朝、取り調べが終わると、

その足で再度病院へ向かった。


ミキにメールを打ったが、未だに返ってこない。



今度は正規の診療時間だったため、

整形外科の先生がいた。



先生

「ああ~。かなり鼻が凹んでるね><」


トラ

「そうなんです。本当はこんな顔じゃないんですよ」



実際、鏡を見た瞬間は狼狽した。

本当に鼻が潰れていて、自分の顔じゃないような感じがしたのだ。



先生

「なるほど、本当はもっとハンサムなんだね(笑)」



トラ

「(笑)いや・・。それはどうでしょうか(笑)」




先生

「どうする?今日スグに手術する?? それとも数日後にする?」



トラ

「手術ってどんな手術ですか??」




先生

「鼻の穴に鉄の棒を突っ込んで、グリッと上に引き戻すんだよ。ちょっと痛いけど、早くやった方がいいかも知れないよ。時間が経つと患部が固まってきて、二度と戻せなくなる可能性もあるから・・・。」




聞いただけでも恐ろしい・・・><

でも、早いうちに戻さないと・・。



トラ

「じゃあ、今スグ手術をお願いいします。」





手術室の寝台に横になって待っていると、

看護士さんと先生が入ってきた。




先生

「麻酔を打つよ~。鼻に直接注射するからちょっと痛いかも」




トラ

「わかりました。」



鼻の頭らへんに麻酔注射が刺さった。

やっぱり、結構痛い><



先生

「鼻の中にも麻酔打つ??」



トラ

「え?鼻の中ですか??」



先生

「うん、中にも打てばだいぶ痛みがなくなるんだけど、問題は、注射自体がすごく痛いことかな・・」


トラ

「じゃあ、お願いします。」



注射針の先端が、トラの鼻の穴に侵入した。


なんとも言えない痛みが、鼻の内側に走った。



どうにも耐えられなかったが、

麻酔が入っていくにつれて、感覚は無くなってきた。



助かった。




先生

「麻酔が効いてくるのを待つから、数分後にまたくるよ。」



そう言うと、先生と看護士は出て行った。


トラは一人寝台に取り残された。




数分間、色々なことを考えた。


そうして、次に来る手術の痛みに耐え抜けば、

ミキのことは忘れられるだろう。



なぜかそんな結論に至った。



さようなら、ミキ・・・。







先生は、鉄の棒をトラの鼻に突っ込んだ。


そして、ゆっくりと力強く鼻を持ち上げた。


グリッという鈍い音がして、ひどい痛みとともに潰れた鼻がもとに戻っていった。



や!痛い!!><




麻酔は効いているはずなのに、すごく痛い。


これ、麻酔が無かったらどうなるんでしょう??




先生

「ようやく、半分くらい上がったよ・・。」



ええ~~!まだ半分ですか??




すでに大量の鼻血があふれていた。


看護士さんは、吸引機を鼻に当てて、あふれる鼻血を念入りに吸い取った。





看護士

「あとちょっとだからね、がんばりましょう。」



そうだ、あとちょっと・・。


あとちょっとでミキのことも忘れられる。




先生

「よし、いくぞ!」



先生は、再び鉄の棒をトラの鼻に入れると、鼻を持ち上げようとした。



トラ

「これって、やっぱ痛いですか??」



先生

「ちょっと痛いけどがまんしてくれ。」



そういうと、こんしんの力で鼻を持ち上げた。


グリッと音がして、スゴイ痛みとともに鼻がもとに戻った。




先生

「よくがんばったね。これで元通りになったよ。」




トラの目から涙が一滴だけ流れ落ちた。




ああ、終わったんだ・・・。


これで良かったんだ。




これで全て新しい気持ちで、いい女を探すんだ。


そう思うと、だいぶ楽になってきた。

本当に忘れられる気がした。












つのだは、次のナンパ車潰しに奔走した。


助かった~。


全て読み通りだった。



シーマは無傷・・・。



と思ったが、ドアの所に大量の血液が付着していた。


まぁ、後でふき取ればOK。




となりを見ると、ナンパ待ちをしている女の子2人組みの軽自動車がいた。



その娘達は、トラの傍に駆け寄ってきて、


「大丈夫ですか!?」


と声を掛けてくれた。




トラは痛む鼻を押さえながら

「うん、大丈夫大丈夫。 君達も気を付けてね」


と、強がって見せた。



本当は鼻が痛くてしょうがないのに・・。



人は、ある程度重傷を負っても、

周りの人には平気そうに振舞うものだ。



そうして、後で重傷だったと気づいて狼狽するのである。



トラはまず病院へ向かった。




運転は友人のMに代わってもらった。







「トラ、大丈夫か??何だか悪いな・・。おれ出て行かれなくて・・」


トラ

「気にするなよ。 あ!?」



「ん?どうした??」



トラ

「鼻が変形している!!」




鼻を触ると、軟骨部分が見事に押しつぶされていた><


鼻筋とまつげだけが自慢の顔だったのに・・・。




ここで、ようやく弱い自分が顔を出してきた。




やっぱり、ミキが忘れられなかった。


情けない話だけど、ミキに慰めて欲しかった。


他の誰でもなく、ミキにしかできないのだ・・・。



でも、もうミキはいなかった。





トラ

「なぁ・・このこと聞いたら、ミキは心配してくれるかなぁ><?」


Mに言ってもしょうがないことだが、

なぜか聞かずにはいられなかった。



「もうあんなやつのことは忘れろ!ひどい女じゃないか。心配なんかしないよ。」



トラ

「そうか・・。そうだよな。」



ミキとはもう全て終わりなんだ・・・。


忘れなきゃ・・・。




トラはシーマの助手席に揺られながら、

最後に「鼻を折った」とメールして、ミキを忘れることにした。











病院に着くと、整形外科の専門の先生がいなかったため(深夜だから)

