75回三段リーグも8回戦がすべて終わり、残り10戦となった。ほぼ前半が終わった感じである。今回は44人の三段が参加している。本当に気の毒だと思う。実力的にはフリークラスの高段者よりは、ずっと強い三段がゴロゴロいるのに年間4人しか四段昇段出来ない。半年間で2名の昇段者で、このところずっと倍率20倍以上である。次点2回でフリークラスの四段昇段できるが、以前はなかなか順位戦のC級2組入りが出来なかった。しかしこのところの三段リーグで次点2回というのは、かなりの実力者ということで、1年以内に順位戦入りを果たして、順調に昇段していく棋士が出ている。古賀悠聖六段が好例で1年で順位戦C級2組入りを決め、C級2組では9勝1敗で1期抜けである、そして昨年はC級1組でも9勝1敗を取り、連続昇級である。最近では珍しい。佐々木大地七段も次点2回の四段昇段だが、既にタイル挑戦2回である。順位戦はC級2組のままで、八代弥七段同様何故昇級できないのか、棋界の七不思議の一つだと思っている。やはり制度に欠陥があるとしか思えない。過去にも屋敷伸之九段がC級1組で10年以上足踏みして、不思議がられたものである。藤井八冠が登場する前は、史上最年少のタイトル獲得者であったのに。幸い若かったのでB級2組に昇級してからはA級まで上り詰めたが、過去にもタイトルを獲得したのにA級に上れなかった棋士が複数いる。その二の舞にならないか心配したものである。

 そもそも現行の順位戦制度は、産児制限もするが、実力主義に貫かれていた。古くは初段からプロ棋士である。第一その頃はプロの段位とアマの段位にそれほどの乖離はなかった。真剣師も含めてプロアマの定義は曖昧だったと思う。それが東西の棋界が大同団結して、日本将棋連盟が一本化した。実力制名人戦が浸透して、その挑戦者を決める順位戦が組織化された。当初はB級からも名人挑戦の機会があった。考え方としては、名人挑戦者を決める棋戦が順位戦だったわけである。よく言われることだが、奨励会は名人・A級八段の候補者選びの戦いである。決して四段や五段を作るためのものではないと。だから奨励会を突破した新四段が、抱負として名人八段を目指すというのは、当たり前のことである。しかし忘れてならないのは、その頃はタイトルは名人位しかなかったことである。当時の棋界を考えた人は頭が良かったのだろうと、感心するほどである。大山名人や升田実力制第四代名人の師匠は木見金次郎九段である。多くの弟子を育てたことになっている。大山少年を強くしたのは升田青年であり、升田青年を強くしたのは大野源一九段と言われている。昔は内弟子を取り、弟子は師匠の家の手伝いをしながら、兄弟弟子と切磋琢磨しながら、名人を目指したのである。升田元名人が実力制第四代名人という、名人の呼称に拘ったのは、やはり戦地でも名人になる夢を絶やさなかったからではないだろうか。木見九段と言えば将棋の先生ということになるが、実はお蕎麦屋さんというのが実情に近かったと言われている。記憶違いかもしれないが大山少年はよく出前に行かされていたそうである。逆に副業が順調だったので、多くの弟子を抱えることが出来たのであろう。終戦直後は棋士不足である。食うためには田舎にいる方が良い。将棋の対局の為に、東京や大阪に住むというのは、かなりの負担だったようである。2年で八段になったりした棋士もいたようである。その頃はまず生活を成り立たせるためにはどうしたらいいか、そのことを深刻なまでに考え抜いたのであろう。順位戦が発足した頃はA級、B級、C級の3クラス制だったようである。しかしもう80年近く経過している。タイトル戦も8つに増えている。昇段もいくつものルートが生まれた。実力主義だった順位戦にも降段点なるものも生まれた。そしてフリークラスが誕生した。当初はそれなりに厳しかったが、今では実力が無くなった棋士の救済策にしかなっていない。福祉の考え方も入ってきて、生活の安定も保証するようになった。今のままでいいのか。

 現在三段リーグは7勝1敗が4人いる。山下数毅三段は3敗目を喫した。5勝3敗で8位である。5敗までは昇級圏内であろう。3敗目を付けたのは中七海三段である。現在4勝4敗である。順位が悪いのでもう負けられない対局が続く。先ずは10勝を目指すべきであろう。気がかりな斉藤優希三段は4連勝して5勝3敗で9位につけた。年齢制限をオーバーしているので、先ずは10勝を挙げて、昇級争いに食い込んでほしい。三段リーグでは高勝率で6割近い数字を残している。5割切っていても、1期の好成績で昇級昇段を決める棋士もいる。13勝5敗で1期抜けした棋士もいる。藤井八冠の事である。14勝4敗で次点になり、退会した女性三段もいる。西山女流三冠の事である。あまりにも悲喜こもごもが多すぎるような気がする。順位戦は名人挑戦者を決める棋戦という位置づけは、そろそろ降りた方がよい。三段リーグの改革後、順位戦の改革にも手を付けた方がよい。日本将棋連盟の今後の百年を見据えるならば、今がチャンスだと思うのだが。