13日14日の両日、朝日杯の1回戦と2回戦が行われた。持ち時間40分と短いせいか、午前中に1回戦2局が同時に行われ、その勝者同士が午後から2回戦を戦うというシステムになっている。1日に2勝できるチャンスにもなっている。

 13日は豊島将之九段対佐々木勇八段、永瀬拓矢九段対高見泰地七段が1回戦の対局である。すでに予選を経ての16人が本選進出であるので豪華メンバーである。因みに前回大会ベスト4やタイトル保持者は本戦からの出場である。佐々木八段と高見七段が予選突破者で、シード組8名と予選突破者8名が1回戦で当たることになっている。シード組2人が勝って、2回戦は永瀬九段対豊島九段になった。永瀬九段が勝ち準決勝一番乗りを果たした。この日の3局はすべて先手が勝った。

 14日は藤井聡太竜王名人対斎藤慎太郎八段、及川拓馬七段対増田康宏七段が1回戦の対局だった。シード組は藤井竜王名人と増田七段で、こちらもシード組が勝った。しかし今回は後手番が両方ともに勝った。A級の斎藤八段は二次予選からの出場で、増田七段は前回ベスト8でシードされていた。前回敗れた相手が藤井竜王名人だった。連続で2回戦での対局になった。前回はあと一息の所で逆転負けを喫した。「詰将棋は意味ない」の発言で有名な、現在A級の最も近い七段である。16歳四段は今までで8名いるそうである。前日の豊島九段や佐々木勇気八段も16歳四段である。中学生棋士を期待された二人である。そして増田七段も16歳四段である。やはり中学生棋士を期待された一人である。高校生棋士も数少ないのである。以前は高校進学しない奨励会員も多かったらしいが、現在では高校進学するのが当たり前になっているらしい。高校進学どころか大学進学も考えるのが当たり前になっているらしい。恐ろしいことだと思っている。同調圧力と言うのかな、同じ事をすることが当然と思う空気が当たり前になっているらしい。おそらく当人よりも親世代が毒されているのだろう。以前17歳で奨励会三段であったものが、奨励会を退会して京都大学医学部に進学した人がいた。名前を憶えていたが、先日アマチュアの大会に出場していた。17歳三段だとその頃は四段になれなかった者はいなかったそうである。惜しいなあという話を同僚の物理の先生にしたら、「良かったじゃないか。医者に成れたのだから」と。あれ、そういうものかなと思った記憶がある。その内、三段リーグで将棋が嫌になる話を聞いたりした。自分が指したい将棋ではなくなるという。勝ちたい勝ちたいが先走って、何のために将棋を指しているのかわからなくなるそうだ。20歳までに初段、26歳までに四段という年齢制限も、何の為の年齢制限かわからなくなってきているようだ。単なる産児制限、既得権限の保護になっているのではないかということである。まあ締め切りがあるので、作品が仕上がるという作家が多数いるそうで、年齢制限があるので努力を余儀なくされる要素もあるという。おそらく経済的事情のためのものが多かったと思う将棋界のルールも、現在では時代錯誤的になってきたものも多いのではないだろうか。三段リーグが廃止されていた時期に四段になった棋士が、その後弱くて全然昇級昇段しなかったとはあまり聞かない。羽生善治九段や谷川浩司十七世名人は確か三段リーグ未経験者ではなかったろうか。羽生世代の前半は佐藤康光九段も森内俊之九段も三段リーグ発足前に四段昇段を果たしている。ちょっと遅れた郷田真隆九段や丸山忠久九段は三段リーグ経験者だが実力十分なために年齢制限なんか関係なかったようだ。郷田四段はタイトルを獲得してしまった。現行のルールでは挑戦者になると昇段になるので四段のタイトル保持者は生まれない。唯一無二の記録になるのだろう。その前は五段でタイトルを獲得した棋士がいる。高橋道雄九段である。花の55年組の一人である。昭和55年度には8人の棋士が誕生した。内5人がタイトル獲得者となった。「花の55年組」と言われるはずである。三段リーグ突破の四段がA級まで昇級昇段するのは年に1人出ればいい方で2人出るのはめったにない。A級昇級者なしというのもざらである。三段リーグが棋士を強くするというのは間違いだと思う。私は結局は「既得権益の保護」になっていると思う。それは若者の夢を潰して実施されていると思う。

 また脱線してしまった。14日の2回戦は藤井竜王名人対増田七段の対戦になった。先手番は藤井竜王名人になった。1回戦2局は後手番勝ちだったので、この日は後手番勝利に日かなと漠然と不安になった。不安は的中しかけた。序盤中盤終盤とほぼ互角で進んだ局面は増田玉が入玉するかどうかになっていた。AIの評価値は入玉できるを示しているようだった。銀2枚と角の交換で入玉を阻止したが、駒損が響いてすぐには有利になれなかったが、気落ちしたのか増田七段の指し手が乱れて来た。角と桂では寄らないだろうと見ていたが、増田七段の攻めをギリギリでかわした藤井竜王名人が角銀で即詰みに打ち取った。9七玉の藤井竜王名人の逃げに、終局後のインタビューで「炎の7番勝負」の終局場面を思い出したかの質問は面白かった。負けたが藤井竜王名人を苦しめたことによって、自信が持てたことを語っていた増田七段の表情が印象的であった。A級昇級昇段まであと1勝に迫っている増田七段の昇級は固いなと感じたものである。彼が語っていたように、藤井竜王名人の技術に追いつくことは出来そうである。問題はメンタルか。苦しそうな局面だったが藤井竜王名人の表情は楽しそうであった。局後の感想戦でも楽しそうであった。「知るは好むに及ばず、好むは楽しむに及ばず」というが、藤井竜王名人は「楽しむ」境地なんだろうなと感じた。