山崎隆之八段を挑戦者に迎えて、第95期棋聖戦第1局が千葉県木更津市「竜宮城スパホテル三日月」で行われた。振り駒の結果山崎八段の先手になった。立会人は深浦康市九段で、千葉の会場で珍しいなと思った。何となく北海道は屋敷伸之九段、九州は深浦九段という感じで、千葉は石田和雄九段かなと思っていたので、ちょっと気になった。地域の人々を集めるのに。出身の九段が起用されているのかなと思っていたので。ちなみに関西対局は谷川浩司十七世名人が思い浮かぶ。立会人よりも大盤解説の方がファンと接触する機会が多いので、そちらになっているのかなと勝手に思ってしまった。ABEMAの解説は石田直裕五段と北浜健介八段であった。聞き手は脇田菜々子女流初段と香川愛生女流四段である。最近は野原未蘭女流初段と脇田女流初段はよく見かける。選考の基準は何だろうかと思った。ABEMAトーナメントでも司会をしていたなと思い出した。

 さて対局の方だが午前中はほぼ互角で推移していた。終局後山崎八段が後悔していたが、39手目7五歩が出た。少し欲張った手であるが、咎められないと山崎八段が指しやすくなるのかなと思っていたら、藤井棋聖は見事に咎めた。3一玉か4二玉が読みであったのだろうが、解説もその方向で語っていたが、意外にも40手目は4三銀であった。19分の考慮時間なので、その場で考えたものか、事前研究の範囲内であったのかは分からない。山崎八段は30分の考慮時間で41手目2六飛と指した。ごめんなさいという手である。藤井棋聖が評価値53%になった。これから先はほぼ順調な藤井曲線を描いた。山崎八段は55手目の1七角などひねり出していたが、形勢は次第に藤井棋聖有利から優勢に変わっていった。敗勢に陥りながらも4五銀などハッとするような手もあったが、藤井棋聖の冷静な対応で大事には至らなかった。聞き手の脇田女流初段は、タイトル戦を数多く見ているせいか、こんな感想を漏らしていた。「最近の藤井棋聖は、スパッと決めるよりは、負けない手を指すことが多いですね」と。確かに遠回りでも、間違いが起きにくい局面に持って行って、勝ちをものにしている感じである。ちなみに脇田女流初段は愛知県一宮市市出身で、藤井棋聖が幼い時に指したことがあるそうだ。藤井棋聖の妹弟子(6歳年上ではあるが入門は藤井棋聖の方が早い)の中澤沙耶女流二段と一つ違いの同郷である。勝手に同じ愛知県出身で幼い時の藤井少年を知っているのが起用の多さに繋がっているのかなと思っている。愛知県一宮市生まれで有名なのは豊島将之九段である。ABEMAの地域対抗戦でも中部地域代表として、藤井棋聖と豊島九段は同じチームになり、優勝を果たしている。ABEMAトーナメントは1人最高3局までだが、地域対抗戦は勝ち残り方式だったので5連勝が実現していた。藤井棋聖は4連勝、5連勝を記録して、1敗だけの成績だった。何だかABEMAトーナメントで出番が少なくなった藤井八冠の出番を増やし、活躍の場を見せるためのような印象を与えてしまったが、地域対抗戦自体は大変面白かった。山崎八段も中国四国チームのリーダーとしてベスト4に導いたのではなかったかな。

 脱線ついでに竜王戦6組決勝は藤本渚五段対山下数毅三段の組み合わせであった。山下三段は勝てば四段昇段がかかる将棋であった。三段リーグで次点を獲得しているので、次点2個ということで四段昇段してフリークラス入りが叶うそうである。ただし現在の三段リーグで降段点を取らないことが条件だそうである。現在4勝2敗の山下三段にとって難しい条件ではない。むしろフリークラスになるぐらいなら、三段リーグで昇級昇段を勝ち取って、晴れて順位戦C級2組入りしたいであろう。途中まで山下三段が有利だったが、藤本先生五段に押し切られた。藤本五段は去年の伊藤匠七段同様の竜王戦ドリームを実現することが出来るか。伊藤匠七段は挑戦者にまでなったので、1組昇進を果たしている。今期は3位決定戦で久保利明九段に敗れて本戦入りを逃している。1組優勝は山崎八段である。スーパーシードだから、竜王挑戦の可能性は大きい。こちらも楽しみである。 

 さて本題に戻そう。90手目の8八銀で山崎八段が投了した。藤井棋聖は10分ほどまだ時間を残していた。8八銀以下は簡単な即詰みである。局後の感想では山崎八段が先手になったので、やはり慎重になったようだ。もう少し暴れた方が良かったかなということを述べていた。次局は後手なので伸び伸び指したいと思っているとも語っていた。弟弟子の糸谷哲郎八段も言っていたが、レーティング的には1番入るかどうかであるが、もしかしたら夢のようなスコアになる可能性もあるということだ。次の後手番に勝利すると、現在の叡王戦のようなことが起こるかもしれない。次が楽しみである。