先日のNHK杯で西山朋佳女流三冠が、木村一基九段を逆転で勝った。木村九段は元王位獲得者で現在順位戦B級2組所属棋士である。前期不調でB級1組を陥落したが、A級は通算5期務め22勝23敗の成績である。二度目のA級陥落は4勝5敗で、その時4勝5敗は6人いた。A級復帰したばかりで順位が悪く、不運な陥落であった。一緒にA級復帰した渡辺明九段は全勝で名人挑戦を勝ち取り、そのまま名人奪取を果たした。順位戦には不運続きの棋士も数多くいるが、一番不運なのは深浦康市九段だと思っている。二度の9勝1敗で昇級できなかったことも不運だし、二度の4勝5敗のA級陥落も不運である。二度あったのは深浦九段だけであろう。木村九段もA級3期連続勝ち越しで、初めての負け越しが3勝6敗であった。順位7位とか8位とかならば仕方がないが普通は頭ハネで残留というのが相場だと思うが、落ちてしまった。深浦九段も木村九段もかなりの対局数まで勝率7割をキープした棋士である。昨年佐々木大地七段を破った時も驚いたが、今期の木村九段戦の勝利も驚いた。しかも木村九段優勢で終盤に入ったが5五角打ちで逆転した感じである。木村九段の敗着は4一金なのかな。NHK杯は生で見ていなかったので残念だった。録画するはずだったのに、逃していた。次は藤井竜王名人との対局である。藤井竜王名人の唯一の三段リーグでの最終戦の相手が当時同じく新三段だった西山女流三冠だった。藤井三段は勝てば昇級昇段を決めるという対局であった。西山三段も前の対局で勝って10勝目を挙げていた。女性三段初の勝ち越しだったが、当時は藤井三段の史上最年少四段で沸き立っていたので、たいして報道されなかったと記憶している。新三段の13勝5敗での1位昇級は珍しい。2位は大橋貴洸三段の12勝6敗であった。二人は四段昇段後は勝率8割棋士、勝率7割棋士として勝ちまくる。そして大橋七段は数少ない藤井竜王名人に勝ち越しているという棋士でも有名である。西山三段はその後14勝4敗の成績を上げるが次点に泣く。14勝4敗を挙げた三段はその後は皆四段昇段を果たしているそうである。それだけ三段リーグで14勝も上げるのは大変だし実力がないと出来ないことである。新三段で14勝4敗で次点に泣いたのは服部慎一郎六段である。すぐにでも四段昇段を果たすかと思われたが、昇段を果たしたのは5期目である。ずっと勝ち越しを続け二度目の14勝4敗で昇段を果たした。本当に三段リーグは新四段を選ぶ戦いというより、将来の名人八段候補を選ぶ戦いという感じである。

 度々三段リーグについては書いているが、今期の三段リーグも10回戦が終わったので、ついでに書いておきたい。9勝1敗が2人、8勝2敗が1人、7勝3敗に山川数毅三段が来た。4位である。竜王戦5組昇級を決めているので、出来れば中学生棋士には間に合わなかったが、藤井竜王名人のライバル候補として早く四段昇段を果たしてほしい。年齢制限を超えているが、斉藤優希三段も7勝3敗で6位につけている。三段リーグ13期目の三段で、7期連続勝ち越しで退会を免れている。実力十分であるのでこのチャンスを生かしてほしい。中七海三段も連勝して6勝4敗である。昇段の目を残している。山川三段を負かしたのには驚いた。女流棋士に成れば間違いなくタイトルを争う逸材である。福間女流五冠の棋士編入試験の時も感じたが、昨年は福間女流5冠は男性棋戦を含めれば61局戦っている。多くはタイトル戦である。一昨年もその前も67局68局の対局数である。大変な努力をしていることが察せられる。西山女流三冠は昨年が68局、一昨年が77局でその前が54局である。負けた相手はほとんどが福間女流五冠か男性棋士である。福間女流五冠より加藤桃子女流四段に負けることが多いが、加藤女流四段も元奨励会員有段者である。以前は奨励会2級が限界かなどと悪口を言われたものだが、現在は20歳初段の年齢制限の壁を越えて有段者になった女性が4名いる。タイトルを争っている。中七海三段も当然争えるが、四段に昇段したらやはり女流棋戦には参加しない方がよいのではないかと考える。女流名人戦が発足してから半世紀が経った。現在女流のタイトル戦も8つである。優勝賞金も大幅に増えた。女流棋士として自活できる基盤ができたように思う。そのせいか、中学生にして女流棋士を選ぶ女性が増えた。高校生を含めると現在何人いるのかな。残念ながら女流棋士に成ってからの棋力の向上が、少ないように見える。それだけ層が厚くなったのかなとも思うが、少々寂しい。野原未蘭元中学生名人もまだ女流初段である。

 西山女流三冠の棋士編入試験が話題になっているが、スケジュール調整が大変だし、今更女性棋士に成るメリットが西山女流三冠にあるのだろうかとも思う。男性棋士に対する対戦成績も最近は5割を大体超えている。福間女流五冠よりもいいのではないかな。棋士編入試験の対戦相手がえぐいと思う。あの三段リーグを通過した最新の棋士5名が相手なのだから、勝ち越せる棋士はいったい何人いるのだろうか。囲碁界では女性の特別枠を認めているではないか。男性棋士は女流棋戦に出れないが、女性棋士は両方出場できる。女性棋士の方が収入が多かったりする。第一初段からプロと認めているからな。大変な違いである。

 女流棋戦で提案したいことは持ち時間の増加である。藤井竜王名人が二日制のタイトル戦に強いことからわかる通り、持ち時間が多い方が強くなると思うのだが。しかし持ち時間の少なさが、学業や家事育児と対局の両立を可能にさせている一面もあるのかな。西山女流三冠は初の女性棋士に成るべきかどうか。中七海三段も既に25歳になっている。年齢制限が待っている。中三段に初の女性棋士を期待するのは、今の三段リーグでは厳しいだろうな。

 しかしそれにしても時の竜王名人に女流棋士が挑むという構図は、漫画でも描かれていないのではないかな。ドラマではあったかな。ちょっと記憶が怪しい。藤井竜王名人対西山女流三冠戦と阿部光瑠七段対西山女流三冠戦は楽しみである。