久しぶりに「将棋」についてアップする。名人位を防衛した時書いていたかと思ったら、日記に書いただけだった。

 第9期叡王戦は伊藤匠七段を挑戦者に迎えて、藤井聡太叡王の正念場になった。8つのタイトルの内一番危ないと思っていたのが「叡王戦」であった。理由の一つは持ち時間4時間のチェスクロック使用というのがあった。二つ目は5番勝負の1日制であることだ。5番勝負だと先手番を一番落とすと急に模様が怪しくなる。今回も第3局の先手番を落として、カド番に追い込まれた。唯一最終戦までもつれ込んだのも「叡王戦」であった。お互いに先手番をキープして、最終戦振り駒の結果藤井挑戦者が先手番を取って、3勝2敗で豊島叡王から「叡王位」を奪取した。それ以外は5番勝負では2敗を喫することなく、7番勝負では3敗を喫することがなかった。しかし今回伊藤匠七段に先に2勝されてカド番に追い込まれた。

 対伊藤匠七段戦は危うさを感じていたが、この叡王戦で現実のものになろうとしている。ずっと連勝していたが、何か変なのだ。らしくないというか、よれよれで勝っている感じを受けた。対する伊藤匠七段は真っ向勝負で、自分の研究をぶつけているようであった。そして切っ先がもう少しで触れそうな感じになっているようであった。子ども時代はもちろんの事、奨励会時代も結構負けている。三段リーグは1期抜けであったが、成績は13勝5敗である。13勝5敗の1位通過は少しラッキーである。14勝4敗で西山朋佳三段のように次点に泣いた三段はかなりいる。14勝4敗で上がれなかった三段は、そのうちに四段昇段を果たしていたそうだが、西山三段が初めて14勝4敗を挙げた三段が四段に成れなかった例らしい。服部慎一郎六段は三段リーグ初参加で14勝4敗の成績を上げたが、次点を取ったが、5期通過である。二度目の14勝4敗で昇級昇段した。強い人はどこの位置にいても勝率6割は超えるらしい。藤井八冠はフィッシャールールでも抜群の成績を上げているが、負け数は結構多い。負けパターンはやはり長いたたき合いでミスが出る時である。ところがタイトル戦では長考の後の指し手に悪手もしくは疑問手が出ることがある。踏み込み過ぎることもあるが、大体において踏み込みが甘いことが多い。対伊藤匠七段戦はその踏み込みが甘い手が多いような気がする。やはり同年のライバルを意識してのことかなと思う。今期の叡王戦でも、途中まで形勢も良い、時間も多く残している。藤井曲線で勝ち切るかと思ったら、いつの間にか藤井叡王の方が先に時間が無くなったり、互いに秒読みになり、藤井叡王の方が先に最善手を逃してしまうケースが出て来た。私は藤井叡王の不調というより、対伊藤戦に限ってのことではないかと思った。

 さて伊藤匠七段の先手番で始まった第4局は角換わりになり、腰掛け銀になった。互いに間合いを図り、仕掛けの隙を窺う展開になった。伊藤匠七段の51%の評価値が長く続く。昼休み前に9五歩と藤井叡王が先にちょっかいを出す。同歩はないだろうという解説陣の見立てだったが、なんと同歩であった。AIの評価値は一気に藤井叡王に傾く。しかし少し藤井叡王が指しやすいという程度である。勝負はこれからだ。82手目7五歩と指せば、60%以上になるとAIは示していたが、4六角であった。まだ有利ではあるが、54%に縮まった。これは悪い長考である。相手の手を渡せば有利になるのに、伊藤匠七段に対しては自分から動いていく藤井叡王である。時間も逆転した。83手目4八金の後、84手目6四角と元の位置に戻った。「出たあ」と思った。藤井叡王得意の手渡し作戦である。残り時間は伊藤匠七段の方が少し多かったが、ここで40分の長考である。85手目2四歩であった。藤井八冠の八冠たる所以は、老獪というか、小憎らしいというか、相手の手を読み切ってのこの手渡しにあると思っている。相手は自爆覚悟の攻撃を開始するか、耐え難い辛抱をしてジリ貧に陥るかである。将棋を指していると、相手を本当に憎たらしく感じる時がある。綺麗に詰まされたならば、さっぱりするが、この様な決断を迫れられる時が一番嫌である。本当に大山十五世名人は嫌われたらしいが、その言動もあるだろうが、将棋の内容によるものも多いように思う。

 132手の9六歩を見て伊藤匠七段は投了した。筋に入った藤井八冠の攻めは、3分も残っていれば間違えない。19分も残っていた。名人戦の第3局だったであろうか、豊島将之九段が夕食休み明け2,3手で投了した。ダメージを軽くしようとしたのであろう。第4局は見事勝ったのである。伊藤匠七段は局後「熱戦にならず、粘りを欠いたかな」と反省の弁を述べていたが次局の為であろうと推察する。叡王戦第3局と第4局の間に名人戦が2局挟まった。今度は第4局と第5局の間には、棋聖戦が2局挟まっている。吉と出るか、凶と出るかは神のみぞ知るかな。タイトルは獲得を失敗するよりは、失冠する方が何倍も辛いらしい。藤井八冠は失冠の辛さを味わうことになるのか、伊藤匠七段は三度敗北の苦渋を味わうのか。

 そう言えば大盤解説場で藤井叡王は面白いことを言っていた。最終局への意気込みを尋ねられて「持将棋にならなければ、次が最終局になると思いますので・・・」と答えていた。元来藤井八冠はおしゃべりらしい。頭の回転が速いので、早口だし、周囲への気遣いで、インタビューの時は、絞り出すようにして話すが、何だか本性を露わにしてきたかなと思った。