やはり順位戦は面白い。A級は最終局と最終局前の2局が一斉対局になっている。他のクラスは一斉対局が原則である。C級2組は在籍者が多く、2日に分けて対局しているが、しかし最終局は他と同じように一斉対局になっている。俗に言う「味が悪くなる」のを防いでいる。A級順位戦最終局を「将棋界の一番長い日」と称したのはだれだったかな。有名にしたのは米長邦雄永世棋聖と思うが、最初の言い出しっぺは誰だったかな。将棋番記者の誰かだったかもしれない。「日本のいちばん長い日」をもじったものだった。とうとう今では将棋会館ではなく、タイトル戦並の「浮月楼」での対局になっている。

 1月31日、A級順位戦第8局の一斉対局が東西の将棋会館で実施された。豊島将之九段の挑戦者決定があるかもしれないし、広瀬章人九段や斎藤慎太郎八段も陥落が決定するかもしれないという、重要な対局が目白押しである。最初に豊島九段の挑戦者争い相手の菅井竜也八段が敗れた。勝ったのは佐藤天彦九段である。貴重な4勝目を挙げ、陥落の目は無くなったかと思われたが、そうはならなかった。豊島九段は勝てば挑戦者決定となった。相手の斎藤八段は負ければ陥落決定になる。順位1枚の差が1勝の価値があるのが順位戦である。当事者を除けばこれほど面白い対局はない。2勝5敗の斎藤八段は既に連勝しか陥落を免れる術はない。本当に明暗を分ける対局である。しかし順位戦は不利な棋士ほど力を出して勝ち切ることが多い。この日の対局5局も不利な方が勝利した方が4局あった。豊島九段は負けても次の対局に勝てば挑戦決定である。気楽な筈だがそうはならないのが順位戦の面白さである。結果は斎藤八段が逆転勝ちをして、陥落どうかは次の対局に持ち越した。豊島九段は6連勝の後、陥落候補の広瀬九段、斎藤八段に連敗して6勝2敗になったが、依然として単独1位をキープしている。挑戦者決定は最終局に持ち越しになった。

 さてもう一人の陥落候補の広瀬九段は前期藤井竜王と名人挑戦を争い、プレーオフまでもつれ込んだ棋士である。順位2位と有利な条件にもかかわらず1勝5敗と今期は振るわず、陥落ほぼ決定かと思われたが、豊島九段、稲葉陽八段に連勝して、次勝てば陥落を免れるところまできた。3勝5敗が4人になったので、負けても残留の目が出たが、大体こうした時は負けたら駄目ということになることが多い。2勝5敗の二人が勝ち3勝5敗になったことで、4勝4敗の順位下位にも陥落の目が出てしまった。佐藤天天彦九段がそれにあたる。渡辺明九段は中村太地八段に敗れて4勝4敗になり、挑戦者争いから脱落したが、陥落の目は順位1位のお陰でない。佐藤天彦九段は順位8位なので4勝5敗になると、広瀬九段、斎藤八段、稲葉八段が4勝5敗になる可能性があり、順位が上なので陥落するのである。因みに順位8位はよく陥落するのである。昇級者二人が二人とも陥落することも多いが、どちらかと言うと一人は上位に食い込むことが多い。故に8位の棋士が陥落しやすくなるのである。力が落ちてか、調子が悪くてかはわからないが勝ち越せないと、途端に陥落候補になるのがA級順位戦の厳しい所である。A級上位者は挑戦者争いがするが、そうでない者は陥落争いをするので厳しいのだと。陥落確率は2割ではなく、4,5割あるのが常だそうである。

 さて3敗者にも挑戦の目が出て来たわけだが、3敗をキープしたのは、佐々木勇気八段とのライバル決戦を制した永瀬拓矢九段である。稲葉八段に負けた時は挑戦者の目は消えたかと思われたが、他力ではあるが復活した。菅井八段が豊島九段に勝って、自身が最終局の中村八段戦に勝てば三者プレーオフである。佐々木勇気八段は3勝5敗で順位も9位なので最終局勝ってもそのまま残留決定にはならない。広瀬九段、稲葉八段、中村八段の内いずれかが負けてもらわないといけない。

 この形で思い出すのは前期のC級1組の最終戦である。9連勝中の伊藤匠五段は全勝で2期連続昇級なるかであった。昇級はもう疑いようがない事実のように思われた。8勝1敗は3人いたが、一人ぐらい負けるだろうからというのもあったが、まず伊藤五段が負けないだろうという者も多かった。16分の1の確率であるが勝率などを考え合わせるともっと低い筈だった。ところが伊藤五段が負けて、8勝1敗の3人が全員勝ったのである。9勝1敗で4人が並んだが、順位が最下位の伊藤五段が頭ハネを食らってしまった。2敗は1人もいなかった。連続昇級を果たしたのは渡辺和史五段であった。順位2枚の差であった。伊藤五段はその後も腐ることなく大活躍である。タイトル挑戦も果たし順位戦昇級も視野に入っている。

 挑戦も陥落も決まらずにA級順位戦の最終戦を迎えるのは久しぶりの事だそうである。藤井聡太竜王名人の登場で、人気だけでなく実力の方も完全にアップしているようだ。今のところ伊藤七段、永瀬九段、菅井八段が2番手争いをしているようだが、豊島九段、渡辺九段も復活してきそうである。名人3期の実績を持つ大山十五世名人の孫弟子の佐藤天彦九段が振り飛車に転向して復活してきたのは楽しみである。振り飛車党トップの菅井八段が完膚なきまでに叩きのまされつつあるので、振り飛車党復活の為にも頑張ってほしい。しかし大山名人は相手が飛車を振ってきたら喜んで居飛車を指していたそうだ。元来は居飛車党の攻め将棋が大山名人の本来の姿だという人もいる。しかし今でも振り飛車党がアマチュアには多いと思うのだがどうだろうか。いずれにしても2月29日、うるう年なので2月末日は29日になっている。今から楽しみである。