久しぶりの更新になる。
これまで息子の話題が多かったのだが、今回は僕自身の話になる。今年から地元のクラブチームで小学生の指導を引き受けることになった。
経緯としては次男が中学生になって手が離れたタイミングで、以前所属していたシニアチームへ3年振りに復帰したところ、僕の休会中に登録カテゴリーをO40からO50に移行していたらしく、まだ40代の僕はしばらく選手登録できないと言われた。健康診断で引っ掛かったアレやコレを改善するつもりだったので、どうしようかと途方に暮れていたところ、同じ傘下のジュニアチームから指導者をやってくれないか?というお誘いがあった。ちょうど低学年を担当していた大学生コーチの就職が決まって、コーチが足りないらしい。
ちなみに僕は選手としての経歴も実績も全くないし、指導者としての経験もライセンスも全くない。唯一の武器は偏差値80超の頭脳くらいで、あとは息子二人がお世話になった強豪少年団で役員経験があることくらいだろうか。ちなみに全国大会出場の壮行会でご挨拶するくらいのヘビー級役員である。これくらいの役員になると毎週どこかのグラウンドで大会を主催して、コート作成して審判してチーム運営費を稼いだり、合宿に帯同して子供達を引率したりするので、県内の少年サッカー界隈ではコーチより顔が広かったりする。
とりあえず当面はシニアの試合にも出られないので、暇を持て余すくらいなら困っているチームを助けるのも悪くないと、ボランティアでお手伝いすることにした。ちなみに僕が入っても人数はギリギリで、男子U15と女子U15とU12とU10の4カテゴリーに対して、コーチは僕を入れて4人しかいない。もう無茶苦茶である。
こうして僕はいきなり弱小クラブチームのU10監督に就任した。
取り急ぎチームコンセプトを理解して、それに合ったトレーニングメニューを準備しないといけない。代表から渡された長ったらしい資料を読んで、まずチームコンセプトが「心身共に強度高く、縦に速いプレー」ということは理解した。語呂が良いので縦に速いプレーと書いたが、厳密には「縦」という言葉は少し語弊があって、要するに少ない手数でゴールに迫るスタイルである。僕自身も速攻は好きなスタイルなので、チームコンセプトに共感できたことは幸いである。そして肝心のトレーニングメニューの部分を読むと、そこには「オリジナリティを存分に発揮して」とだけ書いてあった。まさかの丸投げであった。
仕方ないので自分でトレーニングメニューを考えてみた。
そもそも僕達がサッカーの練習をする目的は何だろうか?それは誰に聞いてもきっとサッカーの上達だと言うと思う。それではサッカーの上達において重要なポイントは何だろうか?それを紐解くために、まずは良いトレーニングの前提条件を「質」と「量」と「タイミング」という3つの要素に分けて考えてみよう。
まず「質」とは何だろうか?
パッと思い浮かぶのは指導の質だろう。巷で指導が良いと言われるケースだと、強豪ジュニアユースに何人合格という実績をアピールするチームやスクールが多いが、こうした受験型の指導スタイルは将来の質においてマイナスに働く傾向がある。幼少期に正解を丸暗記させて高度な問題に早く取り組ませる受験型の指導は、短期的には良い結果が出るものの、長期的には伸び悩むことが既に証明されている。実際に文科省も知識の詰め込みではなく、自ら課題を発見し解決する力を重視する方向への転換を図っているように、サッカーにおいても好奇心や探求心をもってトライアンドエラーを繰り返して、初歩的なトレーニングにじっくりと取り組む方が将来の質を高めると思う。つまり最高のトレーニングにおける「質」とは、子供達のサッカーへの好奇心や探求心が高まっている状態だと言えるだろう。その熱量は「楽しい」や「面白い」から始まって、やがて「勝ちたい」や「上手くなりたい」に昇華するはずだ。
続いて「量」とは何だろうか?
