わこれは私の妄想物語


ここに触れた……

ここに



僕の、、


郁澄は何度も自分の唇を

指で撫でた。

柔らかく少し湿って

今までそこをこんなに

意識した事はなかった。



彼が真っ直ぐに見つめる視線で

頬がほんのり赤らんだ。

恥ずかしい……


初めてのキス

キスって女の子と

するもんじゃないのかな?

ここは男子校なので何らかの

切っ掛けが無い限り

女子との接点はない。

他県の高校から転校してきた郁澄は

ここで面識のある人物もいないし

元々女の子が苦手なので

女っ気のない学校にすぐに慣れた。


他校の女子から手紙を貰ったことも

あるけど、奥手だから恥ずかしくて

中身を見なかった。

中身を見たら、

返事書かなきゃいけないと

思い込んでいる。


『返事?適当にしてればいいんだよ』

凛空はそう言ったけど。



『女ってしつこいの。

それに自惚れ。

自尊心の塊。

その上わがまま!

だからはっきり言わなきゃね。

僕はキミと付き合うかなんかないって』


そんな……だって悪いじゃないか!

向こうは真剣なんでしょ?


『あれ〜?郁澄は

ドキドキしない子でもいいのかな?

僕はやだ!

ドキドキときめく子でないと

付き合わない!』



そうだ……

ドキドキしなきゃ。




そしてあの人に

ドキドキした……



┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


郁澄が花火大会から帰ってきて

様子がおかしいのに

羚は気づいていた。

一緒に出かけたのは学友だと言っていたが

帰ってきた時の彼から

漂う匂いが異質だった。


「あの男だと思うんだけど…

どう思います?父さんは」


父の主蔵にそう問うと

「そうなんだろうね。

彼の目的が何か?馨爾とも話しているが

もう少し泳がせておいた方が

いいかと私は思うのだけどね…。

ただ急速に近づいて来たには

来ただけの理由があるはずだ」


「心当たりでもあるのですか?」


 「うん……心当たりと言うか

彼には独特の匂いを感じる。

半分はあるかもしれないが……

もっと詳しく知りたいな」





「半分??

なんですかその曖昧な言い方」


「ずっと古い話だ。

私がまだ人間だった頃……」



主蔵の始祖 Ashの出自

これは本人が話したことなので

定かではない。

と主蔵は話し出した。



Ashという男。

出自はロマ。所謂ジプシー

彼の母はその一族の首長の娘だった。

彼は私生児との話だったが

実はその父が忌み嫌われる存在だった為

一族から事実を隠され私生児となった。


彼の母は出産後

僅かな間だけ彼と過ごしたが

100日も満たないうちに亡くなった。

一族は母を亡くした子を

一族で育てることはせず

ある町の教会の司祭に預けた。

彼の出生が余りにもおぞましいと

言われるものだったから。


司祭にとってその子を預かる事は

かなりの重大責任だった。

彼は正と悪とを併せ持つ子。

一歩間違えば誰よりも恐ろしい存在になる。

司祭は若く、まだ経験が少なかった。

自分に果たして育てることが

出来るのか?


悩んだ挙句、結果司祭はその子を

その町にある教会の牧師夫妻に預けた。

子供が乳飲み子だったせいもある。

牧師の妻は子供を産んだばかりで

彼は喜んで引き受けると

子供を預かったのだった。


司祭はその際牧師にこう伝えた。

『この子が例え手に余る子に育ったとして

それはあなた方ご夫婦の

躾の問題ではありません。

持って生まれたこの子の資質です。

長じてどうしようもなく

手がつけられなかったら

私の教会へお戻し下さい。

厳重に監禁して決して表に出ないよう

閉じ込めてしまいます。

どうぞ情けはかけられませんように。

全てはこの子の持って生まれた

宿命なのです。』



それはどういうこと?


羚は興味津々。

もしもそうなら……



本日もお立ち寄り

ありがとうございます