身を震わせてしまう。


その原因となっているのは、紛れもなく・・・・




「最上さん、お昼のミネラル受け取った?」

「あ、まだです。すみません持っていきますね」


すっかり顔なじみになったスタッフからお弁当とミネラルを受け取り、キョーコはカインの待つ控え室へ向かおうとした。

先ほどまで演技とはいえ、皆を震撼させていた彼は元々他の人との接触を避けていたが、最近は出番以外は本当に控え室にこもるようになってしまった。


さっきもカットの声がかかると同時にさっさと戻ってしまうし・・・・・まあ、そっちの方が素性がバレないから都合がいいでしょうけど・・・・


でも、なんか・・・変・・・よね・・・・最近・・・・


というか、撮影が進むにつれて・・・・?


そう・・・・最近、ぼんやりしている事が多い姿を思い起こして廊下を歩いていると、自販機の前で村雨と遭遇した。

向こうもこちらに気づいて、目が合って一瞬思わずお互い動きをとめてしまう。


「・・・・・お疲れ様です、村雨さん」

「うん・・・お疲れ様、最上さん」


何か言いたげな視線に気づかないフリをして、軽く会釈をするとすぐに通りすぎる。

背中に感じる視線にも振り返らずに、控え室へと急いだ。



『この業界、曖昧な態度はつけ入れられるだけだ。違うものは違う、無理なものは無理と自分の意見をハッキリ言う事だ。沈黙は・・・肯定だよ?』



あの日、カインに戻る前に敦賀さんに言われた言葉。

確かに私はまだまだ、業界ではペーペーのひよっこだけど、あくまでカインヒールの付き人。

村雨さん達と私は「お友達」ではない。


相手の顔色を伺って曖昧な態度でいてはダメだと言われた。


・・・・・まあ、それでも「バカに見える」と言われたあの暴言は未だ思い出すと腹立たしいけど・・・・ッ



だけど、その後カインヒールになった敦賀さんと再び現場に入ったとき、やはり「皆で夜に食事会をするんだけど」と声をかけてくれた村雨さんに色々葛藤はあったけど・・・・ええ、小心者のワタクシにはかなり気力を要する事ではあったけど・・・・ハッキリと言った。

「すみません。声をかけて下さるのはありがたいんですが、私はカインさんの付き人ですのでそういったお誘いは遠慮させて下さい。私にとって最優先はカインさんなんです」


一応相手の顔をつぶさない様に出来うる限りの礼を尽くして言ったつもりなんだけど・・・いつの間に後ろにきていたカインが「はっきりと迷惑だと言わないと、このエレメンタールの頭には通じないぞ」と茶々を入れてきたので、あまり意味は無かったかもしれない・・・


とはいえ、村雨さんも一応言いたい事を理解してくれた・・・みたい・・・で・・・


「え・・・・」と最初は何か言いたげではあったが、重ねて「すみませんが・・・」と言うと流石に口をつぐんでくれた。

言った後にチラリとカインを見ながら、「でも、アイツに何かされて辛かったら言ってね!」とは言ってくれて、その後キョーコが守ろうとしている適切な距離を尊重してくれている。

