7月上旬(2016年7月3日~7月10日)にドイツと英国の現地代理人や、お世話になっている日本企業の欧州事務所等を訪問してきました。日本企業のお客様からは欧州の審査遅延に対する方策や、コストを抑えた出願手続きを要望されることが多いこと、また弊所ではEPO(European Patent Office:欧州特許庁)において一定数の異議申立(全て特許権者側)に対応していること、更には統一特許(Unitary Patent)の導入も近い将来に予想されることなどから、この機会に現地代理人と直接お会いして意見交換をしてきました。

 

  出張直前の6/23には英国EU離脱(いわゆるBrexit)の国民投票の結果が判明したり、テロも欧州各地で起こっていたりと少し不穏な気配もありましたが、実際に面談でお会いした方々は、これらの状況に必要以上に動揺することなく、将来の展望を真剣に考えておられました。日本のマスメディアの報道では窺い知ることのできない、現状を冷静に受け止めている現地の方々の思いを感じた次第です。

 

  まずドイツでは、ミュンヘンとデュッセルドルフを訪問しました。ミュンヘンにはEPOとDPMA(Deutshce Patent und Markenamt:ドイツ特許商標庁)があるため、ドイツ国内の多くの代理人はミュンヘンに本部を置いています。

  今回、ミュンヘンでは4ヶ所の代理人を訪問しましたが、欧州の特許実務について建設的な意見が交わされ、大きな収穫があったと思います。特にEPOでは特許の明細書の記載要件や補正要件が厳しいため、権利化後の係争  にも耐えうる明細書の作成指針は参考になりました。また、EPOやDPMAの建物も訪問しました。EPOの異議申立における口頭審理の部屋は、ガラス張りで外部通路から中の様子が丸見えであり、EPOでは透明性・客観性を意識した審理が行われている印象を強く受けました。

  一方、EPOのカフェテリアでコーヒーを飲む予定でしたが、「事前に許可を得ていない関係者は、たとえ欧州弁理士が同行していても入庁を許可しない」とEPOの建物内に我々日本人は入れず、EPOの規則重視の姿勢も肌で感じました。

 

 

  デュッセルドルフでは、1ヶ所の代理人、JETROデュッセルドルフと顧客企業の欧州事務所を訪問しました。デュッセルドルフの裁判所は、特許権者に有利な判決をする傾向があることで有名で、係争に関する意見交換をすることができました。また、JETROが旗振り役で、日本企業を対象にドイツでもIPG(Intellectual Property Group:知的財産に関するグループ)が本年2016年2月に立ち上げられたとのことであり、今後、現地の日系企業の情報交換が活発になるものと予想されます。

 

 

  ドイツを離れ、英国のロンドンでは2ヶ所の代理人を訪問しました。ホットな話題であるいわゆるBrexitに対しては、「知的財産の面では、特に心配はしていない」と冷静なコメントを頂きました。理由としましては、英国弁理士に加えて欧州弁理士の資格を持っている方々が多くいることや、もともと英国は島国のため、かなりマイペースで独立的な考えが多いことが挙げられると思います。

 

  最後になりますが、今回の出張では、欧州の最新の実務情報を仕入れ、また、現地代理人とのパイプも強化できましたので、欧州実務に関するお問い合わせがありましたら、弊所までご一報下さい。

(業)樹之下知財事務所 弁護士 所長弁理士 小泉妙子

弁理士 窪田稚之、弁理士 新井宏