サンテレビ(神戸)とKBS京都とテレビ和歌山を行き来させていただく中で、文庫本が必需品となっている今日この頃。すんごいミステリー小説に出逢ったので、興奮冷めやらぬまま感想を書かせておくれー!葉真中顕(はまなかあき)さん著『絶叫』


しびれたー!600頁を超える長編の中、ムダな描写なんて何ひとつなかった!伏線を回収する段になったところからページをめくる手が止まらなくなり、正直、これを読んでいる最中は映画を観ていても気がそぞろだったんだよねぇ。とにかくずーっと先が気になる展開で惹き込まれていったんだけど、ラスト1ページのあの結末にはやられたよ…!いやまぁ、その衝撃を差し引いても、保険のセールスや夜の街の実態、毒親、ホームレス諸々…目を逸らすワケにはいかない社会問題が詰め込まれており、無知がいかに恐ろしいか、実感したんだけど。だーけーどっ!考えさせられた事、すべてが吹き飛ぶエピローグだったわ。巧みな構成に、あっぱれ!!!(読後感としては、宮部みゆきさんの『火車』と同じ類。)


その前には、今年の始めに映画化され話題になった『Red』の原作も読んだ。


かわいい娘、子煩悩な夫、協力的な義母…条件だけ見ると何ひとつ過不足ない専業主婦が、かつて愛した男に再会し、踏み出してはいけない一歩を踏み出してしまう物語。揺れ動く主婦の心情が、500頁に渡ってみっちりねっとり綴られているのだが、これ、映画化するとロードムービーになるんじゃ…ってくらい、逢瀬を重ねる際のドライブ描写が印象的で。私自身、これまで座ってきたいくつもの助手席といくつもの横顔を思い出した。

取り立ての免許証をポケットに押し込みオカンから借りてきたという軽自動車で迎えに来てくれた初恋の人(車を運転する彼は、学生服に身を包み自転車を走らせていた頃よりうんと大人に見え、遠くへ行ってしまった気がした)。

重厚感溢れる真っ黒なベンツに乗って現れたあの人(なんでもすごく貴重な一台だったそうだが、私にはその値打ちがわからず申し訳ない)。

お仕事でも使っているらしくザラザラと汚れたハイエースの人(車高が高いので、毎回乗るのに苦労する)。

オープンカーのBMW(星を見に行った)。黄色が可愛らしい某外車(ネオン輝く御堂筋を通った)。爽やかな空色をした某日本車(送り迎え、ありがとう)。

私自身はとりわけ車に詳しいワケでもドライブが好きなワケでもないのだけれど、我が家には車がなかったせいか、助手席はいつだって特別な高揚感を与えてくれた。持ち主のパーソナルスペースに招き入れてもらったかのように感じられて(実際そこは紛れもないパーソナルスペースだろう)、うれしかった。後に恋人になった人もいれば、とくに進展もなく疎遠になった人、はなから仕事上の付き合いだった人もいるけれど、私はどの助手席の感触も、そこに流れる親密な空気も、主の〝らしさ〟が垣間見れて好きだったんだな。

不倫モノなのに、思い起こされるのは純愛ばかりで不思議。


 
↑窪美澄さん著『よるのふくらみ』は、胸が締め付けられる…なんて可愛い切なさではない。肺から心臓から胃から腸から子宮から、胴体のすべてからアツいものが込み上げ引きちぎられるような、たまらない恋愛小説だった。それでいて優しさと愛情が容赦なく胸を突き破り、私はオイオイと嗚咽を上げながら向き合ったよ。

同じ商店街で育った主人公♀と幼なじみの兄弟による三角関係…という設定は、ザ・少女漫画なのだが、中を開くと、恋愛、結婚、妊娠、そして結婚…人と人とが関わり合う事のリアルと生々しさが広がっていた。

作中に登場する、川島さんという男性のセリフ

「寂しくさせると怖いんだ女は」

「女のわがままなんて、かわいいもんだって。私を大事にしてくれ、って、あいつらの言いたいことはそれだけなんだから」

…は、すべての男性向け恋愛指南書に留めておいてほしいくらい。

誰かと繋がるって、なんて面倒で骨の折れる作業なんだろう。それでも私たちは、誰かと繋がっていたくて仕方がない。繋がらずにはいられない。煩わしい生き物だわね。