たまに・・・いやしょっちゅう何か言いたげな視線を感じてはいるが・・・


でも、あんな風にあっさり?引いてくれたのは意外というか、ありがたかったというか・・・


そんな事をつらつらと考えながら、控え室のドアを開けた。


『お待たせしました。カインさん。お弁当持ってきましたよ』


『・・・・・・・・・そこに置いておけ・・・・』



中に入るとカインがソファに身を投げて目を閉じていた。

その顔色が少し悪い事に、慌てて近寄った。



『どうしたんですか?具合悪いんですか?』

『・・・・・・・・・・』

『カインさん?』



反応の無いカインを覗きこむと、そのまま腰を攫われた。


「ちょ・・・ッ」


抗議をあげるキョーコを無視してカインはキョーコを椅子に座らせると、その膝に頭を乗せた。

少し位置をずらしながらいい場所を探すとそこに頭を落ち着かせる。


『カインさ・・・・』

『出番になったら起こせ』



有無を言わせない言葉にキョーコは一瞬抗議の言葉を開きかけて・・・・飲み込んだ。


ご飯を食べる時間を残して起こそう


そう決意してそのまま自分の膝を枕にして眠るカインを眺めていた。






『どうだ!カインヒールの撮影は順調か?』

『はい、全く憎たらしいぐらいにNGなして進んでいます。おかげで予定よりも早く終わる日が多くて、ホテルに押し込めていますが・・・』

『ハハハッ!まあ、大人しくホテルで台本でも読んでいてくれれば問題あるまい。』

『・・・・・・そうですね。そこまでは面倒見きれませんが・・・』

『まあ、確かにな!そこまで面倒見る必要はねーよ。君も仕事があるんだし、マネの仕事はホテルに送り届けるまででかまわんよ』

『・・・・・・・・・・・・はい、社さんにもそれは言われているので、そうしています』


先程からの微妙な間に少し違和感を感じながらも、ローリィは「では、失礼します」というキョーコからの定時連絡を打ち切った。

物言わぬ携帯を見つめて、ローリィは葉巻に火を付けた。

一息吸って、煙を吐き出す。


・・・・・・・まあ、問題がなければいいか


役が決まってからの蓮の葛藤を、そして、その根源を知っているだけに少し慎重になり代マネをつけたが今のところ問題はなさそうだった。


何事もなければいいが・・・・


とはいえ、キョーコに見せていない部分もあるだろう。

撮影スケジュールに余裕があるのはいい事だろう。あいつも一人気持ちを切り替える時間が必要だろうからな・・・。



・・・・・・と、ローリィが物思いにふけっている頃





ピッ


携帯の通話ボタンを押したキョーコは軽くため息をついた。


よかった・・・・携帯で・・・声だけで・・・・・


何とかごまかせたかな・・と、そう思っていると



『・・・・終わったか』


背後からぬっと伸びてきた腕に絡め取られて、身を引かれた。

そのまま勢いでベットにポスリと投げ出される。

目の前にはカインの色気溢れる姿。


一糸まとわぬ姿はお互い様で、まさか「あの」社長も電話の向こうで自分がこんな状況だったとは夢にも思うまい。



『ちょ・・・・ん・・・・』


そのまま顔を胸元にうずめてくるカインに、先ほどまでの熱が蘇ってくる。


『お前がちんたら話しているのが悪い』


『・・・・・・あ・・・アナタが、部屋に入って早々に襲いかかってきたのが悪いんでしょうが!』


カインのNGなしの為、予定よりも早く帰れる日々。

社にはホテルまで見送ればいいと言われているが、カインは有無を言わさずにキョーコを部屋まで連れ込み、そのまま押し倒し、結局なされるがまま。

今日もローリィに定時連絡をしなければならなかったのに、部屋に入るなり襲いかかれて一戦交えて(という表現もどうかと思うけど)からやっと電話を手に取れたのだ。



契約を結んだのは蓮だったのに


どうして、自分はこうしてカインにも抱かれているのか




『最初に求めてきたのはお前じゃないか』


クッと喉を鳴らすカインに、それは最初の出会いの事だろうかと考える。


・・・・・確かに、最初に「抱いて」と迫ったのは自分だったけど・・・

それって、あの時だけの事ではなかったのだろうか


『勝手に求めて、勝手に終わらせるなんて勝手だな』


まあ、確かに一度だけとは言いませんでしたけどね。

一度限りの関係だとは思っていたけど



そんな事を思いながら抵抗しないのは


何かにすがる様に自分を抱く姿に身動きできないから。


蓮は状況を、快楽を、キョーコの反応を楽しむ様に触れてくるのに、カインは必要最低限何も言わない。

撮影が進むにつれて激しくなっていく情事に、顔をしかめない訳ではない。


『・・・・・・せっかく早く終わったんだから、休養を取った方がいいのに。明日からまたスケジュールが詰まっているんだから・・・』


明日からはまた「敦賀蓮」の生活に戻る。

カインヒールとしての予定を確保する為に、あっちの予定はキチキチだと聞いている。



『・・・・・・そうだな・・・・しばらくお預けだ・・・』



だから・・・・と激しくなる動きに、キツくシーツを握り締める。

飛びそうになる意識の中で、自分を見下ろす昏い瞳。

ぶつけられる激情


まるで映画の中の「BJ」の様に深い色なのに


映画の中の被害者の様に怖いとは思えなかった。



ただただ




自分はきっと「安堵」していたのだ。





明日になったら・・・「敦賀蓮」になったらこの人はまたあの仮面をかぶるのだろうか・・・・かぶれるのだろうか・・・と飛ぶ快楽の淵でそっと思った。









「はぁ~・・・・・疲れた・・・・・」


思いっきり深いため息をつきながら、キョーコは事務所の廊下で思わず肩を叩いた。

結局昨晩ずっと貪られ続けて、早朝に社が駐車場に迎えに来る前に慌ててホテルを後にした。

軽く部屋で仮眠を取って、事務所に顔を出したのだ。


しばらくカインの仕事はない。

蓮のスケジュールも詰まっているから呼び出される事もないだろう。


それは自分にとって喜ばしい事のハズだ。

何事も限度というものがある。


という訳で、気合を入れ直す。

あんな堕落した不健全な日々に身を堕としてばかりいられない。



「仕事よ!!健全な、楽しい、心と身体の平穏を保てる仕事をしに行くのよ!!」


ラブミー部としての雑務がいくつかあるわよね!

