西山女流三冠が7月4日の朝日杯予選で阿部光瑠七段を破り、直近の男性棋戦(公式戦のつもりで使っている)で13勝7敗になり、棋士編入試験の受験資格を満たして、その場で受験することを表明した。私は阿部光瑠七段戦に勝っても、編入試験の受験はしないのではないかと思っていた。何故ならば棋士に成ることは諦めていたと思っていたので。もう実力は誰もが認める女流棋士である。NHK杯では藤井竜王名人と対局することになっている。経済的にも女流三冠を保持しているので、賞金と対局料で生活できているはずである。女流棋戦の優勝賞金も高額になり、「白玲戦」は男性棋戦の中でも5,6番目にはなっているのではないかな。私はどうして西山女流三冠は棋士編入試験の受験を決意したのだろうと思った。

 13勝の内訳を調べてみた。全部この1年以内での対局であった。正確には13ヶ月以内と言い直してもいい。昨年の6月からの公式戦勝利は13勝である。7敗しているが、この1年で公式戦を20局以上対局しているわけである。女流棋戦の対局も有り、それもタイトル戦も多い。昨年度の8つのタイトル戦の内6つに出場している。3勝3敗で、三冠に終わっているが、福間加奈女流五冠とこの所トップ争いをしている。一時は西山女流三冠がトップかと思われたが、福間女流五冠が押し戻しているのがこのところの成績である。福間女流五冠も棋士編入試験を受験したが、3連敗で四段獲得を逃している。忙しい最中だったのに挑戦したが、やや無理筋だった。こう書いているうちに、ひょっとしたら福間女流五冠の3連敗が、西山女流三冠の戦意に火を点けたのかもと思った。男性は大体3勝1敗で四段昇段を決めている。奨励会を経由してない男性も四段になった。三段リーグでの成績があまり良くなかった元三段も四段昇段を果たした。これでは女性は実力がないみたいに思われるのではないかと考えられたのかなと思った。

 木村一基九段(1-0)高橋道雄九段(1-0)富岡英作九段(1-1)堀口一史座八段(1-0)阿部光瑠七段(1-0)佐々木大地七段(1-1)梶浦宏隆七段(1-0)所司和晴七段(4-0)木下浩一七段(1-0)渡辺和史六段(2-0)石田直裕五段(1-1)谷合廣紀四段(1-1)斉藤優希三段とは三段リーグでは(2-1)であった。勝率6割5分も凄いが、負け越しの相手がいないことも凄い。フリークラスの棋士が多いのだろうと言われそうだが、現役の順位戦棋士が8名である。NHK杯で木村一基九段を破った時「大金星」と書いたが、佐々木大地七段は昨年棋聖と王位の2つのタイトルの挑戦している。持ち時間の少ない「朝日杯」だったので大騒ぎしなかったが、一次予選の決勝であった。こちらの方が「大金星」だったかもしれない。梶浦七段は竜王戦に強く、渡辺和史六段は順位戦に強い。どちらも有望棋士である。この成績を見ると、棋士編入試験は必要ないように見える。斎藤三段を除いた通算成績ではなんと16勝4敗の勝率8割である。女流棋士をなめて対局する棋士は昭和の時代ならいざ知らず、今ではいない筈である。奨励会三段リーグの厳しさを知っているから。西山女流三冠はそこで14勝4敗で次点になった。その後の三段リーグでも途中まで7勝3敗とか8勝3敗とか記録したが、残念ながら終盤連敗を喫して止まらなかった。プレッシャーの方は男性より女性の方に重くのしかかっているようである。現在中七海三段が頑張っているが、年齢制限の壁、初の女性棋士誕生へのプレッシャーなど、ストレスは計り知れない。女流棋士の道が残されていると言っても、それを甘受するにはあまりにも四段昇段への夢は大きかったと思う。

 棋士編入試験で西山女流三冠が負け越すとも思えないが、新四段の面目などを考えると、理事会に図って、西山女流三冠の四段昇段を認めてやってほしい。公式戦での15局以上指して、10勝以上、6割5分という設定は受験資格としては厳しすぎる。産児制限と言われてもおかしくない。そもそもアマチュアは公式戦の参加資格を獲得するのさえ難しいのである。編入試験の受験資格ではなく、フリークラス四段昇段の資格とすべきではなかろうか。現在フリークラス棋士の増加により、次点2回でフリークラス入りをした新四段が短期間で順位戦参加資格を獲得している。弊害とまで言わないが、現在の三段リーグで次点を取るのはそれだけ難しくなっているということである。

 ちなみに斉藤優希三段のフリークラス入りを認めてもいいのではないかと思っている。今期で13期目だが過去に負け越しは1回だけで最終日に弱いのが玉に瑕である。8勝10敗で負け越したのだが、最終日に連敗を喫している。現在7期連続勝ち越しで今期も7勝3敗である。おそらく勝ち越すだろうが2位以内は難しいかもしれない。勝率は6割近くで三段リーグで既に134勝も挙げている。勝ち星昇段があるのであれば、とっくに該当しているであろう。以前にも書いたが三段リーグで10期以上指して100勝以上あげたり、勝率が高い場合は、フリークラスに昇段させていいのではないかな。10年以内に順位戦参加資格を得られなかったら、引退なのだから、フリークラスにはもう少しハードルを下げていいのではなかろうか。上野新人王も10期で102勝を挙げている。6期連続の勝ち越しで2位に入った。一位はなかったが、藤本渚五段を破って、3局目で棋戦優勝である。勝負事に運不運は付き物だが不運続きで人生を終わってほしくない。

 西山女流三冠と斉藤優希三段の四段昇段を心から祈っています。