昨日はC級1組の最終戦があった。既に服部慎一郎六段が昇級を決めており、後の2枠の争いである。実力者が昇級争いに絡み、面白い展開になっている。本当に順位戦は面白い。自力昇級を目指すのは古賀悠聖五段と伊藤匠七段である。伊藤匠七段は前期9戦全勝で最終局に臨み、2期連続の昇級間違いなしと思われていたが、最終局に敗れ、9勝1敗となった。1敗勢3人の内一人でも負ければ昇級するはずだったのだが、3人とも勝ち頭ハネで昇級を逃した。C級1組で9勝1敗で昇級できなかったのは藤井竜王名人を思い出す。今期は伊藤匠七段は序盤で2敗を喫し、今年もダメかと思われたが、順位1位を生かして8勝2敗で昇級した。既に竜王戦では5組からの竜王挑戦を果たし、規定により4階級特進の1組昇級を果たしている。3組や4組からの竜王挑戦は過去にもあったが、5組からは初である。文字通り竜王ドリームであった。藤井竜王名人は毎年優勝するが本戦で敗れて、元の組に戻り、5期連続のランキング戦優勝を飾り、2組からの挑戦でようやく竜王位を奪取した。ランキング戦無敗というのも珍しい記録であろう。

 その伊藤匠七段よりも一足先に昇級昇段を決めたのは、古賀悠聖五段である。次点2回でのフリークラス入りの新鋭で、佐々木大地七段と似ている。1年で順位戦に参加できるようになって、連続の昇級昇段である。異なるのは順位戦での成績で、2期連続で9勝1敗で連続昇級昇段である。昨日の日付で古賀六段になっている。10月の四段昇段だったので、1年半のフリークラス生活で力を蓄えたと同時に、リーグ戦の重要性が骨身に沁みたのではなかろうか。藤本渚四段や斎藤裕也四段が1期や2期で三段リーグを駆け抜けて順位戦に参加しているが、古賀六段は三段リーグは6期である。四段昇段は伊藤匠七段と同期である。少し回り道をしたが順位戦では並んだのである。9勝1敗の昇級なので、来期は服部、古賀、伊藤の順になる。B級2組でも昇級候補になると思うので順位1枚の差が出るかどうか、今から期待が膨らむ。

 もう一人の服部慎一郎六段についてはもう触れなくともいいかな。順位戦4期目で初の全勝昇級である。順位戦は年明けの3局が大切だと言われている。順位戦1期目は9回戦で敗れて1期抜けを逃している。流石に2期目は昇級できると思われたが、年明け1勝2敗で、次点に泣いた。1期目は8勝2敗の大橋貴洸七段に、2期目は伊藤匠七段に、それぞれ昇級をさらわれた。3期目は昇級はしたものの9回戦で敗れて全勝昇級を逃している。このところ三段リーグを有望株が卒業しているので、実力者と言えどもなかなかC級を突破できないでいる。C級2組の佐々木大地七段や八代弥七段などは最たるものである。C級1組では今期次点の都成竜馬七段や出口若武六段も挙げられるかもしれない。出口六段は昇級した古賀六段や伊藤七段に黒星をつけている。伊藤七段の2敗は古賀六段と出口六段に付けられている。

 最近思うのは師匠の弟子育成術である。まあ有望株が集まるからということもあるのだろうが、関西では森信雄七段門下と井上慶太九段門下が突出している。一時は関東からは四段が誕生しないような状況であった。菅井竜也八段も後進の育成に熱心だそうである。ところが関東では宮田利男八段門下が脚光を浴びている。宮田門下三羽烏のように言われているのが、斎藤明日斗五段、本田奎六段、伊藤匠七段の3人である。以前のような内弟子制度は全く廃止状態らしいので、3人以上有望棋士が出ると何かあるのではと思ってしまう。先日ABEMA地域対抗戦を見ていたら、菅井八段が藤本渚四段に軽口を叩いていた。随分親しそうだと思ったら、兄弟弟子であった。糸谷八段の山崎八段に対する辛辣な声は長い兄弟弟子の間柄から出てくるものであろう。中国・四国チームの監督は糸谷八段でも良かったのではと山崎監督が言っていたのを見たことがある。森門下は棋士に成ってA級まで上り詰めた棋士も多い。古くは亡くなった村山聖九段、山崎八段も、糸谷八段もA級経験者である。新A級には千田翔太八段もいる。A級棋士を4人以上輩出する師匠は珍しいのではなかろうか。今度女流で西山三冠に挑戦するのが決まった大島綾香女流二段も森門下だそうだ。中七海三段は井上門下である。何かあると思うのは穿ち過ぎであろうか。

 順位戦最終戦が続くが楽しみは大きい。豊島九段が7勝2敗で名人挑戦を決めたが、その2敗はいずれもA級陥落の棋士に年明けに付けられたものである。B級1組の陥落者に6勝6敗の棋士が出るかもしれないという。指し分けは陥落はしないという規定はA級だけのものかなと心配になる。それとも過去のものなのか。三段リーグの最終戦も楽しみである。厳しいのが第3者としては面白いのだが、当事者としては理不尽さを感じているのではなかろうか。