「ここここここここれは虫刺されです!!いやですね!!こんな時期にもいるなんて!!私体質でちょっと刺されるととっっっっても赤くなってしまうんです!!そうなんです!!!」
明らかに挙動不審の態度で、それでも必死になって弁明する姿は最早「明らかにやましいです」としか言い様がない態度。
それでもその迫力に押されて、指摘した村雨は思わず頷くしかなかった。
とはいえ、流石にそれが虫刺されなんて心から信じてはいない
な、なにをしてるんだ、あの男~ッ!!!
カインがメイクに入ったのを見計らってキョーコが慌てて先ほどのカインの態度を謝りにきた。
別に彼女が謝る事じゃない。
あんな奴の付き人をさせられてこの子も大変だなと思っていたら、顔を上げたキョーコの首元の紅い箇所に気づいてしまった。
目を見開いて絶句して
「どうしたんですか?」とキョトンとする彼女は気づいていないみたいだったから
これから先他の誰かに指摘されるよりはいいだろうと・・・・ひどく気は進まなかったけど、とぼけて「そこ・・・赤くなっているけど・・・?」と聞いてしまった。
最初は意味がわからないみたいにキョトンとしていたが、次第に顔色を変え、みるみるウチに赤くなっていき・・・・
そして、冒頭のうろたえに戻る。
あの男、こんな純情そうな少女に迫るなんてなんて鬼畜なんだ!
女なんてその辺でいくらでも引っ掛けられるだろうが!
は・・・・ッ!ま。まさか・・・・ッ
「あ、あのさ・・・さっきカイン・ヒールが言っていたけど・・・」
「はい・・?」
ピンクのつなぎの襟元を思いっきり上まで上げて、キスマークを隠しながらキョーコは村雨の方を向いた。
ひどく言いにくそうな姿に他にも何かあるのかしら・・・とギクリとする。
「君たち・・・・デキているの?」
出来ている?
何が・・・・・??
本気で呆けて、村雨の視線でやっと意味が判った。
と、同時に自分でも驚くぐらいの声が出た。
「いえ!ありえません!!」
今度はキョーコの剣幕に驚いたのは村雨の方
「え・・・・あ・・・・そうなの・・・・??いや、そのさっきもカインがこれは俺のだとか何とか・・・」
「あの人は日本語がまだ上手ではないんです!言い回しを間違えているだけです!!」
「そう・・・なんだ・・・?」
「そうです!私、あの人と微塵もそんな関係ではありませんから!だから仕事も仕事としてちゃんとやりますし・・・・ッ!」
「ああ・・・うん、ごめん、わかったよ・・・ごめん・・・」
あまりの剣幕のキョーコに村雨も失言だったと、身を引いた。
何より上目づかいで必至に訴えてくる姿が・・・・可愛い。
そうだよな・・・こんな真面目で純情そうな子が、あんな男となんて・・・・
この子は仕事で仕方なしにカインに着いているだけなんだ。
しかも、あんな横暴な態度を取られて・・・ッ!
すっかり頭の中である意味誤解の様な、正解の様な図式が出来上がった村雨は
現場で俺が彼女を守って上げなければ・・・・ッ!
という使命感に気合を入れるのだった。
一方キョーコもキョーコで
あの虫食い男~ッ!!!こんな場所に跡つけて!!目立ちすぎよ!!!
