『クララとお日さま』 | クラバートのブログ

クラバートのブログ

2010~すきまの時間に読んだ大切な本たち(絵本・児童書中心)のなかから選んで、紹介します。小学校の図書室を16年勤務後、現在も読み続けています。

ノーベル賞受賞後初の長編小説で、2021年3月世界同時発売の作品だそうです。児童文学のジャンルに入れてもよいと思われます。

安定感のある文体と人の正義感をくすぐり、余韻を残す作品です。

 

 

人工頭脳を搭載したAF=ロボット(人工親友)クララはショートヘアで浅黒い肌、お日さまの光を栄養として(吸収して)健康を維持しています。純粋に外の風景を見ることも大好きです。そして型落ちながら「周囲に見るものを吸収し、取り込んでいく能力」と「精密な理解力」に長けています。

 

クララは都会のお店に商品として陳列されていて、そこで病弱な少女ジョジーと出会い、やがてジョジーの家で密接な日常を織りなしていきます。二人と近くに住む少年リックとの会話は、報告だけの会話でなく温もりがあり発展的です。人間よりはるかに。相手を拒絶せずあたたかく優しく献身的、一方で客観的な一面も備えていて、その正義溢れるクララの存在が魅力的で、物語をひっぱっていく軸になっています。クララのように「人をこんなに上手に愛せただろうか?」通奏低音のように私の心の声がささやき続けます。

 

背景にある学歴によるコンプレックス、母子の濃密な関係、貧困問題などを作者は擁護することなく明らかにし、感情を抑えながら淡々と描き出しています。

 

そしてお日さま。コロナ禍の今「お日さまに15分あたると体内にビタミンⅮが蓄えられるよ」という情報に何度も接しましたが、もっと大きな力がお日にはあるのかもしれません。お日さまは何かの比喩なのかもしれません。あるいは「母・静子(1926―2019)をしのんで」と献辞を載せていたので、作者にとって母親の存在なのかもしれないと読みました。

 

また一つ好きだといえるカズオ・イシグロ作品に出会えました。