第73期王将戦第4局は東京立の「オーベルジュときと」にて開催された。藤井聡太王将は4連勝で王将位を防衛して、初タイトル戦以来無傷の20連勝を飾った。デビュー戦以来無傷の29連勝も凄かったが、さらに上を行く記録である。局後に解説の佐々木勇気八段が語っていたが、「もっと大騒ぎになってもいいのに」と。29連勝の現場に立ち会って、その後30連勝を止めた佐々木勇気八段としては、こちらの記録の方がずっと凄いのにという思いがあったのであろう。しかし当時未知の中学生棋士がデビュー以来の破竹の連勝記録ということで、新鮮だったし、驚愕の出来事だったのであろう。しかし挑戦者の菅井竜也八段には悪いが、藤井聡太王将のタイトル防衛は規定の事実のように映っていたのではなかろうか。もし仮に菅井八段が藤井王将を破っていたら、もっと大騒ぎになったのではないだろうか。打倒藤井は棋王戦の伊藤匠七段に託された訳である。

 先手藤井王将対後手菅井八段戦は藤井王将の居飛車、菅井八段の三間飛車で始まった。角道を止めないで三間に飛車を振った菅井八段に対して、藤井王将は5手目で角交換をした。まるで素人の将棋のように、互いに馬を作りあった両者は1日目の封じ手で飛車交換を選んだ。39手目藤井王将は相手の飛車に自分の飛車をぶつけたのである。菅井八段が40手目を約1時間半の大長考で封じた。AIは藤井王将のやや有利になっていたが、ほぼ互角の局面だったのかな。第2局第3局は1日目で藤井王将がかなり指しやすい形になって、完全に菅井八段を抑え込んだ。第2局などは菅井八段がいつ投げるのだろうかとなった。2日目は苦しい時間が過ぎたが、よく我慢して最後まで指し続けた。本局は藤井王将の1日目序盤の4七銀で一本取った形であった。2枚換えをして見ろと言う手で、素人は喜んで2枚換えを挑んだであろうが、流石に菅井八段は自重した。しかしその後菅井八段に針が振れることはなく、ずっと実らない辛抱を強いられてしまった。2日目は苦しい展開を何とかしようとする菅井八段の手を、藤井王将がことごとく封じてしまった。解説の佐々木勇気八段も言っていたが、「駒得もない段階でこんなに評価値に差がつくのかな」と。1歩得程度で70から80%まで藤井王将に振れることがよくある。両者玉が固くどうやったら攻撃の糸口をつかめるだろうかという感じであったが、

藤井王将の1六飛からは次第に大差になっていった。4六銀が餌だったのかな。3六馬を誘ったと言えるのかな。ここで既に77%を記録していた。こんな局面で藤井王将でなければ圧勝することはできないだろう。あと7五金というのも戦意をへし折る手であった。そこまでするかという感じもした。結局初王手を藤井王将が掛けたところで、菅井八段は投了の意思表示を示した。今までの対局で藤井王将が緩めることはないのはわかっているので、時刻も夕方になっているので投げやすかったのかな。

 菅井八段が色々な戦法を繰り出したが、全部藤井王将に抑え込まれたシリーズであった。振り飛車党は残念であったろうが、これからも高段者の振り飛車は続くのではないだろうか。ずっと連敗続きではあるが、対藤井戦で4勝上げているのである、菅井八段は。解説の佐々木勇気八段は30連勝目を止めたが、その後は連敗続きで2勝目は上げていないのである。強くなったはずであるが佐々木勇気八段でさえ大変なのである。伊藤匠七段は残念ながらまだ対藤井戦は未勝利である。佐々木大地七段はタイトル戦で2勝上げたのは大きく、現在は通算4勝上げている棋士の一人になった。羽生善治九段や広瀬章人九段はタイトル戦で2勝上げたが、通算ではまだ3勝止まりである。本当に勝つのが難しい棋士になってしまった。

 話は変わるが、深夜ネットニュースを見ていたら、千田翔太七段がA級昇級を決めたそうだ。B級1組の順位戦があっていて、千田七段は勝って3敗を守ったが、競争相手の糸谷哲郎八段が羽生九段に敗れて5敗になり、最終局を待たずにA級昇級が決まったそうだ。増田康宏七段が2連敗でA級昇級を足踏みしている間に、先に千田七段が昇級を決めてしまった。8勝3敗同士であるが千田七段が決まったのは順位によるものである。3番手の大橋貴洸七段が7勝4敗だが、順位が千田七段の下増田七段の上にあるのでこういうことになった。最終局は千田七段と大橋七段との昇級昇段をかけた一騎打ちと思っていたが、そうはならなかった。代わりに増田七段と屋敷伸之九段との最終局が昇級と降級をかけた対局になった。増田七段は負けても大橋七段が負ければ昇級できることになっているので確率4分の3である。大橋七段は勝っても増田七段が勝てば次点になる。二人は前期順位戦の最終局に敗れたが、B級1組の昇級を果たしている。千田八段は昇級後の談話で「とB級1組は三段リーグのような気持になった。A級昇級を果たさないと一人前ではないような気がしてきた、9勝3敗で上がれなくて、8勝3敗で最終局を待たずに上がれるなんて不思議ですよね」と語ったそうだ。三段リーグも14勝4敗で上がれなくて、13勝5敗で上がれたりする。やはり三段リーグは四段を生みだすシステムではなく、A級八段や名人を生みだすシステムなんだろう。しかし棋士に成っても食えない時代ではなくなった。単純に新棋士誕生のシステムに改正した方がよいと思う。現在中学生三段が2名いるが、どうやら中学生棋士は無理なようである。10代での四段が難しくなっている。その中で17歳四段が大活躍するわけである。昔だったらA級八段は間違い無しだったのであろうが、今では分からない。16歳四段だった増田七段が苦戦している。

 王将戦は終わったが明日は朝日杯の準決勝、決勝である。果たして藤井竜王名人の2連覇はなるのであろうか。明日2連勝すれば、歴代最高勝率更新もかなり可能性が高くなる。八冠達成の年に最高勝率更新なんて愉快な話である。藤井竜王名人は実家に戻ることなく、東京に滞在するのかな。まあ勝っていれば仕方がないことか。体には気を付けてほしい。