第9期叡王戦が始まった。伊藤匠七段が三度目の挑戦である。名古屋にある「か茂免」で対局があった。叡王戦は名古屋対局が多い。第3局も名古屋の予定である。藤井聡太八冠に対して伊藤匠七段は過去タイトル戦も含め11戦10敗1持将棋である。タイトル戦の持将棋は1局と対局数に入れる。別に0,5勝という訳ではない。無勝負である。対局数に入れるが勝率などでは0計算である。千日手は難しい。通常は2回目3回目でもあっても当日指し直しである。朝方終局も多いのである。ただしタイトル戦はいつまでも指し継ぐわけにはいかない。名人戦で中原名人対加藤一二三九段戦で10番勝負になったことがある。指し直し局を別日にしたためである。通常6月で終わる名人戦が7月までかかったのである。そして加藤一二三名人の誕生になった。加藤一二三名人42歳の時である。名人戦では三度目の正直であった。最初の挑戦は20歳の時である。その後米長邦雄永世棋聖が7度目だったかな、名人挑戦は。49歳での獲得であった。翌年羽生善治九段に敗れたがそれまでは50歳名人を名乗っていた。二人とも名人1期である。羽生九段の場合は既に複数のタイトル獲得の経験があったので、順当な結果であったろう。中原誠名人の時に似ている。既に複数のタイトル保持者であった中原十段が大山康晴名人を破って、24歳で名人になった。実力制では当時最年少記録であった。

 21歳の二人の対局はどこまで続くのであろうか。解説の石田直裕五段が「年度初めのタイトル戦で名局賞候補が生まれた」と言っていた。途中まで伊藤匠七段がリードしていたが、今までは中盤戦の途中までであった。そのため伊藤匠七段も中盤の精度を上げなければと語っていたが、80手を超えても互角から伊藤匠七段有利の状況を作っていた。渡辺明九段は藤井竜王名人に苦杯を飲まされてきたので、最後の一手が大事なんだと言っていた。途中まで有利でもあまり意味がないみたいなことを語っていたが、普通の棋士は藤井八冠相手に終盤まで互角以上ならば大変なことである。やはり藤井八冠がハラハラドキドキするが、やや不利で終盤になるのが、藤井竜王名人の逆転の布石が見られるので、面白いのである。石田五段が感心していたのは、5六銀と2九飛の組み合わせであった。遊び駒になっていた飛車銀を活用したのである。5六に進んだ銀は結局取られただけであったが、伊藤匠七段の5五歩を誘発している。6九の角を飛車で取られてからは、最善手を指しても勝てなかったようである。それでも難しい局面を最善手を指し続けなければ、逆転の可能性はあったようである。藤井叡王の読みが上回ったわけである。藤井叡王も終盤まで不利を自覚していたようだ。さすがに伊藤匠七段も残念そうではあったが、感想戦が良かった。

 遠くにある大盤開設会場への挨拶の為に、少し時間がかかって、改めて感想戦を行っていたが、中盤戦の大事なところも感想戦を正直に行っていた。石田五段は番勝負で後があるのであまり触れないのではと言っていたが、二人は感想戦を行っていた。藤井叡王は正直にしゃべり過ぎという感じであったが、楽しそうであった。良き理解者を得て、将棋を深められると思っているのだろうか。同年の好敵手という感じかな。伊藤匠七段は謙虚に話を聞いている。その目は理解していってるように見えた。他の対局者はタイトル戦で藤井八冠に負けた後は、しばらくは調子を崩しているように見えるが、伊藤匠七段はますます強くなっている感じがする。年齢的なものが有るのかもしれない。昨年度も藤井戦を除けば勝率8割超えである。竜王戦も1組の準決勝まで駒を進めている。連続挑戦が成るかもしれない。

 6日にABEMA地域対抗戦準決勝の関東Bチーム対中国四国チームの試合が放送されていた。現在のA級棋士3名を擁する関東Bチームが5勝4敗で決勝進出を果たした。関東Bチームの伊藤匠七段は1番手に出場して3連勝していたが、関東Bチームの雰囲気は、伊藤匠七段が大健闘している雰囲気ではなかった。破った相手は糸谷哲郎八段、菅井竜也八段、藤本渚四段(当時)である。黒田堯之五段が4連勝を阻止したが、よくやったという感じであった。関東Bチームは伊藤匠七段の他は監督が渡辺明九段、永瀬拓矢九段、増田康宏新八段で他には森内俊之九段である。その中で一目も二目も置かれている感じである。渡辺九段は率直な感想を述べるので、随分と感心しているようだった。菅井竜也八段の活躍で、4勝4敗の互角になって、永瀬対菅井のライバル対決が実現した。フィッシャールールは振り飛車が有利に感じた。かなり永瀬九段が有利かと思って見ていたが、結局は永瀬九段の即詰みが炸裂して逆転には至らなかったが、菅井八段は詰みまで指した。これで決勝は中部対関東Bとなった。予選では当たらなかったので、初対決である。メンバー的には関東Bチームが優勝候補の最右翼だと思うが、勝ち抜き戦なので5連勝もあるからな。平均レーテイングが高い関東Bチームが有利だと思うが、藤井、豊島の二枚看板は名人戦でも激突するわけで、名人戦中の決勝放送である。興味深いことである。

 粒ぞろいの関東Bチーム内でも二度の出場をする伊藤匠七段である。森内九段は結局出場の場面がなかった。将棋大賞でも優秀棋士賞を授与された。優秀棋士は大体ナンバー2の棋士が選出されることが多い。衆目の見るところ既に伊藤匠七段がナンバー2なのであろう。その伊藤匠七段が謙虚に藤井叡王の感想に聞き入っている。自分の方が良かったと思っているのに、貪欲に吸収しようとしている態度を見て、強くなる棋士はこうなのだなと思った。古くは升田大山の対決、その後は中原加藤の対決も連敗からの連勝だったなと思うと、やはり打倒藤井の一番手は伊藤匠七段が最有力かな。まだ先の話と見ていたがタイトル戦で藤井八冠に連勝するのはもう近いかもしれないと感じた。