応急処置だけしてもらった。



その後、警察に行った。



取調べは5時間以上かかり、

翌朝まで調書を書いた。




途中、現場検証と称して、深夜の3時半頃にパトカーに乗って現場に行った。


しかし、現場の正確な位置が良くわからなかった。



警察

「正確な現場がわからないとまずいんだよ」



トラ

「ん~~~・・・。そういえば、胸グラを掴まれた瞬間、ネックレスも切られました。」



警察

「じゃあ、現場にネックレスが落ちてるってことか? そこが現場だな。」




トラは、当時B系の服装だったため、クロス(十字架の)ネックレスをしていた。




果たして、現場には血染めのネックレスが落ちていた。


十字架に張り付いたキリストは、トラの流血を一身に受け止めていた。




トラは血液をふき取らず、

そのまま血染めの十字架ネックレスを首から下げることにした。
















センティアが急停車した。


しかも、停まったまま動かない。




トラ

「なんだ!? 何で前のセンティアは停まったまま動かないんだろう??」





センティアのさらに前を見ると、いかにも怪しいエスティマが図々しく道の真ん中に居座っていて、

センティアを通せんぼしているのである。




さらに目を凝らして様子を見てみると、

どうやら揉めている様だ。



若い男数人の怒声が聞こえる。




嫌な予感がした。




次の瞬間、その嫌な予感は的中した。



道をふさいだ怪しいエスティマから、暴力団系の男達が数人出てきて、

前のセンティアに突っかかっている。



怒声の内容は聞き取れないが、

大体推測できた。


「オラぁ~ 出て来いよ!!」


という感じだろう。




センティアはドアをロックして耐えているようだが、

そのため車をガンガン蹴られて、ドアの部分がべコベコになるような嫌な音が何度も響いた><




おそらく「ナンパ潰し」と呼ばれるバイオレンス行為だろう・・。



まずい現場に居合わせてしまった・・・。




トラは悩んだ・・・。


車をバックしようにも後ろが使えている。




車を置いて逃げようか??



でもこれは借り物・・。

今日に限って借り物・・。



しかも日産の誇る高級車・・・シーマ様><


金属バットでボコボコにされたら、それだけで修理代が100万以上に・・・。




さぁどーしよう??



そうこうしているうちに、ナンパ潰しの順番はトラ達の方に回ってくるはず。




一番被害が少ない方法は、ウィンドウを開けて窓越しに殴られ、

2~3発殴られて次の車に行ってもらうことかも知れない。



そうすればシーマは無傷だ。




そうして、予測どおりトラのシーマは武闘派の男共に囲まれた。



リーダー格らしき男は、トラのシーマのナンバープレートを確認した。


そうして、次の瞬間激怒しながら叫んだ。



「何で練馬ナンバーが大宮に来てんだよ!!」





なんだその理屈は??


もしかして、大宮ナンバーだったら大丈夫なのか??



運悪く、借りたシーマは練馬ナンバーだった。



これは、もしかしたら話のしようがあるかもしれない。




トラはウィンドウを開けてリーダー格の男に一言・・。



「ナンバーは練馬だけど、大宮の人間だよ。」




しかし、コイツは話を聞くような人種ではなかった><



トラは窓越しに胸グラを掴まれた。



その時の顔はようく覚えている。



身長は180センチくらいで、プロレスラーのような体格。


髪型はモヒカンで、歌手の「つのだ ひろ」にそっくりだった。



「メリージェーンとか歌いそうだなぁ・・・」




人は修羅場になると、

なぜかこんなどうしようもないことを考えるものである。



とにかく、2~3発で終わってくれればと思い、窓越しから一発殴らせてみた。



メチャメチャ痛かった。


つのだは、トラの鼻を狙ったのだ。



鼻を殴られると、顔の中では一番痛いものである><




わざと痛い振りをしてうずくまってやった。

これで終わってくれ・・。



しかし、その願いはむなしく、次の瞬間スゴイ力で車外に引きずり出された。

車外に立った瞬間、今まで体験したことの無いような大量の鼻血が滝のように地面に流れ出した。



これは絶対鼻が折れたな・・。



素人でもそれくらいはわかった。



大学の期末試験が終わった後で、明日から休みだから良かった。

でもバイトは数日休まないといけないかな??



目の前の状況にビビりながらも、

意外と冷静に考えるものである。



トラ

「オレは大宮の人間だ。オレが何をしたんだ?」



ツノダ

「ウルセー!」



車外で数人の男に囲まれ、

複数の方向からパンチが飛んできた。




2~3発一気に殴られたが意識はハッキリしている。


ここで倒れてしまったら絶対まずい。




パンチだけなら、ある程度喰らっても大丈夫だが、

倒れた瞬間に蹴りが飛んでくると思う。



蹴りはパンチの3倍以上の威力だから、

そんなものを後頭部にもらってしまったら、生死に関わってくる・・・。




だから、絶対に倒れないことにした。




そして、今度はつのだの正面に立ち、さらにバックステップをして距離をとった。

昔、ボクシングジムに通っていたため、ボクシングの構えをとってみた。



鼻血が口に入ってくるため、

常に地面に唾を吐きながら、必死の形相でつのだをにらみつける。




そうすると、つのだはお決まりの捨て台詞をはき捨てて、

次のナンパ車つぶしに奔走した。