『しあわせ一番町』シリーズ第4弾
2016年01月から始まった○リンさんのCMから派生したシリーズです。
※注意!妄想です!BLです!苦手な方はお戻りください。
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Side:N
 

O『浮気禁止!!』
 

 拭き掃除をしてたら、スマホにメッセージが届いていた。
 最近、仕事の方がバタバタとしていて、この一軒家に来たのも久々で、だからじゃないけど、家の中が埃っぽい気がして掃除を始めたのが運のつき。
 スマホの音さえ聞こえない部屋の掃除を終え、満足気味に居間に戻ったら、スマホのランプが緑色に点滅していたというわけだ。
 
 
 
 急いでアプリを開く。
 怒った動物のスタンプと冒頭のメッセージがディスプレイの"ここから未読"のすぐ下に表示されている。
 
 だけど、メッセージはそれだけじゃなかった。
 その30分後に『いい訳は?』という言葉と後姿で腰から上の大野さんの写真。
 表情は見えないんだけど、その背中がいじけている。ドラマの撮影中だから、スーツを着ていてカッコいいはずなのに、おそらく撮ってもらってるマネージャーにはわからないように、唇を尖らせているのが手にとるように分かる。
 子どもみたいで、ちょっと笑ってしまった。
 

 オレは、なんでリーダーがこんなメッセージを送ってきたのかの検討がついた。
 それを確かめるために、別の画面を開く。
 

N「やっぱり……」
 

 そこには、思ったとおりの写真がアップされていた。
 
 
 
 
 
 
 それはここに来る道中に遡る――。
 
 いつもなら車なんだけど、なんとなく今日は運転したくなくて、電車に飛び乗った。
 ゆったりと流れる景色を楽しみながら、最寄り駅で降り、『しあわせ一番町』行きのバスを待ちがてら、ビールを買って、ベンチで本を読んでた。
 

 そしたら突然頭をつつかれ、振り向いたら"大竹しのぶ"がいた。
 あまりにも唐突過ぎて、「おおっ!」ってなってるオレとは対照的に「なにやってんの?」と普通に聞かれて、ばつが悪いったらありゃしない。
 

 "大竹しのぶ"とオレは、仲がいいと思う。
 彼女は日本を代表する大女優にもかかわらず、もの凄く気さくな人で、ほんと、ノリは友達といっしょ。
 勝手にオレのビールを開けて飲んだり、オレの髪をぐちゃぐちゃにしたり、やりたいほーだい。
 
 けど、それが心地いい。
 特に今は、あの人がオレじゃない誰かに一生懸命恋してるハズだから、気が紛れてホッとした。
 

 そうやって現実逃避しながらしばらくじゃれてると、「あっ!」って言いながらスマホを取り出した大女優は、おれと2人の自撮りを強要してくる。
 面白がって、オレも笑いながら「やめてよ~」といいながらレンズにむかってウインクした。
 「あはは、なにそれ~」って向こうも笑ってる。
 
 心が穏やかでいられることに、ありがたいと思ってたら、大竹しのぶはスマホを操作していた。
 

N「ねえ、何してんの?」
 「え~、なにもないよ」
N「そんなことないでしょ。スマホいじってんでしょ?」
 「ふふ~♪どうしようかな。教えちゃおうかな~」
N「気になるじゃん。教えてよ~」
 「しかたないなあ。じゃあ教えてあげる♪」
N「うん。教えて、教えて」
 「ふふふっ、潤くんに送っちゃった♪」
N「え?『潤くん』ってJ?」
 「そ、じぇい」
 

 プライベートな写真をメンバーに見られることに若干、恥ずかしさを感じながらも『まあ、いっか』って流した。
 しばらくして到着したバスに大竹しのぶと一緒に乗り、目的地が近かったオレが先に降りて見送った。
 その後、家まで行き、それからはずっと掃除していた。
 
 
 
 ……たぶん、それがまずかった。
 
 その写真はオレの承諾を得ないまま、オレが家の中を掃除している間にオレたち5人だけのネット上の小部屋にアップされていた。
 犯人であるJは絶対、大野さんがどういう反応をするかわかっててやったに違いない。
 

N「はあー、どうやってご機嫌とろう……」
 

 困ったようなセリフを吐きながら、実はそんなに困っていない。
 相手は"大竹しのぶ"だし、そもそも大野さんが本気で怒ってるなんてことは無い。
 
 そんな風にのん気に構えていたら、メッセージがそれで終わりではないことにようやく気づいた。
 再びスクロールする。
 
 
 

O『捨てないで』
 
 
 

 びっくり、した。
 
 胸がぎゅっと、痛くなる。
 
 
 
 絵文字もスタンプも写真もない。
 たった一言。
 
 それが、胸に響いた。
 

 ここに着いてまだ数時間しか経ってないけど、掃除も途中なんだけど、慌てて家を飛び出した。
 
 

 走りながらバスと電車の時間を確かめるも停留所にも最寄駅にも、すぐにはバスも電車も来ない。
 即座に公共機関は諦め、タイミングよく通りかかったタクシーを止める。
 
 後部座席のドアが開くなり、尋常じゃない勢いで乗り込んだ。
 そんなオレに怯みながらも振りかえる運転手さん。
 「お客さん、どちらまで」と言おうとしたのを遮って、大野さんの家の住所を叫んでいた――。
 
 
 
 
 
 タクシーの中で、呼吸を整える。
 
 握りっぱなしだったスマホに気づき、少しでも大野さんの心が落ち着くようにメッセージを送る。
 

N『捨てるわけ無いでしょ』
 

 続けて文字を打とうとして、やめた。
 我儘かもしれないけど、その言葉は、直接大野さんに言いたい。
 
 
 
 窓の外の景色を、ぼんやりと眺める。
 さっきとは違い、景色が色あせて見えた。
 

 オレ、何やってんだろ。
 初めてのラブコメで、ただでさえナーバスになってる大野さんの足手まといになるなんて、ありえない。
 ついこの間、大野さんがオレのことをどれだけ好きかってことを教えてもらったばかりなのに。
 

 手の中の、既読がつかない画面を見る。
 大野さんの書いた切ない言葉を、指でなぞった。
 
 
 
 撮影が始まり、多忙を極める大野さん。
 
 ほんとは、メッセージを返せばそれで済むのかもしれない。
 でも、文字や、声だけじゃ、伝えきれない。
 オレがどんなにあなたのことが好きなのかって。
 
 だから、目を見て、抱きしめて、あなたに言いたいんだ。
 

 『大好きだよ』って――。
 
 
 
Fin