モー子さん達いるかしら!


・・・・・と、敢えてウキウキしながら向かった部室で待ち構えていたのは・・・・




「・・・・・・・なに?これ・・・・・」


呆然と固まるキョーコの目の前にあるのは、まず見目麗しい親友が思わず後ずさるぐらいしかめっ面をしている姿と、その後ろにあるダンボールの山。


問題はそのダンボールから発せられる「匂い」だ。



というか、キョーコにとっては色んな意味で馴染んでしまっている「匂い」・・・もとい「香り」は間違いなく・・・





「・・・・・・・チョコレート・・・・?」




そう。

ラブミー部に積み上がっているダンボールの山から発せられるのはチョコレートの香り。

梱包されているのにも関わらず、部屋中に充満している香りから、そのダンボール全てから発せられている事が判る。

どうも最近の出来事から、この存在に変にドキマギしてしまう。



「・・・・・・・・・これ、全部事務所に届いたプレゼントですって。全部チョコレートですって。中身を確認してリストを作って欲しいっていう依頼よ。」


口早にそういうとモー子さんは耐え切れなくなったのか、ハンカチで鼻を抑えてしまった。

たしかに、視界でも嗅覚でも胸やけを起こしそうだわ・・・・



「でも、プレゼントってなんで?バレンタインはまだまだ先よね?」


1個2個ならわかるけど・・・と首をかしげて純粋な疑問を口にすると、モー子さんはもう口で説明するのも嫌なのか、さっと一冊の雑誌を目の前に押し付けてきた。


女性向けのファッション雑誌はキョーコでも知っている業界1,2の売上を誇るものだったが、問題は開かれたページだった。


特集は『敦賀蓮のお気に入り』とかいう胡散臭いタイトルに、これまた胡散臭い程の完璧な微笑みの「敦賀蓮」が写っている。


が、注目すべきはそこではない。



その中のインタビューと思わしき一節。



-敦賀さんは最近嵌り始めた事があると聞いたんですが


ー(クスクス)ええ、そうなんですよ。最近チョコレート集めに嵌っていまして・・・


ーチョコレートですか?なんだか意外ですね。敦賀さんって甘党なんですか?


ー・・・・・量はそんなに食べられないんですが、チョコレートって色々な種類がありますよね?それこそ価格も幅が広くて・・・最近どこかに行く度にチョコレートを買うのに嵌ってしまって・・・マネージャーにも呆れられているんですよ


ーえ~、そうなんですか!なんか意外ですね。敦賀さんがチョコレート好きなんて!


ーやっぱり似合いませんか?


ーいえいえ!!とんでもない!!そのギャップが可愛・・・いえ!胸キュンです!!


ーハハ、そう言って頂けるとホッとします。ホント、嵌り過ぎて自宅に専用冷蔵庫を買ってしまったぐらいで・・・


ーえ~!凄いですね!!そこまでですか!!


ーお恥ずかしい・・・


ーでも、チョコレートって高級なものや、生チョコとかですと賞味期限があるじゃないですか。そんなに買って大丈夫なんですか?


ークスクス・・・ええ。知らなかったんですがあるみたいですね・・・・・だから・・・・ちゃんと消費しないと勿体無いですよね?


ーえ・・・・ええ・・・・・!そうですよ!


ーまあ、意外と食べられるみたいなんで大丈夫だと思






ガタンッ!!!






「・・・・・・・ちょっとなにうずくまっているのよ」



雑誌を読んでいたハズのキョーコが何もないところでコケたと思ったら、うずくまったまま動かない。

流石にハンカチを外して突っ込む奏江に、キョーコ顔を上げずに思わず叫んだ。

上げれる訳がない。



「なななななななな・・・・ッ!!!ナンデモない!!何でもないから~ッ!!!!」




あの男!!全国誌で何しれっとのたまっているのよ!!!





平穏で心と身体の安寧を約束してくれるハズだったラブミー部室。

保たれる距離の中に侵食してくる存在。


その一角でキョーコはその日常がガラガラと崩れる音を聞くのだった。