20代の時、事務の仕事をしていたいずみ。

オフィスビルの2階と3階が

いずみが勤めている会社だったの。


そのビルのお手洗いが広くてね、

手洗い場のスペースもたっぷりあって、

大理石製だったのではないかな。

鏡の下からライトアップされていて、

「ここでメイクすると出来映えが良く見えるよね」

と笑い合っていた。






ひょんなことから

手洗い場にお花を生けることになったいずみ。

一週間に一回、お手洗いにしばらく滞在する。

ちょうどその時間帯、清掃会社の方が

トイレ掃除のために入って来られる。


特に社交的でもないいずみは挨拶をするだけで、

清掃員の方と交流するという発想はなかったけど、

一人、とてもにこやかで

コミュニケーション能力に長けている女性がいた。


社交的で全員の顔を見て挨拶をし、

うちの会社の社交的な先輩と

世間話をする仲になったそう。





そしてある日のこと。


その先輩が

「ちょっとすごいこと聞いちゃった!

 あの清掃員の人ただものじゃないよ!」




なんでも前職は会社社長で、

息子たちに代変わりしたのを機に退職されたそう。

でも、定年の年齢になってみたら

思っていたより元気だった。

今まで人を雇う側だったから、

今度は雇われてみようと思い清掃会社に入ったという。





!!

全てにびっくり。

定年の歳になったら思ったより元気だった

→うらやましい!

前職会社社長→社長から清掃員への転職!

雇う側だったから今度は雇われよう

→この発想自体柔軟・自由・フラット!

 ただ者じゃない感ありあり


しかもさ、ご近所出勤じゃないんだよ!

隣県から、電車と地下鉄でやってくる。

いずみたちといっしょ。

しかも電車の駅までは車だからね。

息子さんが送ってくれると言っていた気がするんだけど、先輩が、

「ベンツで出勤かもね」って言ってた。











どうりで。

どうりで何か違うと思ったよ!







いつもいつも変わらず笑顔で、

礼儀正しく丁寧で、

本来なら接点が無いような間柄なのに

ものすごいコミュニケーション能力を発揮され

何十歳も年下の女子たちと会話をする。



それは長年責任ある立場で、人の上に立ってきた人だからこそのものだったんだ。

それに加え、社長から清掃員になる

という発想の持ち主だからこその。


 



だから自然とみんな信頼してしまい、

女子社員が何か対処に迷った時、

「あのお掃除の方に聞いてみようか」

となったこともあるくらい。









まだ、お元気でいらっしゃるかな。








あの時いずみは、

60代で清掃のお仕事をされていることに対して

生活にご事情があるからだろうと

勝手に思っていたんだよね。

だから先輩から素性を聞いた時、

それを誰にも話してないけれど、

すっごく恥ずかしかったのを覚えている。



あれから長い年月が経ったけど、

子育てをするようになってまた、自分の中に

無知や思い込みによる偏見が

まだたくさんあることを思い知った。


しかもさ、その偏見を

何とか息子には伝播させずに済んだにも関わらず、

偏見の無さから来る一見風変わりな発言に、

そわそわする事があるんだよね。

「常識」の中では浮くだろうから、

そわそわするのは人の目を気にしているからなんだよね。

もー。


全く、かっこいい親からはほど遠いんだよ。




今のいずみの悩みを、

誰か先輩に聞いてもらいたいなと

ふと思った時に、

「お掃除の方」のことを

思い出したんだよね。












新幹線から見えた富士山


息子が所属している卓球クラブに

50歳くらいの男性がいて、その人が出張の際に

あまりにきれいだったからと

クラブのグループLINEに送ってくれたもの。


その人が参加されるようになった時、

息子はその人が来るのを楽しみにしていた。


小中学生に混じって

週に何回も練習に行くっていうことも

偏見や思い込みがないよね。