大相撲春場所で新入幕力士が10連勝を果たしている。9連勝の尊富士と8勝1敗の大の里が対戦した。正直なところ大の里の圧勝だろうと予想していた。星は一つ差だが下の方で取っている尊富士と入幕2場所目の大の里では実力差があるのではないかと見ていた。体格差もあり、同じような立ち合いから一気に寄る相撲ぶりも大の里が上ではないかと見ていた。しかしそれまでも何故あの体格であんな風に一気に持って行けるか不思議だった尊富士は、私が見る以上に圧力を与えるのであろう。

 両者互角の立ち合いだった。大の里は右上手を取った。今までだとここで一気に寄っていくはずなのに、どうしたことか、尊富士の右の下手を切ろうとする動きを見せた。上手投げを見せたのかとも思ったが、呼び込む形になって一気に寄られてしまった。当たった時尊富士の当たりが予想以上に強かったのであろう。大の里にしては出来の悪い相撲だった。2敗に後退して星二つの差になった。大関琴の若は勝って2敗を守り、大関貴景勝は敗れて3敗に後退した。これで2敗力士は琴の若と大の里の二人になった。

 今日の取り組みで琴の若対尊富士戦が結び前に組まれて、結びの一番に貴景勝対大の里戦が組まれた。最近の取り組みは番付を無視することが多く、よく言えばファンの喜ぶ組み合わせとも言えるが、悪く取ればファンに迎合する姿勢のようにも見える。大相撲は興行だから、相撲ファンを喜ばせることが大事かなとも思うが、ちょっと場当たり的で私自身は苦々しく思っていた。千秋楽で「三役揃い踏み」に平幕力士が上がったりするのは、違和感の何物でもない。今日は11日目なので思い切った取り組みと言えるかな。尊富士が琴ノ若を破り、貴景勝が大の里を破ると星三つの差になる。優勝争いとしては大丈夫かなと思う。

 新入幕力士の連勝というと大鵬の11連勝が記憶に残っている。美男で色が白く、相撲取りらしくないスマートな大鵬に、人気が爆発したことである。12日目の取り組みは12連勝をかけて、確か小結だったと思うが柏戸が対戦したのである。後に横綱に同時昇進した二人の初顔合わせである。この頃は幕尻の力士が役力士と対戦することは無かった。ましてや横綱大関と対戦することもなかった。幕内に上がって結びの一番を取るというのは、それだけで名誉なことだった。新入幕で役力士と対戦するのも稀有な事であった。比較的平幕優勝を許すところがあった。平幕優勝を許すなんて横綱大関の不名誉であった。最初の柏鵬戦は柏戸の勝利で大鵬の連勝を止めた。最近は自分の記憶に自信が持てなくなっているが、調べることはしない。そのように記憶している。清国の連勝も印象的だったが、それは新入幕ではなかったと思う。柏鵬戦はTV中継で見たと思うが、我が家にはTVがなかったのでどこで見たか記憶の糸をたどったら、どうもタバコ屋の店先で見たような記憶に辿り着いた。小学校3年生の時である。

 その後学生横綱出身の豊山が台頭するが大鵬の壁に阻まれて、大関止まりであった。準優勝は7,8回したのではなかったかな。あの頃はプロとアマの差が大きいのは、将棋と相撲だと言われていた。将棋のアマ名人でもプロ棋士と指すとなると大駒落ちであった。今だと角落ちはそんなに大きな差ではないと分かるが、その頃は大差だと思っていた。今だと幕下も随分強いことが分かるが学生横綱は幕下で勝ち越せるかどうかの差があると思っていた。その中で飛びぬけての実力者だったのが豊山であった。学生横綱が大相撲の横綱になるのは輪島の登場を待たねばならなかった。アマ横綱は大体実業団所属だったので、その頃はプロに飛び込むことはほとんどなかった。実力差を感じていたからであろう。学生だとまだ伸びしろが期待できたけど、アマ横綱ではもう頭打ちと思われていたのであろう。

 さて今場所は尊富士が大活躍している。先場所は大の里である。その前は熱海富士でその前は琴柏鵬である。新入幕で優勝争いをしている。いずれも学生相撲出身である。今は大学生でもアマ横綱になることも多い。昔は中学生で相撲取りになっていた。北の湖などは中学生力士の最後の頃かな。いつの頃からか中学生力士は禁止になった。大飯ぐらいの巨漢の小中学生をスカウトしていたのである。食費に困る家庭では相撲部屋に預けることも多かったようである。将棋指しの方も内弟子制度があって、将棋指しの先生の家に住んで、家事や場合によっては商売の手伝いをしながら、将棋の修業に励むという形であった。入門と奨励会入会は必ずしも一致しない。昔米長邦雄永世棋聖が語っていたが、奨励会5年、棋士に成って8年ぐらいでA級八段になれないようでは、名人は狙えないと言ってたように思う。思えば層が薄かったのであろう。順位戦の定員は当初は60人台だったと思う。将棋指しの収入は少なく、副業が当たり前であった。弟子を取っても、相撲協会のように力士養成金みたいなのは出せないから、弟子はあまり採らないのが普通だった。大体地元では「神童」と呼ばれた子どもたちを、地元の有力者が縁故を頼って弟子入りを志願させるのである。だいぶ今とは仕組みが違うようである。

 さて11日目の尊富士は大鵬の記録に並ぶことは出来るか。新大関初優勝のためには負けられない琴の若が番付の違いを見せつけられるか。カド番大関貴景勝は勝ち越し成るか。大の里の実力は本物か。夕方が楽しみである。