それは練習量で間違いないと思う。そして練習量を確保する方法としては、誰もがスクールで平日の練習量を補うという方法を考えるだろう。例えば平日に週3回のスクールに通った場合と、平日に週1回のチーム練習を友達と楽しく取り組んだ場合、ここだけを切り取ると前者の方が「量」を確保できているように見える。ところが子供には学校と睡眠を除いた自由時間が週60時間以上はある。この余白の60時間をどう過ごすのか、スクールに通わなくても放課後に友達と草サッカーするなら、間違いなくそちらの方が全体の「量」に及ぼす影響は大きいだろう。
つまり「質」と「量」を高めるトレーニングとは、例えば2時間のトレーニングで60時間の余白を刺激するようなアプローチだと言えるだろう。具体的にはチーム練習が終わった後、まだやりたいと言って子供達が帰らない状態こそ、まさしくトレーニングが成功したと言える。特にジュニア年代の指導者が最初に心掛けるべきことは、放課後に友達と草サッカーする子供を一人でも増やすことではないだろうか。それはあえて余白を残して育てることでもあり、逆に小さい頃から厳しく指導されて育った子供はサッカーを仕事のように感じてしまって、オフの時間までサッカーしたいとは思わないだろう。サラリーマンが休日まで仕事したいとは思わないように。
最後に「タイミング」とは何だろうか?
それは子供自身の心と身体のタイミングだと思う。大半の子供はコーチに怒られたり親にご褒美で釣られたりして、無理矢理にヤル気スイッチを入れていると思う。まさにサッカーが仕事になっているケースである。こうした外発的動機付けでスイッチを入れた場合、その熱量は長続きしないと言われている。逆に好奇心や探求心といった内発的動機付けで自発的にスイッチを入れた場合、外発的動機付けと比べて3倍の生産性があると言う。実際に自分でスイッチを入れた子供の熱量は高く、大人が止めるまで練習を止めないケースもよく見かける。このような熱心な子供には強度の高いスクールにも連れていってやれば良いと思う。むしろ本人が満足するまで毎日通わせてやれば良い。大切なのは本人のタイミングを辛抱強く待つこと、そしてスイッチが入ったタイミングではスクールの追加や飛び級など強度の高い環境を準備してやることだろう。
そして子供の発達時期もタイミングの1つと言えるだろう。ゴールデンエイジ理論に代表される神経系の発達時期にテクニック練習が推奨されるのも、この発達のタイミングを意識してのことだ。この発達のタイミングとトレーニング内容が合致していれば、間違いなく大きな成長を見込めるだろう。例えば脳科学では幼児期から低学年は認知能力が伸びる時期で、ここでピッチ全体を俯瞰して見る能力を高めることで、将来様々な戦術を遂行できる土台を作ることができるだろう。また中学年では深視力が発達してボールの落下地点を把握できるようになるので、浮き球のトレーニングやバスケットボールを取り入れるのも面白いだろう。そして思春期には前頭葉の発達が始まるので、戦術的なアプローチはこの年代から積極的に取り入れるのが効果的だ。逆にまだ戦術を理解できない年齢で叩き込むことは、本人から創造性や多様な選択肢を奪ってしまうデメリットが大きいだろう。
ここまでの話を踏まえて、とりあえず次の方針でトレーニングを開始している。
まず子供の自発的な好奇心や探求心を潰さないように、子供達の熱量を注意深く観察して、例えば興味をもって取り組んでいるメニューは予定より延長したり、逆に集中が切れたメニューは早めに終わらせたりして、熱量のアベレージを高く維持すること。あとは子供の発達に合わせて、例えば低学年ではインステップのリフティングで足首を固めておいて、身体ができたらロングキックを蹴り込んだり、まだパスの概念のない段階ではボールフィーリングを高めておいて、最低限の技術が身に付いたら2対1で駆け引きを覚えたりして、次のステップに向けた種も蒔いていく。
そして試合ではプレーの選択権を子供から奪わないことも重要だ。特に子供がアクションを起こすタイミングでは絶対に声を掛けてはいけない。どうしてもやって欲しいプレーがある場合、事前に今日のテーマとしてレクチャーして、あとは狙い通りのプレーが出た時に大声で褒めてやれば良い。失敗してもチャレンジしたことを褒めてやれば、自然と子供達は前を向いてプレーするようになる。そして成長差や能力面で頭一つ抜けてきた子供には、スピードやフィジカルに頼るなと叱るよりも、飛び級させてスピードやフィジカルが通用しない環境に置いてやる。ここはU12の監督と調整が必要だけど、無事に話が付いて4月からクラブの方針として上下の入れ替えをしていくことになった。もちろん背伸びする環境だけでなく、王様でプレーできる経験も必要だろう。上で伸び悩んでいる子供は下に呼ぶケースも出てくると思う。固定するのではなく、トレーニング中でも入れ替えるくらい頻繁に刺激を入れていきたい。
今は地域で最底辺のクラブチームだけど、こうして小さな工夫を積み重ねて、いつか育成で評判になるくらい良い選手をたくさん輩出できるようになれば、きっと子供達の笑顔で溢れる場所になるだろう。そんな日が来ることを願って。
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