と、文句を言おうと意気込んでいたのだが。
「カット!いいねカイン君!そのまま次のテストにも入るから」
監督の声を聞きながらもキョーコは目の前の役者に見入っていた。
カインヒールが今回演じるのは殺人鬼「BJ」。
設定としては「動く死体」
コールがかかる度に消える「生気」。
何も写さない瞳と、人とは思えない動作
ゴクリと、息を呑むほどの演技力に
『だって、あの人演技者としては学ぶ事多いわよ。近くでそれを見れる何てチャンスじゃない?』
モー子さん・・・・・・モー子さんの言ったとおりだったわ・・・・
「チッ・・・アイツ・・・・」
いつの間にか横にいたのか、村雨さんが舌打ちして横に立っていた。
さっきまでカインとカメラテストしていたのに、いつの間に・・・・・
「まあ・・・ちゃんとした役者らしいな・・・性格はともかく・・・」
「・・・・・・・・・・」
心底忌々しそうに言う姿に、思わず笑が溢れる。
すごいな・・・敦賀さん・・・カインは・・・・・
こうやって、敵対する人をも認めさせる演技をしてしまうんだから・・・
もう一度、打ち合わせをしているカインをじっと見る。
「・・・・・・そうですね・・・性格はともかく・・」
「だろ?性格はともかくだよね」
「・・・・・・へ?あ、いえ、それは・・・・」
思わず返事をして、今の言葉はカインの付き人としては失言だったかも!と慌てるキョーコに村雨は笑いかけた。
その自身満々の笑みにキョーコも笑い返すしかない。
「なになに~?二人共何笑っているの?」
愛華がやってきて、話に交わる。
そんな風に出来た輪をカインがじっと見ている事には気づかずにキョーコは周囲に合わせて笑いながら、一つの決意をしていた。
カインが演技に集中出来る様に、現場でのコミュニケーションはちゃんと私がとろう。
改めてそう・・・・・決意した。
・・・のだけど
「キョーコちゃん!スポンサーの差し入れでさくらんぼがあるんだけど、どう?」
「え、さくらんぼですか?」
「うん。向こうでみんな食べているからおいでよ」
お昼後そう言って、「皆」の方を指し示す村雨にキョーコは戸惑った。
言葉通り受け取って図々しくも輪に入る度胸も無ければ、ちょうど今カインの休憩中で飲み物を取りに来ただけなのだ。
「・・・・すみません、ではお言葉に甘えてカインさんの分で貰っていいですか?」
キョーコとしては一応精一杯の対応策をとったつもりだったのだが。
「え?あいつは別に食べないだろ?キョーコちゃん気にせずに食べなよ」
空気を読まな・・・いや、気を使ってくれた村雨の言葉にますますキョーコは戸惑う。
カインを待たせている状況でキョーコだけが輪に入るという選択肢は元よりない。
村雨達がどんなによくしてくれようと、自分はカインの付き人なのだという認識がキョーコの中で根付いていたからだ。
だが、村雨達にとってはすっかりキョーコは「可愛い後輩」みたいな感覚で接されている。
ど、どうしよう・・・・
「すみません、カインさんを待たせているので・・・」
「・・・・・そうなんだ・・・キョーコちゃんも大変だね。じゃあ、少し分けるから後で食べなよ」
「・・・すみません」
何となく、「他人」に「大変だね」と言われる事に抵抗感を覚えながらも、「村雨さんも気をつかってくれているのだし・・・」と自分に言い聞かせながら笑って誤魔化した。
『ちゃんと笑ってね』
・・・・・・そうよね。私が何をどう思おうと・・・別に・・・・
ちゃんと笑って受け取らないと・・・・
「はいこれ。すっごく美味しいから!キョーコちゃんが食べるんだよ?アイツにあげる必要ないからね?」
「・・・・・・ありがとうございます。すみません」
なんとなく念を押してくる村雨に思う所はあったが、笑顔で小分けされたさくらんぼを受け取る。
まあ、出番まで時間はあるし冷やしてデザートにすればいいか・・・・
確かに立派なさくらんぼを見ながらカインの元へ戻ろうとすると
『キョーコ』
出口にカインが寄りかかっていて、目を見開いた。
どうして
控え室で待っていたハズでは・・・?
『・・・・・・・どうしたの?』
思わず尋ねると、カインは後ろにいた村雨を睨みつけて、次に目の前にいたキョーコの腕を掴んで歩き出した。
『え・・・・ちょ・・・・』
慌てたキョーコが、それでも村雨に会釈をして
連れられて
廊下に出た所でやっと我に返った
『ちょ・・・っと!カイン!なんなのよ!!そんな引っ張らなくても歩けるわよ』
勢いに任せて腕を振りほどけば、カインがじっとキョーコを見つめた。
その視線に思わずたじろいでしまう。
な・・なによ・・・別になにも悪い事なんてしていな・・・・・
『あまり周囲にヘラヘラ笑うな。バカに見える』
絶句
言いたい事だけ言って戻っていくカインを追いかける気にも到底なれず
キョーコはそのまま廊下で立ちつくすのだった。
参加しております☆ぽちっとお願いします☆
↓↓↓