Side:O


 __初主演ドラマのプレッシャーではなく、役の難解さがオレ自身を壊していく。

 カズ、おまえが側にいないとうまく笑えないんだ。


 初主演ドラマの収録中、役に入り込みすぎておかしくなる。
 演じている彼は、周囲の人間をすべて切り捨てて、孤独になった。
 現実でも、おれは孤独なんじゃないかと混乱する。

 それでも、なんとか今日の撮影を乗り切り、ロケバスまでたどりつく。
 だけど、頑張れたのは…そこまで。

 こえ、カズの…こえ、はやく、はやく…。

 震えのとまらない手で携帯を操作する。

 ~♪
 ガチャ

 ワンコールが鳴り終わる前に、通話状態となる。
 
N「リーダー?」
O「……」

 ふるえがとまらない。
 ことばが、でない。

N「っっ!そのまま、携帯握ったままでいて」

 あせったようなカズの声が聞こえてくる。
 おれ、なんにも言えないのに、カズには状況がわかったみたいだ。
 無意識に携帯を握りしめて、縮こまる。
 電波の向こうから、会話が漏れ聞こえてくる。


 __翔ちゃん!あとお願い。
 __わかった。そっち、頼むね。
 __むしろ、喜んで。


S「智君、もうちょい頑張ってね。すぐに、ニノ向かわせるから」
N「リーダー、側にいなくて、ごめんね」

 返事さえできないおれに、声をかけてくれる。
 声音で、安心をくれようとする。



 それからカズは、十分と経たないうちにやってきた。

 バタバタバタ!!
 ガンっ!!

N「リーダーっ!!」

 あわただしく息を切らせて、ロケバスに飛び込んできた。
 その勢いのまま、おれを抱きしめる。

 携帯で通話状態のままだったから、どんなに急いでくれたのかがわかった。
 カズはまだ息が整わず、徐々におれに体重をかけてくる。



O「…おもいよ」

 ようやく声をだせたが、照れくささもあって、ちょっとそっけない言い方になってしまった。
 ほっとして、クスクスと笑ったカズは、そんなおれに構わず、全体重をかけてきた。

 あわてて両腕を出して、カズを受け止める。
 おれの首筋に顔を埋めるようにして聞いてくる。

N「大丈夫だった?」
O「…うたって、くれたから」

 カズは、移動中もおれのために、ずっと歌ってくれていた。
 カズの声を聞くと、安心が広がる。

N「ドラマなんか、もうやめちゃおうか」
O「…めいわく、かけらんないよ」
N「明日も頑張れる?」
O「大丈夫」
N「そう。エライね」

 そう言って、おれの頭を撫でる。
 カズは甘やかし上手だ。
 そして、おれをのせるのがうまい。

 ただ、これだけはわかる。
 カズがしゃべっていることはいつも本気だ。
 もしおれが、ドラマを辞めたいと本気で思っていたら、どんな手を使ってでも実行する。


 だから、カズの側にいると安心する。
 ダメだとわかっていても、この状況を手放したくない。
 だって、何があっても、無条件におれを受け入れてくれる。

 そのままのおれでいていいんだって、態度で示してくれるから。
 やっぱり、キミにはかなわない。


Fin