Side:N
大野さんが無断で去ったあの夜以来、なんとなくお互いに相手を避けてた。
見事なまでにグループでの仕事もなく、携帯でのやりとりさえせず、気づけばもう2週間。
会おうと努力しない限り、案外会えないものなんだと、こんな時に気づいてしまう。
「今日はよろしくお願いします!」
「お手柔らかにお願いします」
「お願いします」
それなのに、よりにもよってコイツと仕事。
新しいアルバムの番宣で、オレの単独のレギュラーに出演する後輩3人。
グループの人数は9人。その中で出演するのは3人。
その3人の中に見事に入ってるコイツ。
「……」
あからさまに、恨みがましそうにこっちを見るのはやめてくれ。
両脇の2人にも怪訝に思われてるじゃねえか。
N「山田、有岡。ちょっと席外せ」
あきらめの境地でプロに徹しきれない後輩と対峙せざるを得なかった。
N「仕事に私情を挟むな」
「そんなことしてません」
先輩としてまっとうな説教をしてるのに、後輩のハズのコイツは全く態度を改める様子がない。
気は進まないが仕事を円滑に進めるためにも、コイツの一番の懸念を取り除いてやるしかないのだろうか。
自分でも迷っているのはわかっていたが、口火を切った。いや、もしかしたら切らされたのかもしれない。
N「お前はオレにどうして欲しいワケ?」
「どうって、別に……」
N「別にじゃないだろ。何かをオレに期待してんだろ」
「……」
探りをいれると、怪訝そうにしながらもオレに視線をよこした。
あと一押しだとわかってはいるが、オレもさすがにすんなりとは言えず沈黙が流れる。
けど、そのまま時間だけを無駄にすることはできず、息を吐き、ひと呼吸をおいて口を開いた。
N「今なら大概のことは聞いてやるよ」
「……本当ですか?」
態度が、明らかに変わった。
期待に満ちた目で、オレをまっすぐに見つめてくる。
その視線に小さく頷いてやった。
「大野さんと別れてください」
言われるかなって予想はしていたが、あまりにも直球で、胸がズキリと痛んだ。
だけど、平然とした態度は崩さず、明るい声で切り返す。
N「なに?オレから別れを切り出せばいいの?」
「あっ……」
N「じゃあ、別れを切り出されるのを待ってればいい?」
「……」
自分が相手にどんな残酷な要求をしているのか、ようやく気付いたらしい。
だけど若いからかな、目の前のソイツは自分の願望を優先させた。
「大野さんは優しいから、二宮さんに別れを切り出すなんて絶対にできないと思うんで、二宮さんが言ってください」
N「……わかった」
まさかオレが肯定するとは思ってなかったのか、ひどく驚いた顔をした。
けどすぐに満面の笑みに変わり、「今日はよろしくお願いしますね♪」ってさっきとは音量もトーンも別物な声で言ったかと思うと、スキップでもしそうな勢いで楽屋を出て行った。
誰もいなくなり、知らず知らずのうちに入っていた肩の力を抜き、ソファに深く腰掛け天井を見上げる。
アイツの思い通りにしてやるのは癪に障るが、なんだかもう疲れてしまった。
すべてをリセットするのもありなのかもしれない。
おあつらえ向きなのか、明日はグループのレギュラー番組の収録日。
嫌でも大野さんと顔を合わせなければならない。
異様なくらいに重なるタイミング。
コレがオレの運命なんだろうか。