8月19日20日の両日佐賀県唐津市の「洋々閣」にて、第65期王位戦第4局が行われた。先手番3連勝で、今回は挑戦者渡辺明九段が先手番で、タイに持ち込むか、藤井聡太王位が王手をかけるかの一戦であった。結果は100手で後手番の藤井王位が勝利した。過去の2勝は終盤での逆転勝利だったが、今回は久しぶりの藤井曲線による勝利だった。終わってみれば完勝に近いのかなという印象だが、攻めている藤井王位が攻めさせられているという印象もあって、駒不足が心配な局面も多かった。

 実を言うと1日目の対局は見ていなかった。うっかりしていて19日の19時ごろ、今日は何があったかなと思っていたら、王位戦を思い出した。まあ1日目はあまり進行していないだろうから、明日ちゃんと見ればよいかと、自分を慰めながら、たまった録画を見ていた。翌日目を疑った。藤井王位の方が渡辺明九段よりも、残り時間が約2時間多いのである。評価値も48:52%で藤井王位がやや有利である。局面を見ると有利と言うより、やや指しやすいかなと言う感じであった。前日の封じ手で渡辺明九段が大長考をしたらしい。後の展開を考えていた模様だ。封じ手は8四角であった。藤井王位は想定していたのであろう、少考して5一飛と指す。予想としては角切りを前提にして、大攻勢をかけるのではないかということだった。解説は佐藤紳哉七段で聞き手は本田小百合女流三段である。ここで予想を裏切る5九銀が飛び出した。受け一方の手で、ひたすら辛抱する手である。玉の固さを武器に徹底防戦で活路を見出そうとする手である。藤井玉は固いとは言えない陣形である。駒を沢山渡せばすぐに詰めろがかかりそうな玉形である。よく言えば広いということかな。どちらかと言うと細い攻めをつないで勝ってきた渡辺明九段が選ばないような手段だと思っていたが、封じ手局面では、既に分が悪いという判断であったろう。

 「歩の無い将棋は負け将棋」と言うが、藤井王位も歩がなくて負けた将棋が見受けられる。逆に持ち駒の歩が金銀などの駒に変わっていって、綺麗に詰み上げるというのは、よく見たことである。歩得の渡辺明九段が受けきるか、歩無しの藤井王位が攻めをつなぐことが出来るかの勝負になった。藤井王位は攻めを緩めると、自陣内に攻めの拠点を作られそうである。拠点を作られると反撃が厳しくなる。小刻みに時間を使っていくが、指し手はほとんど解説通りに進んで行く。一本道と呼ばれる攻めと受けである。時間もいつの間にか藤井王位の方が少なくなっている。形勢判断は難しいがだいぶ攻めている藤井王位の方が良さそうに見える。解説には深浦康市九段が加わったが、まだまだ予断を許さない状況だという。一枚受けに駒を使わされると、攻めが切れそうだという。AIの評価値はどんどん藤井王位の方が良くなっていくが、90%台になっても渡辺明九段に反撃のチャンスがあるようで、一手間違えるとドツボに嵌まりそうである。終局は午後6時半近くになった。終局近いなと思い、トイレに行ったら、渡辺明九段が投了してしまった。トイレから戻ったらもう感想戦が始まっていた。その後報道陣がなだれ込み取材が始まった。やはり藤井王位は簡単ではないと思っていたようだ。相手の詰みも見えるが、自玉の欠点も見えるので、楽観的にはなれないのだろう。「勝った勝ったまた勝った」と舞い上がることが少ないのであろう。今回の王位戦では渡辺明九段に取っては一番不出来な将棋であったろう。しかし逆に言えばあまり後に残らない敗戦ではなかったかな。辛抱して見たが駄目だった。「押しても駄目なら引いてみな」とよく言うが、引いたらもっと良くなかったという訳である。伊藤匠叡王戦では、辛抱する伊藤匠叡王に対して間違えてしまう場面も多かったが、どうやら相手との距離感の問題なのかもしれない。渡辺明九段の3勝1敗でもおかしくない流れなのに、きちんと勝っている。5連覇と永世王位に王手をかけた。畏るべし藤井聡太七冠だな。