前回までのあらすじ
極道の世界に生まれた娘と、一般人が恋に落ちました。
プロポーズを受け、自分が生まれた世界の話を
正直に告白した娘。
彼が娘の家に、結婚を申し込みに行くと、
強面の父が「娘をよろしく」と小さな声で・・・
* * * *
そして、結婚式当日を迎えます。
娘は父とともに、リムジンで挙式会場へ。
挙式会場は、娘の家の近所のお寺です。
小さいころは、よく遊んだのに、
大きくなってからは
極道の仲間たちの出店(でみせ)が並んでいて
近づきにくくなってしまったお寺。
その境内に続く道には、赤いじゅうたんが敷かれています。
その周囲には、父の仲間が焼きそばやフランクフルトなどの
出店を並べ、その店の前に出てきて頭を下げています。
父と腕を組んで歩いていくと、
「おめでとう!」「やったね!」「ばんざい!」 などと声がかかりました。
父は涙をこらえながら、うつむき加減で歩きます。
娘は、そんな父を誇らしげに見つめながら、組んだ腕に力を込めます。
本堂に入る階段の下に到着。
彼が和服を着て、照れくさそうに立っています。
父は、「くれてやらぁ~!」と叫びながら、
娘を彼に引き渡します。
彼は思わず「いただきます!」と叫び、
静かな境内に笑いが起こりました。
ご本尊には、極道一家先祖代々の位牌と、写真が。
娘は「おじいちゃん、ひぃじいちゃん、私、結婚します。
今までありがとう。
これからも、ずっと、ずっと見守っていてくださいね。」と
心の中でつぶやき、深く一礼。
そして、結婚式が粛々と進んでいきます。
お釈迦様の智恵を授けてくれるという「洒水(しゃすい)」や、
誓約文朗読、念珠(数珠のこと)の授与などがあり、
お経の響き渡る中、焼香をする二人と家族。
お香の匂いに包まれ、敬虔(けいけん)な気持ちとともに、
幸せをかみしめる娘。
娘と彼がご本尊に向かって誓いの杯を交わします。
親戚と、極道の仲間たちも、杯を渡されました。
固めの杯です。
ふと、娘は父の空気を感じ、振り返ります。
父が、娘に向かって大きく、杯を掲げていました。
「幸せになれよぉ~」と叫び、一気に飲み干す父。
娘は「お父さんも!お父さんも、体に気をつけて!」
といいながら、綺麗な涙を流しました。
そして一同、大きく合掌―
住職が、お祝いの言葉を二人に述べます。
「先祖、特に親を大切にすることが、幸せへの道です。」
娘は深くうなずきます。
式が終わり、雲水が打つ鐘とともに、新郎新婦の退場です。
住職・雲水の列からはずれ、両親に近づく娘。
「私、お父さんお母さんの子供でよかった。
ほんと、今までありがとう」
父は、肩を震わせ、顔を上げ後ろを向きます。
もう言葉は出てきません。
列席者全員、熱いものが頬を流れます。
そして、閉式 ------
二人が退場する花道には桜吹雪・・・
その夜の父は、ずっと家の仏壇の前から立ち上がらず、
先祖と酒を飲み交わしていたと、後日、母が語ってくれました。
~The end~
※このお話はフィクションです。
親子の愛情、父が娘を思う気持ちは、
極道も一般人も変わらないのです
結びまで読んでくださってありがとうございました