74回三段リーグも中盤を迎え、明暗が分かれつつある。期待の山下数毅三段は1月7日の対局で連敗を喫して5勝5敗の五分になってしまった。残り8局で5敗はきつい。残り8局を全勝すればまだ望みがあるが、このところ1勝4敗である。4勝1敗の時は今期の昇級はあるかもと思ったが、6人目の中学生棋士はまだ先になりそうである。やはり中学2年生で三段リーグを対局しないと難しいかなと思った。昔と違って高校進学が当たり前になると、3年生になると受験が控えているからな。私は古いタイプのせいか、奨励会員には高校受験は必要ないと考えている。一番の伸び盛りの時代に、学校に行っていてどうするかと思う。藤井聡太竜王名人も高校進学しないでいたらもっと早くタイトルも獲得しただろうと思われる。高校進学のメリットを色々言う人がいるが、高校という場所を過大評価している。以前は学校に通わないと、色々な誘惑に負けて、将棋が疎かになるというのが、最大のデメリットであった。高校に通わないと人格形成に破綻をきたしやすいなどと言うのは、言語道断である。高校で人格が歪められた例は山ほどある。しかし残念ながら高校で立派な師に出会ったとか、一生の親友に出会ったというのは、どちらかと言うと稀有な例である。

 小学校入学前の教育学充実している昨今では、義務教育は8年でいいと考えている。小学校は4年制がいい。普通の小学校5,6年生は指導しやしかもしれないが、不良の5,6年生は一人の学級担任の手に余る。学習の面でももう教科担任制にする時期である。TV番組でもやっているが、小学校5年生のレベルは大変高いことがわかる。1人で教えるのには無理がある。誤魔化してしまうしかないのである。生徒も教師も不幸である。どうでもいいようなことにお金や人を使って、肝心の教育改革は一向に進まない。

 脱線してしまった。高校進学を奨励会員に勧める一番の理由は、棋士に成れるかどうか心配だから保険をかけているわけである。学校の成績はいい奨励会員の方が多いので、親はつい進学を勧めたくなる。大学に進学するためには大検を取ればよい。地頭の良い奨励会員は、おそらく1年で大検に合格できるであろう。あまり意味もなく、教室の椅子に座り続けるよりは、余程精神衛生上良いであろう。奨励会員にとっては、東大合格よりは遥かに三段リーグ突破の方が難しいのである。東大将棋部の面々が藤井聡太竜王名人を天才中の天才と認めるのは、その難しさをよく理解しているからであろう。奨励会退会後に東大や京大、医学部などに進学した者はかなりいるはずである。あまり調査して公表しないから。以前のように奨励会退会後、真剣師になるぐらいしか道がなかった頃とはずいぶんと違っている。加藤一二三九段も早稲田などに進学しないでいたら「打倒大山」を果たせたかもしれない。糸谷哲郎八段も大阪大学大学院に進学しなかったら、もっとタイトルを獲得したかもしれない。心身のバランスを取るために必要だったかもしれない。個人のレベルの問題にすると、仮定の話にしかならないので、あまり意味もないのかもしれないが、山下三段で心配するのは、数学の才能が花開いて数学者になるのではないかという心配である。東大生は感じているはずである。「将来ノーベル賞は取れても藤井聡太にはなれない」と。山下三段がノーベル賞を取るほどの数学者に成る可能性がないわけでもないが、残念ながら数学の才能も大体20代半ばまでと言われている。二兎を追う事は出来ないのである。プロ棋士には圧倒的に理系が多い。それも数学に強い棋士が多い。才能の無駄使いと言われるのかもしれないが、山下三段には中学生棋士は無理だったとしても、16歳棋士になってもらって、藤井八冠のライバルになってもらいたい。

 中七海三段も1月7日の対局で連敗を喫して、4勝6敗と負け越した。現在三段リーグ参加者は45名である。四段への確率は22.5倍である。最も昇級しにくいリーグである。福間加奈女流王位は記念対局でハンディはあったが、藤井王位に平手で勝った。西山朋佳女流棋士四冠は今期二つのタイトルに挑戦した佐々木大地七段を破っている。伊藤沙恵女流四段もとうとう横山友紀四段を破った。奨励会有段者でないと難しいかと思われたが、奨励会1級で退会した伊藤女流四段も勝てるようになった。女性の特別枠を設けるかどうかよりも、四段への門戸拡大が急がれるべきかもしれない。